取材依頼の際、「何時間か、見に来られませんか?」とのご返事の意味とは?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㊲】

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全国「授業実践レポート」 取材こぼれ話
取材依頼の際、「何時間か、見に来られませんか?」とのご返事の意味とは?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㊲】

授業取材を依頼したときの、先生方のちょっとした変化

これまで、私は数多くの授業を拝見してきました。そのなかには、学校経営の取材で伺ったときに、せっかくだからとお願いをして、記事にしない前提で授業を拝見したものも多々あります。あるいは取材とまったく関係なく、「見に来ませんか?」と声をかけていただくこともたまにあったりしました。しかし今回は、「授業取材」をお願いしたときに最近感じた、とある変化について話をしてみたいと思います。

現行学習指導要領が告示されて以降の新しい流れ

まず、ざっと授業取材の流れについて触れておきたいと思います。2021年度末までは、「教育技術」の各学年誌がありましたから、まずは各誌の編集企画に沿って、例えば「全国授業名人の授業紹介」ならば、各自治体の授業名人のなかから学年誌の学年に該当する子供たちを担任している(あるいはその学年の授業も担当している)先生に、授業取材のお願いをするわけです。例えば、低学年誌ならば低学年の授業名人を探すわけで、その地域の優秀な管理職や指導主事の先生から、「あの先生の授業はいいよ」とご推薦をいただいても、残念なことにその年度に低学年を担任していないとか授業をされていないとなれば、「ではまた年度を改めてお願いいたします」となるわけです。

うまく当該学年で授業をされていたとしても、たまには「本当に多忙で…」と、残念ながらお断りをいただく場合もあります。ただ多くの場合は、「せっかくの機会ですから」と快くお引き受けくださいます。そこから取材希望の時期に合わせて、「その時期までの内容だったら、この単元とこの単元があるけれども、どちらがいいですか?」と聞いてくださる場合もありますし、「取材に良いところを考えてみて、ご連絡します」と言ってくださる場合もあります。いずれにしても、その先生の授業の良さを伝えるのに適当な場面を考えて、指定してくださることが大半です。

しかしなかには「どんな場面が見たいですか?」と、聞いてこられる場合もあります。こうしたお答えは、特に現行の学習指導要領が告示されて以降聞かれるようになってきたと感じています。そうすると、だいたい次のように返事をしていました。「中央教育審議会教育課程部会のA先生は、告示直後の取材で、『端的に言えば思考力の育成が重要だ』とおっしゃっていました。やはり、子供たちの思考が大きく変容する場面であればありがたいです」と。そうすると、単元のなかからそういう場面を選んで、後日、取材日を指定してくださるわけです。

現行学習指導要領が告示される以前になかったお答えとして、もっと極端なものは、「何時間か、見に来られませんか?」というものです。これは2017年春の告示以前には、一度もなかったことだと記憶しています。ちなみに、こうしたお答えをいただいたときには、首都圏から遠い自治体であれば、「すみません。取材経費の関係もあるので、何とか1度でお願いできませんか」と返事をさせていただきます。微妙なのは首都圏の先生の場合で、そういうときには、「私が足を運んで授業を拝見することはやぶさかではありません。ただし誌面のボリュームの都合がありますので(多少、単元内の前後の内容に触れることはできますが)、紹介する授業は1時間でお願いします」と返事をさせていただきました。

もちろん、取材の数全体から見れば、そのようなことは少数ではあります。いろいろ思いを巡らせますと、なかには本当は「何時間か、見に来られませんか?」と言いたかったのだけれど、「地方への取材を何度もというのは無理だろうな」と最初から考えてくださった場合もあったかもしれません。あるいは、取材の企画を知っておられたり、そうではなくても「教育技術」誌を読まれたことがあったり、愛読者だったりして、「授業取材が複数時間紹介されることはないしなぁ」と思って、無理には言われなかったことがあったのかもしれません。いずれにしても、これは現行学習指導要領が告示されて以降の新しい流れということなのです。

授業研究会のあり方も少し変わっていく必要がある?

このような声が聞かれるようになったのは、考えてみればごく当然のことなのでしょう。以前の記事でも触れたことがあると思いますが、学習指導要領の総則の第3の1の⑴には、3つの資質・能力が偏りなく育まれるよう、「単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら、児童の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うこと」とあるからです。つまり資質・能力は、単元などの内容や時間のまとまりを見通して育むものですから、その過程を見て紹介してほしいと思われるのは当然のことですよね。そのような先生方が、学習指導要領が実施になる少し前から出てきておられたことは、本当にすばらしいことだと思います。

算数・数学のように1単位時間での変容(成長)が見とりやすい教科もある。それでも、ベテランの先生方が何名も、「子供の成長はなだらかな坂ではなく階段のように突然ステージを上がったりする」というように、やはり単元などを通して見ていく必要があるのではないだろうか。

そう考えてみると現在、一般的に見られる授業研究会のあり方も少し変わっていく必要があるのかもしれません。少なくとも私が知る限りは今も、1時間単位で授業を拝見して協議を行うものがほとんどだと思います。しかし、目標とするものが資質・能力の育成で、その資質・能力は単元などの内容や時間のまとまりを通して育むのだとしたら、理想的には全単元の授業を見る必要があるし、1時間の授業について適切な協議を行うには事前の授業も見ておくことが必要なのではないかという気もしてくるのです。

もちろん全国の先生方は非常にご多忙ですし、担任する子供たちもいるわけですから何時間も教室を空けられないのは当然のことだと思います。そのために、詳細な単元計画などが資料として添付されていることも重々承知しています。しかし紙に記された計画ではなく、実際の子供の姿にまさる資料はないはずだとも思うのです。

そうした授業研究会の改善方法については、ICTを活用すればいくつかの方法が考えられるような気がします。しかし、それについて私の思い付きのアイディアを書くと、「門外漢だからそんなことを平気で言う」「そんなに先生方の負担を増やせません」とお叱りをいただきそうなので、ここでは余計なことを書くのはやめておきます。

ただ、先のように学習指導要領実施前から授業改善の方向性をしっかりと自分なりに整理されている優秀な先生方は全国にいらっしゃるわけですから、もしかしたら、授業研究会の新たな方法を考えておられる先生方がいらっしゃるのではないでしょうか。そう思いながら、楽しみに取材を続けていきたいと思っています。

「若い先生の視野の狭さ」が気になる【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㊳】はこちらです。

執筆/矢ノ浦勝之

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