菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #12 学級の「混乱期」をどう乗り越えるか <後編>
「学級集団づくりの混乱期」を経て子供たちを成長させるために重要な二つのキーワード、「きく(聴く+聞く)力」と「成功体験」。いかにして「きく力」を伸ばし、一人一人の「成功体験」を保障するのか。具体的な指導について提案します。
目次
対話力を育てる二つのキーポイント
前回、「混乱期」を乗り越えるためには、“本当の学力”に必要な「対話力」を育てることが必須であることを述べました。 「対話力」を育てるためには、次の二つの指導がキーポイントになります。
●きく(聴く+聞く)力
●成功体験
きく力については、私が提唱してきたコミュニケーションの二つの公式を元に考えていきたいと思います。
①コミュニケーション力=(内容+声+表情・態度)× 相手軸
②対話力=話すこと × 聞くこと
①の「相手軸」とは、相手を思う気持ち、相手の気持ちを読もうとする気持ちです。
どんなに素晴らしい内容であっても、どんなに引きつける話し方(技術)であっても、相手軸に立っていなければ、相手の心に届きません。
相手軸とは、相手を受け入れる “受容” なのです。そうした気持ちを示す上では、言葉として表れない非言語の要素が大きな役割を担っています。
②は、対話をするとき、話すことと聞くことが最大数になるかけ算の組み合わせを示しています。
AとBの二人のうち、Aが一方的に話しているだけの対話なら、A:10 × B:0で答えは0、Bも少しは話していたならA:9 × B:1で9。
反対に、Bが一方的に話しているならA:0×B:10で、答えは0です。
この式の答えが最大値になるのは、AとBが話している比率が5:5のとき。
つまり、お互いが同じくらいの割合で話す・聞くことにより最大値になるということです。
国語の授業で話し合いをする際、多くの場合「話す」ことの指導に重点が置かれ、そのほとんどが発表内容など言語活動の指導に充てられています。そこに、「相手の話をちゃんと聞く」が加わりますが、「ちゃんと」の中身は、「静かに」「相手の目を見る」程度のものです。
「話す力」に比べて、「きく力」は、目に見えにくいため、指導も曖昧になりやすいのです。
「きく力」の指導、九つの視点
私は、「きく力」を授業の中で次のように指導していきたいと考えています。
1 上機嫌な聞き方をしよう
●笑顔
●うなずき
●あいづち
●前かがみ
●のけぞり
●手を打つ
2 リアクションしよう
「笑顔」にプラス
●拍手
●感嘆詞
●立ち上がる
●合いの手
3 学び合うための学習規律を身に付けよう
●やる気の姿勢
●切り替えスピード
●正対する
●音を消す
4 グランドルールをつくろう
●何を言ってもいい
●否定的な態度で聞かない
●話せなくても聞こう
●知識よりも経験を話そう
●問いかけ合おう
●分からなくなってもいい
●意見が変わってもいい
5 聞き比べることを意識しよう
●〇〇さんの意見は?
●違う意見の人は?
●共通していた言葉は?
6 聞いて、「あっ!」と反応しよう
●あっ!思い出した!
●あっ!思いついた!
●あっ!なぜ?
7 フォローし合う聞き方をしよう
●〇〇さんが言いたいことは?
●〇〇さんが悩んでいることは?
●〇〇さんが言ったことをペアで確認しよう
8 「聴く」と「聞く」の両方しよう
●内容だけではなく気持ちを聞こう
●声や表情や仕草から伝わったことは?
●不可聴と聞く、不可視と見る
9 自己内対話をしよう
●他者と対象内容と自分との三つの対話をしよう
●自分の中での白熱対話も大切にしよう
●考え続ける自分を育てよう
これら九つの指導は、二つの公式が根底にあってこそ成立します。
自分の意見と反する意見を含め、いろいろな意見を出し合いながら、答えを見つけ出していく正反合の話し合いに、「きく力」は必須なのです。
小さな成功体験を積み重ねる
混乱期を経て学級が一つにまとまり、一人一人が自分らしさを発揮できる標準期に向かうためには、成功体験が欠かせません。
気が合う仲間、座席順の班、給食や掃除当番など、学級にはいくつもグループがあります。一人の子が複数のグループに属しているわけです。こうしたグループ(群れ)をチーム(集団)に育てていくことが必要です。
そのために欠かせないのが、成功体験です。
例えば、係活動の場面では、自分が書いた学級新聞をみんなが読んでくれた、集会を開催したらみんなが喜んでくれた。
授業の場面では、みんなの前で発表したら大きな拍手をしてくれた、友達と意見交換をしたら、「それ、すごくいいね。私もその意見に変えようかな」と言ってくれた。
学級活動の場面では、黒板を拭いていたら手伝ってくれた、「ほめ言葉のシャワー」で自分のいいところを見つけてくれた……。
教室には、小さな成功体験がたくさんあります。教師はそういう小さな成功を見逃さずにほめましょう。一度ほめたから、「もうこの子は大丈夫」ということはありません。いろいろな場面でいいところを見つけて、さらにほめることが大切です。
こうした成功体験が積み重なることで、子供たちは自分に自信を持ち、周りの子にも目を向けるようになっていきます。子供たち同士で成功体験を認め合う中で、お互いを認め合う集団に育っていくのです。
「きく力」と「成功体験」を通して、子供たちの対話は深まり、関係性がつながっていきます。
「自分はもちろん、みんなで成長していきたい」というベクトルに子供たちが向いたとき、混乱期の出口が見えてくるはずです。
取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴
Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。
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