菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #16 「標準期」における成長は、子供の主体性にかかっている <後編>
タックマンモデルをベースにした「学級の成長4段階」理論に基づき論を進めてきた本連載。今回は、成長の第3段階「標準期」において学級を大きく成長させる、係活動の指導について提案します。
目次
係活動は、自治的活動の最たるもの
前回、「学級の成長4段階」の「混乱期」を乗り越え、「標準期」を迎える大きなポイントは、
①教室の掲示物と②子供の自治的な活動の二つであることを述べました。
今回は、②子供の自治的な活動についてお話ししたいと思います。
教室で、日常的に子供の自治的な活動を促すのは係活動です。
これまで、子供の自治的な活動の最たるものが係活動であることは様々な場で述べてきました。
なぜなら、係活動の本当の意味を理解していない教師が多いからです。
全国各地の学校を参観すると、どこの教室でも係活動の掲示物が貼られています。
ところが「黒板消し係」や「プリント配り係」など、「係活動」と「当番」を混同している学級が少なくないように感じます。
係活動は、学級のために役立つ仕事を自分で見つける活動のはずです。つまり、子供自身が自ら動く、自治的な活動なのです。
当番のような係を割り当てられても、そこに子供らしさは発揮されません。
「当番」と混同しないよう、低学年なら、「お店やさん活動」、中学年は「〇〇会社」、高学年は「〇〇サークル」「〇〇同好会」等、呼び方を変えてもいいでしょう。
係活動の基本は、一人一人が考え、実行すること。ですから、起点は「一人」です。同じような活動をしたい子がいたならば集まって話し合い、一つの係にまとめればいいのです。
また、係としては一人でも、イベントなど人手がいるときは、他の子が“ヘルプ”や“アルバイト”で自由に手伝えばいいのです。
フラットな関係にすることで、子供たちはどんどん積極的に係活動にかかわるようになっていきます。
例えば、かつて担任した学級のA君は、1年間ずっと「生き物係」を担当しました。「生き物係」と言っても、最初は「トカゲ係」でした。
彼はこだわりが強い子で、トカゲに執着していたことから、前年までは「変わった子」というレッテルが貼られていました。
生き物係になったA君は、「みんなにトカゲのことを知ってもらいたい」と、トカゲの特徴や飼い方を一生懸命紹介していました。みんなが少しずつトカゲに関心を持つようになると、「自分も学級に受け入れられた」という安心感をもち、トカゲだけではなく、他の生き物も紹介するようになりました。
修学旅行の移動中には、レクリエーションで世界の怪魚クイズを出し、みんなに大ウケしたA君はとてもうれしそうでした。
学級集団の質を高める三つの経験を、係活動で学ぶ
学級集団の質を高めていくためには、次の三つの経験が必要になります。
①誰かと何かを対話・議論する経験
②誰かに何かを提案する経験
③みんなを巻き込んで活動する経験
この三つの経験を積むことで、子供たちの自治的な活動の質は高まっていきます。係活動は、三つの経験を学ぶことができる大切な機会です。
とはいえ、最初から子供たちにすべて任せても、うまくいくわけがありません。教師は子供たちの様子を見ながら、要所要所でサポートしていくことが必要です。
ある女子グループは「ダンス係」を結成し、さっそく1学期にダンス大会を開催しました。
係主導でぐいぐい引っ張っていこうとしましたが、誰もがダンスが得意なわけではありません。鬼ごっこやドッジボールに比べ、“ダンスの壁”はなかなか高いのです。
元々ダンスを習っていた彼女たちにとっては簡単な動きも、未経験の子たちにとっては難しく、主催者と参加者の熱意の差が大きくなりすぎ、内輪ウケの失敗に終わりました。
一度失敗すると、再度挑戦する意欲をもつまでには時間がかかります。だからといって必要以上に慰めることや、無理矢理奮い立たせようとすることは、反発を招くだけです。
1学期の終業式が終わり、学校近くのコンビニエンスストアで休憩(と言う名の一服です・笑)をしていたら、下校してきたダンス係の子たちと目が合いました。そこで私がダンス大会の振り付けで踊ってみせると、彼女たちも笑いながら、踊り返してくれました。
「先生は認めてくれていたんだ!」と感じてくれたのでしょう。俄然やる気を出したダンス係は、2学期に再びダンス大会を開催することにしました。
私が出した条件は、次の二つだけです。
●みんなが楽しめること
●決められた時間を守ること
ダンス係はいくつかのグループに分かれ、各グループが丁寧に振り付けを教えました。
最初は恥ずかしがっていた子も少しずつ参加し、休み時間になると音楽に合わせて踊る姿が見られました。
ダンス係はその後、「達成期」を迎えた3学期にはさらに加速し、バージョンアップした「ダンスバトル大会」を開催しました。
「自分たちが楽しむ」視点から、「みんなが楽しむ」視点に変わったことで、ダンス係はみんなを巻き込むことができたのです。
「形成期」「混乱期」と「標準期」「達成期」の大きな違いは、子供たちの人間関係がグループ(群れ)からチーム(集団)になり、教師の介入が少なくなっていくことです。
教師が何も考えず、1学期と同じようなかかわりを続けていたら、子供たちの自治的な活動は伸びません。
教師は、常に子供たちの成長を見ながら、どうかかわっていけばいいかを見極めなければならないのです。
取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴
Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。
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