連載・山田洋一~保護者との協働:困りごとを共有し、共に支える関係づくり|特別支援教育の視点を取り入れた学級経営術 #9

一人一人の子供の困難さを丁寧に見取った上での指導に定評のある山田洋一先生の連載です。特別支援教育、学びのユニバーサルデザイン(UDL)の視点を取り入れて、どの子にとっても学びやすい学級づくりをしていきましょう。
執筆/北海道公立小学校教諭・山田洋一
目次
はじめに

「授業中、席を離れることが増えています」
「友達とのトラブルが続いています」
「最近、宿題に取り組めていません」
こうしたことを保護者に伝えなければならないことがあります。教師にとって、少し緊張する連絡です。
事実をきちんと伝えたい。家庭でも様子を見てもらいたい。できれば協力してほしい。そんな思いから、教師は一生懸命に説明します。
しかし、伝え方によっては、保護者には、「学校でうまくできていません」「家庭でも何とかしてください」と聞こえてしまうことがあります。
もちろん、教師にそんな意図はありません。それでも、学校から子供の気になる姿を聞けば、不安になる保護者は少なくないでしょう。
学校名がスマートフォンの画面に表示された瞬間、まだ電話に出てもいないのに、緊張してしまうという保護者は多いものです。学校からの電話には、良くも悪くもそんな力があります。
そこで大切にしたいのが、「問題を伝える」のではなく、「子供の困りごとを共有する」という考え方です。
そもそも、教師が保護者と関わる目的は何でしょう? 保護者を指導するためではありません。家庭を変えるためでもありません。あくまでも、子供のためです。
「この子はいま、何に困っているのだろう」
その問いを一緒に考え、子供にとってプラスになる関係をつくること。それが、保護者との協働の出発点です。
評価を伝える前に、「見えた事実」を共有する
例えば、授業中に何度も席を離れる子供がいたとします。こんな伝え方をすることがあります。
「最近、授業中に落ち着きがありません。何度注意しても立ち歩きます。家庭でも話していただけませんか」
事実を伝えているようですが、「落ち着きがない」という言葉には、すでに教師の評価が入っています。そこで、少し伝え方を変えてみます。
「最近、算数の時間に1人で問題を解く時間になると、席を離れることが増えています。でも、友達と相談する時間になると、かなり集中して話しているんです。何か1人で取り組むときに難しさがあるのかなと思っています。家ではどうでしょうか」
こちらは、教師が見た具体的な姿を伝えています。
さらに、「学校ではこう見えています」「でも、理由はまだ分かりません」「一緒に考えてもらえませんか」という余白があります。この余白が大切です。
教師が最初から、「この子は落ち着きがない」「この子はやる気がない」と結論を出してしまえば、保護者は、その評価を受け入れるか反論するかのどちらかになってしまいます。
一方、「プリントを配ると、鉛筆を持つまでに時間がかかります」「説明が始まって5分ほどすると、席を離れることがあります」と事実に戻せば、「家でも宿題を始めるまでに時間がかかります」「好きなことならずっと集中しています」と、保護者から別の情報が出てくるかもしれません。
すると、子供の見え方が変わります。大切なのは、「問題のある子」と捉えることではありません。その行動の背景に、どんな困りごとがあるのかを一緒に探すことです。保護者への連絡は、そのための情報交換でありたいと思います。
保護者に返した言葉は、子供に返っていく

