子どもの「声なき声」に耳を澄まそう~特別支援学級に通っていた、ある子との思い出から~
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- 大切なあなたへ花束を

新年度がスタートして、そろそろ1か月が過ぎようとしています。
みなさんは、新しい出会いを楽しんでおられますか?
クラスはそろそろ、少し落ち着かれた頃でしょうか?
皆さんも日々、子どもたちとたくさんコミュニケーションを取られていると思いますが、中には自己主張が苦手だったり、言葉少なに過ごしたりしている子もいるのではないかと思います。
そういった子どもたちの「声なき声」に耳を澄ますことも、私たちにとって、とても大切な仕事だと思います。今回はそんなエピソードです。
【連載】大切なあなたへ花束を #28
執筆/みんなの学校マイスター・宮岡愛子
中学校入学式で思い出す、一人の子
先日、地元の中学校の入学式に、主任児童委員として出席をしました。
いわゆる『地域のおばちゃん』ですね。
時代や場所が変わっても、入学式での子どもたちの様子はほぼ同じ。
少しの緊張感と少しのワクワク感が入り混じっています。
そんな中で、「新入生誓いのことば」が始まりました。
朗々と響くその言葉を聞きながら、私はかつての教え子、直美(仮名)を思い出していました。
「中学校の標準服を着て、小学校に見せに行ったら、小学校の先生方にとてもよく似合っていると言われて、うれしかったです」
これは、中学校の入学式で、新入生代表としてあいさつをした直美の言葉です。
私が校長として着任したとき、直美は小学校4年生。特別支援学級に在籍していました。入学して3年間は特別支援学級に在籍していなかったのですが、4年生に進級するとき、つまり私が着任するほんの少し前に特別支援学級への在籍が決まったのでした。
登校しない日が増えてきたことや、兄が特別支援学級に在籍していること。直美自身も、勉強が難しくなって分からないことが増えてきた、などの様々な理由から、少しでも安心できる場にいられたらと、保護者が願ってのことでした。
特別支援学級は少人数だったこともあり、直美はとても活動的で、たくさんしゃべり、支援級の行事などでリーダーシップを発揮することもありました。
ただ、特別支援学級にいる時間が長くなるにつれ、だんだんと通常学級の友達とのつながりが薄れていきました。通常の教室に戻ったときには、自分の席に座り、じっとしていて、友達から話しかけられても会話が続かず、1人でいることが多くなっていきました。
やがて直美は、特別支援学級に行く時間ではないときに、校長室によく顔を見せるようになりました。
口に出してその理由を言うことはありませんでしたが、直美の態度から、
「通常の学級に行きたくない」
「でも、廊下などにいたら、何か言われるだろう」
「無理やり教室に入れられるかもしれない」
そんな逡巡が伺えました。
直美は特別支援学級に行くようになってから、通常学級に戻ったときに、なんとなく疎外されている雰囲気を感じ、教室で困ったことがあっても周りに言えないような、そんな不安感を持つようになっていったのではないかと察せられました。
時々1人だけ違う扱いを受け、いつもの仲間と違う場所に行かされることがある、そんなことを経験すれば、直美と同じような感覚を誰でも持つでしょう。
私は、直美には
「いつでも校長室に来ていいんだよ」
と話すとともに、この子が安心できるようにするにはどうしたらいいのだろうかと考えていました。
やはり、子どもを分断するのではなく、どの子も同じ教室で学ぶことを通して、子ども同士がつながることのほうが大切であり、健やかな成長には必要なことだと、私は結論を出しました。
そして、直美が5年生になったとき、特別支援教室で分かれて学ぶことを、全校的にやめてしまいました。
初めは戸惑っていましたが、直美が教室にいるときは、まずは安心できるように、隣には、サポーターの先生がついて、一緒に課題をするようにしました。
“落書きする”という「声なき声」
そんなある日のことです。教室の片隅に落書きが見つかりました。
それは「〇〇の本を読め!」という短いものでした。見つけたのは、直美といつも一緒にいるグループの子どもたちでした。放置するわけにもいかず、すぐに消したのですが、その落書きを見つけた子たちが該当する本を読んだところ、何かメッセージが挟まっていたようで、誰かがゲームを仕掛けているんだな、と見つけた子どもたちがうれしそうにしています。
またある日、ポスターの貼ってある下に落書きメッセージがありました。
「こんなん、よう見つけるな」と驚きましたが、まるで探偵ごっこをしているかのように子どもたちは楽しみ、そして落書きは続いていきました。
やがて「⇒」と記号で次のメッセージの場所が大まかに示され、矢印の先には「〇〇を開け」などというヒントが隠され、さらに「⇒」がある…などと言った具合に、どんどん手が混んでいきます。
もう本格的なパズルゲームだね、と私も思わず笑ってしまうほどでした。
仕掛け人は一体誰だろう? 初めは分からなかったのですが、5年の学年担当と話をしている中で、
「どうも、直美がやっているよね」
となりました。直美だけ、1人になる時間があったようなのです。
ゲームで友達と楽しむのは大いに結構ですが、みんなで大切に使う教室に落書きをするのはよくありません。そこで5年の学年担当が、直美にこっそり聞いてみることにしました。
そして直美も、素直に自分が書いていたと認めたのです。
なぜ、こんなことをしたのでしょうか。
直美は直美なりに楽しかったのでした。
自分の仕掛けたゲームに友達が乗って、次のメッセージはどこかと楽しく探している。
「仕掛けたのは誰や?」と盛り上がっている。
——楽しんでいるみんなの中に、自分も一緒に入ることができる。
直美なりに友達とのつながりを感じていたのでしょう。
もしこの落書きがなかったら、自分はまた一人ぼっちになるかもしれない。
そんな怖さや不安感の裏返しとして、直美はこの行動をしていたのです。
自分の気持ちを言葉にして表現することが苦手な子がいます。そういった子どもが言葉の代わりに取る態度は、何を意味しているのか分かりにくいことも、往々にしてあるのです。
このように「ゲーム」という形を取りながらも、はっきりと直美が心の裡を態度にしてくれて、私たちはある意味幸運だったのではないかと思います。
5年の担当は、
「落書きをしたのはよくないことだけど、自分がやったと正直に話して、でもこんな気持ちでやったということを伝えようよ」
と提案し、直美もそれを受け入れました。
そしてうれしいことに、周りの友達は、
「そんなことをしなくても直美は友達やで!」
と伝えてくれました。それを知って安心したのでしょう。ようやく落書きはなくなりました。
イラスト/フジコ

宮岡愛子(みやおか・あいこ)
みんなの学校マイスター
令和7年度あかし教育研修センタースーパーバイザー。社会教育士。私立の小学校教員として教職をスタートするが、後に大阪市の教員となり、38年間務める。教員時代に木村泰子氏と出会い、その後、木村氏の「みんなの学校」に学ぶ。大阪市小学校の校長としての9年間は「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに取り組んだ。現在は、「みんなの学校マイスター」として活動している。
