「部活動ガイドライン」とは?【知っておきたい教育用語】

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日本ではこれまで長く、部活動は学校単位で行われてきました。日本の教育文化ともいえるものです。その部活動が今岐路に立っています。今回は、新たな部活動の形をめざす「部活動ガイドライン(学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン)」について解説します。

執筆/創価大学大学院教職研究科教授・宮崎猛

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部活動ガイドラインとは

部活動は、教師の仕事(業務)としての位置づけが明確ではありませんでした。しかし学校教育の一環として行われていることから、教師が担わざるを得ない状況が続いてきました。

中等教育、とりわけ中学校での部活動は教員の大きな負担となっており、部活動指導の過重負担は「ブラック部活動」とも言われることがあります。一方で部活動に魅力を感じる教師も少なくありません。しかし、どのような状況にあっても、部活動の担当は教師の長時間労働の原因となってきました。授業が終わるとすぐに部活動の指導に赴くことになるため、授業準備や様々な校務は部活動後に行わざるを得ないからです。

そういった多忙な教員の仕事を見直す機運が高まっている現状とともに、少子化の影響で部活動を一つの学校だけで担うことが難しい状況も生まれてきました。そこで、新たな部活動の形をめざす、部活動ガイドラインが策定されたのです。

ガイドライン策定の背景

スポーツ庁と文化庁は、令和4(2022)年「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を策定しました。このガイドラインは、平成30(2018)年に両庁がそれぞれ策定した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」(スポーツ庁)、「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」(文化庁)を統合した上で全面的に改定したものとなっています。

ガイドラインの前文では、これまで学校の運動部活動が日本のスポーツ振興を支えてきたことを評価しています。具体的には以下のように述べられています。

「体力や技能の向上を図る目的以外にも、異年齢との交流の中で、生徒同士や生徒と教師等との好ましい人間関係の構築を図り、学習意欲の向上や自己肯定感、責任感、連帯感の涵養に資するなど、学校という環境における生徒の自主的で多様な学びの場として、教育的意義を有してきた」

スポーツ庁、文化庁(PDF)「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」令和4年12月

その一方で、課題として「少子化が進展する中、運動部活動を従前と同様の体制で運営することは難しくなってきており、学校や地域によっては存続が厳しい状況にある」として抜本的な改革に取り組む必要があることを指摘しています。

ガイドライン策定の趣旨

ガイドライン策定の趣旨としては以下の3つが示されています。

〇少子化が進む中、将来にわたり生徒がスポーツ・文化芸術活動に継続して親しむことができる機会を確保するため、速やかに部活動改革に取り組む必要。その際、生徒の自主的で多様な学びの場であった部活動の教育的意義を継承・発展させ、新しい価値が創出されるようにすることが重要。
〇令和4年夏に取りまとめられた部活動の地域移行に関する検討会議の提言を踏まえ、平成30年に策定した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」及び「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を統合した上で全面的に改定。これにより、学校部活動の適正な運営や効率的・効果的な活動の在り方とともに、新たな地域クラブ活動を整備するために必要な対応について、国の考え方を提示。
〇部活動の地域移行に当たっては、「地域の子供たちは、学校を含めた地域で育てる。」という意識の下、生徒の望ましい成長を保障できるよう、地域の持続可能で多様な環境を一体的に整備。地域の実情に応じ生徒のスポーツ・文化芸術活動の最適化を図り、体験格差を解消することが重要。

スポーツ庁、文化庁(PDF)「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン【概要】」令和4年12月

3つの趣旨にもあるように、部活動の地域移行は従前の学校部活動の形をそのままに外部の団体や地域のクラブに移行するというものではありません。

従来の学校部活動の良かった面を引き継ぎつつ、少子化や学校の働き方改革にも対応した、新たな部活動の形を模索するためのガイドラインであることに留意しておきましょう。

ガイドラインの概要

では、新たな部活動の形を見いだすために、どのようなことを重点的に整備していくべきなのか。「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン【概要】」から、主な取組内容について一部抜粋して4つの柱を紹介します。

Ⅰ 学校部活動

・教師の部活動への関与について、法令等に基づき業務改善や勤務管理
・部活動指導員や外部指導者を確保
・心身の健康管理・事故防止の徹底、体罰・ハラスメントの根絶の徹底
・週当たり2日以上の休養日の設定(平日1日、週末1日)
・部活動に強制的に加入させることがないようにする
・地方公共団体等は、スポーツ・文化芸術団体との連携や保護者等の協力の下、学校と地域が協働・融合した形での環境整備を進める

Ⅱ 新たな地域クラブ活動

・地域クラブ活動の運営団体・実施主体の整備充実
・地域スポーツ・文化振興担当部署や学校担当部署、関係団体、学校等の関係者を集めた協議会などの体制の整備
・指導者資格等による質の高い指導者の確保と、都道府県等による人材バンクの整備、意欲ある教師等の円滑な兼職兼業
・競技志向の活動だけでなく、複数の運動種目・文化芸術分野など、生徒の志向等に適したプログラムの確保
・休日のみ活動をする場合も、原則として1日の休養日を設定
・公共施設を地域クラブ活動で使用する際の負担軽減・円滑な利用促進
・困窮家庭への支援

Ⅲ 学校部活動の地域連携や地域クラブ活動への移行に向けた環境整備

・まずは休日における地域の環境の整備を着実に推進
・平日の環境整備はできるところから取り組み、休日の取組の進捗状況等を検証し、更なる改革を推進
・①市区町村が運営団体となる体制や、②地域の多様な運営団体が取り組む体制など、段階的な体制の整備を進める
  ※地域クラブ活動が困難な場合、合同部活動の導入や、部活動指導員等により機会を確保
・令和5年度から令和7年度までの3年間を改革推進期間として地域連携・地域移行に取り組みつつ、地域の実情に応じて可能な限り早期の実現を目指す
・都道府県及び市区町村は、方針・取組内容・スケジュール等を周知

Ⅳ 大会等の在り方の見直し
・大会参加資格を、地域クラブ活動の会員等も参加できるよう見直し
  ※日本中体連は令和5年度から大会への参加を承認、その着実な実施
・できるだけ教師が引率しない体制の整備、運営に係る適正な人員確保
・全国大会の在り方の見直し(開催回数の精選、複数の活動を経験したい生徒等のニーズに対応した機会を設ける等)

*Ⅰは中学生を主な対象とし、高校生も原則適用。Ⅱ~Ⅳは公立中学校の生徒を主な対象とし、高校や私学は実情に応じて取り組むことが望ましい。

スポーツ庁、文化庁(PDF)「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン【概要】」令和4年12月

部活動の地域移行にあたっては、自治体ごとにその地域の実情に応じた移行を段階的に整備していく必要があります。

先進事例としては、東京都渋谷区で「渋谷ユナイテッド」という一般社団法人を設立し、新たな部活動の設置および外部指導員の派遣による部活動支援を行っています。少子化の影響に対策するだけでなく、教員の業務負担にも配慮した包括的な内容となっています。

今後も少子化は、さらに進むものと予想されています。中長期的には学校単位での活動から一定規模の地域単位での活動も視野に入れた体制の構築が求められています。

▼参考資料
スポーツ庁、文化庁(PDF)「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン【概要】」令和4年12月
スポーツ庁、文化庁(PDF)「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」令和4年12月
スポーツ庁(PDF)「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」平成30年3月
小学館(ウェブサイト)「部活動の地域移行」が教員の働き方改革を加速させる【連続企画「学校の働き方改革」その現在地と未来 #06】」令和5年8月30日

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