学校から電話が来る。それだけで、少し緊張する保護者もいます。特に、以前にも子供のことで連絡を受けていれば、「今度は何があったのだろう」と考えるでしょう。
そんなとき、まず意識したいのは、保護者に余計なストレスをかけないことです。
なぜなら、保護者とのやり取りは、そこで終わらないからです。教師が、「今日、こんないいことがありました」「友達に、とても優しい声をかけていました」「前よりも、自分から挑戦する姿が増えています」と伝えれば、たいていの保護者はうれしくなります。
そして、その言葉は、「先生が、こんなふうに言っていたよ」と子供に伝わります。
教師から保護者へ渡したプラスの評価が、今度は保護者から子供へ返っていく。これは、とても大きな意味を持ちます。
では、逆に「家でも、もっとしっかり言ってください」「家庭でも練習してください」「家での関わり方を少し見直してもらえませんか」と、こちらの要求ばかり伝えたらどうでしょう。
教師にそのつもりがなくても、保護者の中には、「家のせいだというのか」「私の子育てが間違っていたと言いたいのか」と受け取る人もいるでしょう。
そうなると、保護者は守りに入るか、攻めに転じるかもしれません。
守りに入れば、「あなたは悪くない。先生の見方がおかしいんだ」と子供に伝えるかもしれない。
攻めに転じれば、「あなたは学校で何をしているの」と子供を責めるかもしれない。
どちらに転んでも、子供にとってあまりよいことはありません。前者なら、教師と子供の関係に亀裂が入りやすくなります。後者なら、子供は家庭でも責められ、保護者と子供との関係が悪化することになります。学校でうまくいかず、家に帰っても叱られる。これでは逃げ場がありません。
教師は「家庭にも協力してもらおう」と思って言っただけなのに、結果として教師と子供の関係までぎくしゃくしてしまう。それでは、いったい誰のための連絡だったのか、ということになります。
もちろん、家庭にお願いをすることが必要な場合もあります。ただ、その前に一度考えたいのです。
「この言葉は、家に帰ったあと、どのような言葉になって子供に返っていくだろう」
保護者とのコミュニケーションにおいては、そこまで想像したいと考えています。だから私は、できる限り、子供のよい姿を具体的に伝えるようにしています。それは保護者を機嫌よくさせるためではありません。子供にとって、よい言葉が1つでも多く返っていく可能性をつくるためです。
子供の課題について話す必要があるときにも、「今日はこんなよさも見えました。そのうえで、少し気になっていることがあります」と伝えます。これは、よいことを1つ言ったから、課題を1つ言ってもよい、という話ではありません。
子供の姿を「プラス1、マイナス1」で採点し始めたら、通知表がもう1枚増えるようなものです。1人の子供には、うまくいっている場面もあれば、困っている場面もある。その両方を学校が見ていることを伝えるのです。
そして、できればトラブルが起きたときだけではなく、何も起きていないときにも学校側から伝えたいものです。
「今日、こんないいことがありました」
そんな短い連絡が一度あるだけでも、その後の対話の土台になります。
目指す方向は共有する。でも、同じ対応でなくてもいい
家庭と学校が連携するためには、共通理解が必要です。
「今、この子が何に困っているのか」
「どんな姿を目指していくのか」
ここは、できるだけ共有したいところです。
だからといって、学校と家庭がまったく同じ対応をする必要はありません。
学校は、多くの子供と一緒に生活する場所です。家庭は、子供が緊張をほどき、休む場所でもあります。環境が違えば、子供の姿が違うのは自然なことです。
例えば、学校では何でも自分でやっているのに、家に帰ると、「お母さん、やって」と甘える子がいます。学校では友達と元気に話しているのに、帰宅するとソファに寝転び、ほとんど話さなくなる子もいます。
逆に、家ではよく話すのに、学校ではほとんど発言しない子もいます。
こうしたとき、「学校ではできています。家でもやらせてください」と考えるだけでは、大切な情報を見落とすことがあります。
学校と家庭が同じ対応をすることを連携だと思い込むと、子供は朝から晩まで同じ指導を受けることになります。それでは、家庭まで学校の延長になってしまいます。
学校で頑張っている分、家庭では力を抜いているのかもしれません。家庭では安心して話せるけれど、学校では人前で話すことに大きな緊張があるのかもしれません。
だから、「学校では、こんな姿があります」「家ではどうですか」と、お互いの見えている姿を持ち寄ります。違っていていいのです。むしろ、その違いの中に、その子を理解する手がかりがあります。学校と家庭が同じ側に立つというのは、同じことをするという意味ではありません。子供の困りごとを真ん中に置いて、それぞれの場所から支えることです。
子供の姿を1つ伝えたときに、保護者が「うちでも少し頑張らせてみますね」ということがあります。そんな時は、「いえいえ、学校で頑張っているから、家で甘えているのです。子供なんですから当たり前の姿ですよ。ぜひ、甘えてきたら甘やかしてあげてください。お家を安全な場所、安心できる場所とお子さんは思っているんです。今まで通りで結構ですよ」と伝えるようにします。
教師には教師だから見える姿があります。保護者には保護者だから見える姿があります。どちらか一方だけでは、子供の全体像は分かりません。だからこそ、協働する意味があります。
保護者との話合いの前に、私は4つのことを自分に問い直したいと思っています。
「評価ではなく、子供の事実を伝えようとしているか」
「この子のよさや、うまくいっている場面を中心に見ているか」
「家庭に何とかしてもらうのではなく、一緒に考えようとしているか」
「この言葉は、保護者から子供へ、どんな言葉になって返っていくだろうか」

保護者対応ではなく、保護者との協働――それは、教師と保護者が向かい合って、お互いの正しさを主張することではありません。
同じ方向を向いて、「この子がもう少し安心して過ごすために、何ができるだろう」と一緒に考える。
その関係ができれば、教師から保護者へ渡した言葉も、保護者から子供へ返っていく言葉も、少しずつ変わっていきます。
保護者との関係づくりは、結局のところ、子供との関係づくりでもあるのだと思います。

山田洋一(やまだ・よういち)●北海道公立小学校教諭。1969年北海道札幌市生まれ。教育サークル「人間」共同代表。日本学級経営学会理事。著書は『10代のための人間関係の「ピンチ!」自分で解決マニュアル』(小学館)、『マンガでわかる教育技術 ほめ上手・叱り上手になるための対話術』『クラスを支える愛のある言葉かけ』『「むずかしい学級」対応マップ』(明治図書出版)ほか多数。
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イラスト/イラストAC
