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「障害のある人が7割」の会社が見出した「認め合う」働き方

2019/9/29

チョークの開発で国内トップクラスのシェアを誇る、日本理化学工業株式会社は、「全社員の7割が障害のある人」というインクルーシブな経営でも知られています。どのようにして今のような企業になったのか、経営者としてどのような思いがあるのか、代表取締役社長の大山隆久さんにお話をうかがいました。

工場で働く社員は、全員が知的障害のある人

障害の有無にかかわらず、誰もが自分らしく働くという働き方は、大切なこととして注目されています。

チョークの開発で、国内トップクラスのシェアを誇る日本理化学工業株式会社は、「全社員の7割が障害のある人」ということでも広く知られている企業です。長くインクルーシブな経営を続けてきていることから、お話をうかがうために神奈川県川崎市にある本社を訪問しました。

「我が社の社員の7割が障害のある人です。さらに、この川崎工場で働くすべての人が知的障害のある人です。我が社のチョークの生産ラインは、彼らが守ってくれているのです」と工場を案内してくださったのは、代表取締役社長の大山隆久さん。

チョークの原料の配合、成型、乾燥、箱詰め、点検、などすべての工程が、本社ビルの隣にある川崎工場で行われています。

大山さんと記者が工場に入ると、姿を見つけた社員の方が「こんにちは!」と笑顔で迎えてくださいました。

養護学校の先生の「働く経験をしてほしい」という願い

―いつごろから、障害者雇用をはじめたのでしょうか?

日本理化学工業株式会社で障害者を雇用しはじめたのは、昭和35年です。父が社長を務めていた頃で、私が生まれる前のことでした。

昭和35年頃の日本では、障害のある人が社会に出るという考え方は、まだ一般的ではなかったそうです。我が社でも、最初から障害者雇用を目的に採用したわけではありませんでした。

―何か、別のきっかけがあったのですか?

近隣の養護学校(現在の特別支援学校)の先生から、相談をうけたことがきっかけです。はじめは、卒業生の就職を考えてもらえないかという相談でした。 しかし、当時の我が社には、責任をもって障害のある人を採用できる環境が整っていなかったため、2回ほどお断りしたそうです。

そうしたところ、3回目にご相談に来てくださった先生から「就職については、(難しいのは)わかりました。しかし、卒業後の子供たちは、実家に戻ったり施設に入ったりして、その後の人生を働くことなく生涯を終えてしまう子供もいます。数日間でよいので、卒業前に子供たちに働く経験をさせてあげたいのです。そのために協力してもらえませんか?」と言われたことがきっかけで、就職を条件とはしないという約束で、職業体験として2週間の実習の機会を提供することにしました。

社員の「採用してあげてほしい」という言葉が後押しに

―はじめての実習が行われたのですね。

職業体験に来たのは、中学生の2人の女の子でした。2人には、箱にシールを貼る仕事をしてもらったそうです。すると、とても一生懸命に作業をしてくれて、休憩のチャイムが鳴っても、誰かが休むように伝えるまで、作業を続けてくれたそうです。

2週間の実習が終わる頃に、社員のうちの何人かが、社長である父のもとにやってきて、「これだけ頑張って働いてくれる人たちだから、どうにかして採用してあげてほしい」と伝えたそうです。父としては予想外の申し出だったようですが、社員たちの「何かできないことがあっても、私たちが責任をもって教えるから」という言葉を聞いて、採用することに決めました。そして、実習に来た2人の女の子たちが卒業後に就職してきたことから、我が社の障害者雇用ははじまったのです。

相手が理解できるように、伝える大切さ

―職場の環境は、どのように整えたのでしょうか?

障害のある人たちと働きはじめると、お互いに考えを理解したり、伝えたりという、コミュニケーションの難しさを感じるようになりました。作業を教える社員のなかには、教える難しさを感じてしまう人も出てきたそうです。

社員同士のコミュニケーションについて、どのようにしたらよいかを考えていた父は、障害のある社員が毎日事故もなく通勤してくる様子を見て、信号について理解できていることに気づきます。そこで、視覚的に理解できるように伝えることにしました。

例えば、チョークの品質チェックで長さを確認する際に、○cmなどという数字や文字では理解が難しくても、「この箱に入る長さであれば、大丈夫です」と伝えると、障害のある人も障害のない人も、間違いなく商品をチェックすることができるようになりました。

また、ベテランの社員になると、品質チェックをひと目で正確に行うことができますが、まれに判断に迷ってしまう場合があります。その場合は判断に迷うものだけを分けておいてもらうようにします。各自の理解や習熟度に合わせて、環境を整えています。

互いに認め合う、という働き方を目指して

―働きやすい環境のためには、何が大切でしょうか?

社長を交代して私の代になってからも、工場で障害のある社員と一緒に作業しながら、時間をかけてお互いに理解していきました。そのなかで大切だと気づいたのは、「互いに認め合う」というシンプルなことでした。

日頃から全社員と共有しているのは、「互いに認め合うためには、受け容れる強さが必要だ」ということです。受け容れる強さは、相手を幸せにする入り口なのではないかと思っています。

障害のある社員には、高い集中力を保ったまま作業ができたり、ほかの人が気づかない違いに気づけたりする能力があります。また、障害のある社員と同じ作業をすることで、作業の難しさを発見することも。このような気づきの積み重ねによって、「この人だからこそ、この仕事はできるのだ」と、お互いに認め合う環境ができあがっていくのだと思います。

さらに、障害の有無にかかわらず、「自分はできる」と自信をもつことや、周りから必要とされることで、喜びを感じながら働ける環境になっていくのではないかと考えています。

我が社には、「日本一強く、優しい会社を目指す」というビジョンがあります。これは、働く人の関係や、商品開発の視点など、すべてに関わる考え方です。これからもこのビジョンを大切にしながら、皆様によい商品をお届けしていきたいと思います。

取材・文/みんなの教育技術編集部

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