教科として求められる力の育成と自力的、自律的に学ぶ力の育成は両立できる【全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり! 第6回】

全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり! 第6回
タイトル

前回、新潟県佐渡市立新穂小学校の椎井慎太郎教頭が、自力的、自律的な子供を育てるために、個別最適な学びのある(かつ協働的な学びとのバランスの取れた)単元・授業づくりを行う理由について紹介しました。そこで今回は、実際に個別最適な学びのある単元の事例について話を伺います。

椎井慎太郎教頭
新潟県佐渡市立新穂小学校の椎井慎太郎教頭。

事例地の複線化、学習のめあての複線化、学習の方法の複線化を意識

椎井教頭は個別最適な学びを、個々が学びの内容や方法などを自由に選択する「複線型」の学びと呼びます。その上で、個別最適な学びと協働的な学びや一斉授業の学びなどのバランスの取れた単元を「単線と複線のある単元」とし、その実践事例を紹介してくれました。

「今回紹介するのは、私が6年生の『日本とつながりの深い国々』で行った単元の実践例です。この単元は学年の最後に近い単元なのですが、教科書通りに進めていくと、いくつかの国を指定通り順番に学んでいくようになっています。つまりずっと単線の授業で、『今日は中国について学ぶよ』『今日は韓国だよ』『今日はアメリカね』となるわけです。しかし、6年間の最後でそのような学びに終始してしまうのはもったいないと思い、複線型の学びを取り入れた単元構成にしたいと考えました(資料1参照)。

【資料1】

資料1

ただし、『好きな国を好きなように調べましょう』というのでは、めざす社会科の資質・能力を育むことはできません。やはり社会科の学びとしての視点(社会的な見方・考え方)を押さえることが重要です。ですから、この単元では、1時間目を一斉授業として進め、生成AIを活用して日本とつながりの深い国について尋ねた結果を示し、それらを参考にしながら、子供たちが調べていく上での視点を整理していきました(資料2参照)。ちなみにこの単元の実例で言えば、『貿易』『スポーツ』『食』『文化』『学校生活・習慣』の視点を押さえることになります(資料3参照)。

【資料2】

資料2

【資料3】

資料3

この視点をしっかり押さえた上で、『じゃあ、どの国を調べたい?』と各自に選択させ、さらに『じゃあ、その国について何から調べていく?』と、どの視点について調べるかという、その授業における学習のめあてを各自が明確にした上で、個別の追究を進めていくようにしていきました。事例地を複線化すること、学習のめあてを複線化すること、学習の方法を複線化することを意識して単元を進めていったわけです。なお、このときには視点ごとに色分けして枠組みをつくってあげることで、苦手な子供たちも迷わずに個別最適な学びを進めていけるようにしました。

ちなみに学習の複線化を図るときには、何を複線化し、子供自身に決定させるのかという対象は、大きく5つ考えられると思います。『学習のめあて』『学習の方法』『学習の資料』『学習の事例地』『学習活動の場』がそれですが、この実践の場合は『学習の事例地』(=どの国について調べるか)、『学習のめあて』(=どの視点について調べるか)、『学習の方法』(=調べ方、まとめ方)について子供たちに委ねました(資料4参照)」

【資料4】

資料4

授業や単元づくりの上で、めざす子供の姿をちゃんともつことが大事

このように単元の2時間目以降、複線化された個別最適な学びを進めた上で椎井教頭は、早期に当初の対象国について調べ終えた子(約3割)は、2つ目の国を選択して調べ学習を進めさせたと言います。そして、6時間目以降、各自が調べたことを共有してワークシートにまとめ、それぞれの学習問題に対する、自分なりの結論を考えていきました。さらに最後の授業時間には、異なる文化や習慣をもつ世界の人々と共に生きる上で、自分たちにできることについて考えていきました。実際にこうした単元を実施した成果について、椎井教頭は次のように説明します。

「当然、自分が調べている国に対しては詳しく調べ、理解していくわけですが、6、7時間目に調べていない他国のことについても共有していく場面では、まとめシートを配付し、整理して書き込ませるようにしました(資料5参照)。子供たちは『自分が調べたアメリカとはこんなに違うんだ!』と、比較の思考を働かせながら整理をしていました。また、このときには日本との相違点や共通点についても聞いているので、比較、関連、総合という社会科が求める大事な思考(社会的な見方・考え方)を働かせながら、整理ができていたと思います。

ただ調べて終わりでは、活動あって学びなしになってしまう危険があります。ですから、比較したり、関連付けたり、総合したりするというような社会科らしい思考を働かせて、日本とのつながりを捉えるようにするわけです。

【資料5】

資料5

こうした単元の学びを進めていく過程では、子供たちの主体的に学習に取り組む態度と技能を探るためのルーブリックも作成し、『今、この子の学びはこの9つのゾーンのどこに入るのだろうか』と探りながら声をかけたり、学びの様子を見とったりしていました(資料6参照)。この方法で、どれくらいの子供がA1のゾーンに入るだろうかと思いながら、一人一人の学びを探っていたわけです。

【資料6】

資料6

私の評価と並行し、子供たち一人一人には毎時、ふり返りを書かせていました。『自分の問いは解決できた?』といった学習内容のふり返りと、『自分の追究の方法はどうだった?』という学習方法の2点についてふり返らせたのです(資料7参照)。これは5年の授業などでも触れましたが、学び方についてもメタ認知しながら、自分の学び方や自己調整力をより強固にしていくための手法として行っていました」

このような単元構成によって、まず1国(もしくは2国)に絞って、日本との関係や比較などについて調べ、構造的に理解します。その上で、友達の調査結果を聞きながら他の国についても学びを整理していくことで、より深く理解するとともに、確かな記憶として残っていくことになります。

【資料7】

資料7

最後に、このような単元づくりをしていく上で、特に大事にしていることについて椎井教頭に聞きました。

「授業や単元をつくる上で、めざす子供の姿をちゃんともつことが大事だと思います。個別最適な学びのある授業を公開すると、『このような授業で、本当に社会科の教科教育としての、“知識及び技能” や “思考力・判断力・表現力等” は大丈夫なのですか?』と質問を受けることがあります。端的に言えば、『学習内容や学習方法を子供に委ねるというのは分かるけど、それでテストの点数はちゃんと取れるの?』ということです。

その気持ちは確かに分かりますが、私は、めざす子供の姿を明確に描いていれば、教科として求められる力の育成と同時に、自力的、自律的に学ぶ力の育成の両立はできると思っています。実際に先の単元の例で言えば、すべての子供がめざす力のB基準、2基準以上にはありました。つまり教科教育で大事にしたいことも身に付けた上で、個別最適な学びを通して、自力的、自律的に学べる子供を育てることはできるということです。ですから多くの先生方に、『ぜひ子供たちの力を信じて個別最適な学びのある授業・単元づくりに取り組んでみてください』と伝えたいと思っています。

さらに言えば、社会科という教科全体を通して育てたい子供の姿を明確に描きながら、個別最適な学びのある授業・単元づくりを図ることで、より良い社会の形成者となる人を育てることが可能になるのだと私は考えています(資料8参照)」

【資料8】

資料8

【全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり!】次回は、5月3日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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