取材記者がいつも感じる強烈なジレンマとは?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話①】

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全国「授業実践レポート」 取材こぼれ話
取材記者がいつも感じる強烈なジレンマとは?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話①】

全国での取材校数900に及ぶ「教育技術」担当記者が、取材時の学校現場で見聞きした、先生方の役に立つ、ちょっとしたネタを披露します。

取材者は子供にとって「学習阻害要因」?

私は「教育技術」誌の取材に携わり始めてから、もう25年ほどになります。その間、北は北海道から南は九州、沖縄まですべての都道府県で、毎年、何十校かの授業取材、学校取材をさせていただきました。その取材を行うたびに、「ああ、授業ってこういうものなのか」「学校教育にはこんな可能性もあるのか」と多くの学びを得てきたつもりです。

同時に、多様な研究者の先生方にお話を伺うことも数多く行ってきました。そこで得た理論と現場の実践とがつながって見えると、また新たな教育の世界が広がって見えてきました。

今回、T編集長から「“みんなの教育技術”で連載を始めよう」というお話をいただいたときには、そのような取材の場で得た感動を記事にしたいとお話ししました。すると、「いや、むしろ記事には書けなかった取材の裏話のほうがおもしろいのでは」とのこと。結果的に、その通りの連載を行うことになりました。

裏話となると、時には「これってどうなんだろう?」という、現場の課題についても触れることがあるでしょう。その際、当該の学校や先生方にご迷惑をおかけしないよう、話のよし悪しに関わらず、個人のお名前や学校名は記さないことにしました。

ただし、そのお話の裏にある、教育的な意味については、しっかり伝わるような記事にしたいと思っています。どうか、読者の先生方には、仕事の合間の息抜きがてらに読んでいただき、教育について再考するきっかけにしていただければ幸いです。

おもしろい授業なら、子供は戻っていく

初回となる今回は、冒頭で触れたT編集長と授業取材に行き始めた頃のことについて、お話をしたいと思います。

T編集長は今から20年ほど前に、教育編集室に異動になってきました。彼は現場の取材が好きで、その後、何度も共に学校取材を行い、多くの授業を見てきました。その取材先で授業を見るたびに、T編集長と私の間で、自然に出てくるようになった言葉があります。それは「学習阻害要因」です。

取材先は全国に名を知られるような有名研究校の場合もありますが、全く取材自体を受けたことがないという場合もあります。そうした学校の状況によって、授業中の子供の様子に大きな違いがあるのです。

有名研究校の子供たちは、年間に数多くの研修会や研究会を行うため、来訪者に慣れています。そのため、我々が授業に入っていっても、子供たちは一瞥をくれる程度で、授業中、カメラを向けたところであまり気にしないのです。

ところが、来訪者に慣れていない学校の教室に入っていくと、事前に担任の先生から知らされていた子供たちは、「取材が来た!」と興奮し始めます。やがて授業が始まり、私が教室の横前方から子供たちにカメラを向けると、カメラを持つ私のほうをずっと気にしていたり、時にはピースサインをする子までいたりします。

まさに我々取材者が、子供たちの学習の邪魔になっているということで、「我々は学習阻害要因」というわけです。

そのため、事前に自己紹介のお時間をいただいたときには、「みなさんが一生懸命勉強をしている姿を取材に来たので、カメラを見たり、ピースをしたりしている子は絶対に写真に撮りません」と説明することも珍しくありません。特に低学年の取材では、こちらから先生にお願いして、そのような話をさせていただくこともあります。それでも、カメラを見ている子はゼロにはならないのですが。

授業に入った当初は、発言者よりカメラが気になる子もいます。

ただ「我々が学習阻害要因である」と気付くとともに、やがて分かったのは、多くの場合、子供たちは放っておいても次第に授業に戻っていくということです。私たち取材者への興味はそう長くは続かないのです。

考えてみれば当然のことですよね。カメラを向けているだけで、それ以上に何か特別なことをするわけでもないおじさんは、ずっと見続けているほどおもしろいものではないのですから。そのため、多くの場合は、友達と新しいことを学ぶことのほうがおもしろくなって、授業に戻っていくわけです。

しかし、学習がおもしろくなってくるとカメラを気にする子はいなくなります。

逆に言えば、取材のおじさんたちをずっと気にしている子が複数いる授業があれば、それはなんらかの問題がある授業ということになります。学習材との出合い方が子供たちの興味に合致していなかったのか、学習課題の設定に無理があったのか、先生の発問や指示が理解しづらかったのか、その問題点は授業ごとに異なるでしょう。しかし、いずれにしても学ぶ子供たちにとって、大しておもしろくないはずのおじさんのほうがおもしろいと感じられるような、問題点のある授業だったということです(とはいえ、授業開始時点における学習阻害要因であることには間違いないのですが)。

もちろん、認知上の強い偏りがある子供が、慣れた教室の中で、異質なおじさんを気にし続けるという場合もないとは言えません。しかし、その割合はわずかで、あまり気にする必要はないと実感してきました。

実は、この話が「授業の見方」に関わってくるのですが…長くなったので、次号、ある研究会での取材の裏話と関係付けながらお話ししてみたいと思います。

研修会授業の有効な見方は、これっ!【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話②】はこちらです。

執筆/矢ノ浦勝之

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