「キャリア教育」に関して、子供たちに話をしました【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㉜】

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全国「授業実践レポート」 取材こぼれ話
「キャリア教育」に関して、子供たちに話をしました【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㉜】

子供たちに話したこととは?

私はこれまで学校取材を長く続けている間に、秋田県関連の書籍も出させていただいたり、学習指導要領の改訂過程の取材を担当していた関係上、過去、何度か地方の教育委員会に招かれ、秋田県の教育や学習指導要領について先生方にお話をさせていただいたりしたことがあります。それに対し、子供たちに話をする機会はなかったのですが、たった1度だけ、数年前に子供たちに向けて話す機会をいただいたことがありました。今回はそのときに子供たちに話したことと、子供たちから受けた質問に対する答えについてお話しします。

「なんていい学級だろうか。学ぶってこういうことだよな」

まだ10年にはなりませんが、以前、とある学校に取材の依頼をしたときのことです。その学校には別件で1度取材をお願いしたことがあったのですが、急遽、書籍関連の取材でご依頼の電話を入れたところ、校長先生が「せっかくなので、取材の日にある6年生のキャリア教育の時間に、お仕事について話をしてもらえませんか? この地域では、あなたのような仕事をされている方も少ないので、子供たちにとってよい機会になると思うのです」との依頼を受けました。そういう機会が過去になかったため、少々不安はありましたが、このご依頼を断って取材だけお願いするというのも心苦しいので、お受けすることにしました。

そこで、何を話そうか考えたのですが、すぐに一つだけ話のネタが思い浮かびました。それは、その学校での以前の取材時に見た授業が、とても楽しくすてきな授業だったのです。そのときの取材は、学校経営全般に関わる取材だったのですが、とてもサービス精神の旺盛な校長先生で、まずご自身で話をされた後、研究主任と教務主任の先生がお手すきになるまでの間、「授業を見ませんか?」と全学年の教室を案内してくださったのです。

以前にも書きましたが、私は正直言って、短時間でバタバタと複数の授業を見るよりも、1時間じっくりと一つの授業を見るほうが好きなのです。しかし、校長先生に「案内しましょう」と言われると嫌だとは言えません。そこで、校長先生に案内されるまま教室を見て回ったのですが、5年生の教室で足が止まりました。

ちょうど算数の時間で、「1.8リットルが360円のジュースがあります。このジュースは1リットルいくらですか」という、小数のわり算の学習をしているところでした。すでに教室に着いたときには、この問題を各自が解いた後で、わられる数とわる数を10倍しても答えは変わらないので、3600÷18=200で、200円という答えを出している子供たちと、わられる数とわる数の両方を10倍して計算した後、かけ算と同様に両方に10をかけたから100でわって2円としている子供たちが対話をしていました。というよりも、私が教室に入ったときには、すでに大半の子供たちがわる数とわられる数の両方を10倍しても答えは変わらないということに気付いており、ほぼ一人の子供だけが納得できないと主張していたところだったのです。

その子供は、「わる数とわられる数をそれぞれ10倍して計算したら、かけ算の学習と同じようにかけた分を割る必要があるから…」と自分の考えを主張します。それに対して、「0.18リットルが36円だったときに…」と桁を変えて説明する子供が出てきたりしますが、その説明はただ桁を変えただけで、わる数とわられる数をそれぞれ等倍することと解の関係を説明できているわけではないため、その子は納得できません。しかし多数の子供たちが言葉を変えて、熱心に説明しようとする姿を見て、「やっぱり、そうなのかな。みんなも言ってるし…」と、納得はできていない様子ながら、他の子供たちの熱意に流されていきそうになります。

すると担任の先生が、「そうかな。私、~さんの考え方、分かるよ。だって、かけ算でやったもんね」と、あえて間違えている子供の考え方に同調します。すると、その子は「そうだよね…」と言った後で、「僕だって、ジュースが1リットル2円になることなんてないって思ってるんだよ。だけど、計算すると2円になっちゃうんだよ~」と、頭を抱えるような姿勢で叫んだのです。それを見ていたほかの子供たちは、なんとかその友達を納得させたいと思い、さらに方法や言葉を選んで説明を続けていきます。残念ながら、校長先生が「別の学年に行きましょう」と言われたため、私が見たのはそこまででした。しかし、間違って悩んでいる自分を安心して自己開示できるその子供と、それを笑うことなく、いっそう説明に力を入れるほかの子供たちの姿に、「ああ、なんていい学級だろうか。学ぶってこういうことだよな」と思ったのでした。

上手な文章の書き方と間違いの修正

実際のキャリア教育の時間では、45分間を与えられたので、ざっと30分程度話をして、15分ほどは質問を受け付けることにしました。そして、30分の話ではざっと取材や原稿書き、入稿、その後の編集者やデザイナーといった関係者との仕事上のやりとりなどを説明。さらに、仕事の対象となる教育関連の内容に触れた後で、以前この学校で見たすてきな授業として、先の授業の様子を話したのです。そのうえで、「分からないということが正直に言える子がいて、周囲の子もそれを笑わず、一生懸命説明しようとする学級は、学びの場として本当にすばらしい」ということを力説しました。そして(これは以前も触れましたが)、「哺乳類の脳の学習は、排除法の誤差学習で、間違いを排除して誤差を修正しながら学習していくこと」などを説明し、「学級全体で間違いを修正していこうとするこの学級の姿こそ、本当の学びの姿です」「間違いを修正する過程にこそ学びがあります」と私の信念を話しました。

安心して間違えられたり、分からないことを言えたりする教室にこそ本当の学びがある。
安心して間違えられたり、分からないことを言えたりする教室にこそ本当の学びがある。

その後、質問を受け付けたのですが、ある子供から、「自分は作文を書くのが苦手なのですが、文章を上手に書けるようになるにはどうしたらいいですか? コツはありますか?」という質問を受けました。それはまさに何年も前に小さな会社を経営している叔父からも受けたことのある質問でしたから、そのときと同様に、ざっと次のように答えたのです。

「私自身、小学校のときには、夏休みの作文をお母さんに書いてもらうほど文章を書くのが苦手だったのです。それでも、今は文章を書いてご飯を食べているわけですから、どんな人でも必ず書き慣れれば上手になると信じています。ただ、自分自身をふり返ってもそうなのですが、文章を書くのが苦手な人ほど、最初からよい文章を書こうと思う傾向があるように思います。しかし、文章を書き慣れない人が最初からよい文章を書くのはとても大変なことなので、時間がかかるばかりでかえって文章を書くことができません。当然ですが、書き慣れていかないと文章はうまくなりません。ですから、まずは人に言葉で説明するつもりで、話し言葉そのままでよいので、書いてみるのです。そうやって、下手でもよいから基になる文章ができたところで、それを読みながら話の内容や順番を整理したり、書き言葉に直したりしていけばよいのです。そうやって何回も文章を書いていると、次第に文章を書くのが上手になると思いますよ」

すると質問してくれた子供が、「『修正する過程にこそ学びがある』というお話と同じですね」と言ってくれたのです。「そうですね」と思わず笑顔で応えました。

おそらくおもしろくはないだろうなと思いながら話した、教育関係の話だったのですが、ちゃんと聞いて理解をしてくれていて、しかも自分の質問への答えとつなげて理解をしてくれていることに、とてもうれしくなったのでした。そして、こんな子供たちと日々を過ごし、成長に関わっていく教師という仕事は本当にすばらしい仕事だと再認識しました。

「すばらしい」ずくめの研究授業は、はたしてよい授業?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㉝】はこちらです。

執筆/矢ノ浦勝之

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