【木村泰子の「学びは楽しい」#26】学びの主語は子ども

連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

子どもたちが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載の第26回目。今回は、新年度のスタートを切った先生方に、木村先生がある学校での授業を通して得たかけがえのない学びについてお伝えします。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】

執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

【木村泰子の「学びは楽しい」#26】学びの主語は子ども イメージラスト
イラスト/石川えりこ

なりたい自分になるために学ぶ

新たな1年がスタートしましたね。春は新たな出会いがあり、新たな自分をアップデートできるスタートラインに立ちます。過去は1ミリも変えることはできませんが、今の瞬間から1秒先は未来です。未来は何とでもつくることができる。その未来をつくるのは自分です。自分がつくる自分の未来です。ゾクゾクしませんか。

これが学びです。子どもの場合も一緒で、学ぶのは子ども自身です。なりたい自分になるために子どもが学ぶのです。子どもが30人いれば30通りのなりたい自分が学校にあります。先生が「あなたはこうすればなりたい自分になれますよ」なんて教えることができますか? 算数の問題が分からないという子どもに解答の仕方を教えることはできます。この「教える」というかかわりを、子どもが学校で学ぶ「目的」と勘違いしてはいけないですよね。

今年度のテーマ

そこで、今年度のテーマは「学びの主語は子ども」です。1年間を通してこのテーマをみなさんといっしょに問い続けませんか。正解なんてありません。正解を持っているのは目の前の一人一人の子どもです。だからこそ、正解のない問いを問い続けることが、未来の学校づくりには不可欠です。

このWEB版「学びは楽しい」のコーナーも、始まってから3年目になります。この間、社会は激変しています。さて、学校は社会のニーズを先取りしてどのように変わったでしょうか。

この瞬間にも子どもの「自殺」「いじめ」「不登校」過去最多が続いています。今回の原稿を書くにあたって2022年のWEB版第1号を読み返しました。第1号のテーマは、“「学び」とは何ですか?”の問いから始まっていました。

そこから、今回は第26号です。毎回、このコーナーを書くにあたり、私自身が「今を大切に」進化し続けないと書けないと言い聞かせてきました。そんな中で、先日、かけがえのない学びを得ました。

岐阜県本巣市での1年生との体育の授業

本巣市に講演に行った時のことです。講演前に控室で本巣市教育委員会の川治教育長と野原課長と3人で話したのですが、初対面なのに3人とも「体育」が専門とのことで、体育の授業の話で盛り上がってしまいました。私が、「1年生の体育の授業が小学校での学びを方向づけるくらいの意味を持つ」と言ったのがきっかけで、本巣市の小学校の1年生の授業をさせていただくことになったのです。

乗りで「やりたい」と言ったものの、学校現場を離れて8年もたちます。大空小では9年間、体育の授業は先生たちと一緒に行っていました。ところが、現場を去ってからは、道徳など飛び込みでの授業をする機会はいただいていますが、さすがに、体育の授業は初めてです。(体が動くだろうか? 今を生きる子どもたちに私が授業して通用するだろうか……)など、不安になり、「授業をやりたい」と言わなければよかったなどと弱気になったときに、はたと我に返ったのです。悪しき教える先生になっている自分、見せる授業を意識している自分など、これだけ「学びは楽しい」のコーナーで「授業観」の転換をと伝えているにもかかわらず、残念な自分に気づいたのです。人は気づいたら自分を変えればいい!

そこからは、初めて出会う1年生の子どもたちと授業をして自分がアップデートできることを楽しもうと気持ちをチェンジしました。

そして喜んで飛んで行ったその日、体育館にはなんと120人ほどの先生たちが授業を参観するために集まっていたのです。さすがに、(しまった!帰りたい!)と思った瞬間にチャイムが鳴り、授業が始まりました。すると、もうそんな邪心はみじんもなくなり、その後は1年生の子どもと45分間動き回りました。やっぱり、体育の授業は最高に楽しい。今も昔も変わらないと再認識しました。

学ぶのは子どもで、子ども同士が学び合うきっかけを与えるのが授業者の役割です。そして、授業研究の目的は子どもの事実から何を学ぶかです。本巣市の先生方は、目の前の子どもたちの動きから多くのことを学ばれ、自分事とし、その感想を送ってくださいました。すべての先生方が明日からの自分の授業を「主語は子ども」の視点で問い直しをされていて、学校の未来はまんざらでもない、必ず今の子どもの残念な「過去最多」の事実は「0」にできる、と確信しました。

すべての先生方の言葉を紹介できないのは残念ですが、ある先生の感想から学びたいと思います。

1時間の授業があっという間で、子どもたちと一緒に最初から最後まで楽しんでいる自分がいました。運動量はもちろん、運動が得意不得意関係なくすべての児童が自ら動きを考えたり、さらにレベルアップした動きに挑戦したり、仲間とかかわりあったりする瞬間がいつもありました。

それは活動内容の工夫はもちろんですが、子どもたちに対する「かかわり方」や「働きかけ」に特に学ぶことがありました。

テーマが「石」であったときに「動かしてみよう」と声かけをすることで本当に石のように身体を固くしようという思考が働いたり、「ワニがきてね……」と場面を想定させることでその場面を思い浮かべながら必死に身体を動かしたり、「ワニ」から逃れるために仲間にアドバイスしたりする姿が生まれたりしていました。

また、ジェスチャーだけで次どうするといいのか、これも子どもたちに考えさせる働きかけだと思いました。そして、常に「褒める」ことで子どもたちは次の意欲につながりテンポよく次の活動がスタート。子どもたちがどんどんやりたい、もっとやりたいと思う「かかわり方」や「働きかけ」の工夫がたくさん詰まった授業でした。

私も授業観を問い直し、子どもたちの主体性や学習意欲の高まりを感じていますが、「学力をつけたい」という願いがまだ先行してしまっていてこの方法が果たしていいのだろうか、結局は「指示」に従っているのではないかと、今日さらに考える視点が増えたところです。 
 
今の現場はまだ「指示・号令・命令」にあふれています。これまでの教育の形を変えていくことには勇気がいることでもあると思います。でも、今、自分が少しずつ変え始めていることに今後も挑戦を続けていきたいと強く思いました。自分自身の「変えていく」戸惑いと、私も含め、これまでの教育からなかなか脱却できない現状を少しでも変えていけるように、まずは小さな一歩から挑戦し、働きかけていきたいと思いました。

本巣市の先生方、ありがとうございました。

〇未来をつくるのは自分。学校の目的は、子どもたち自身が、未来をつくるために、なりたい自分になり、学ぶことである。
〇学びの主語は子どもで、正解を持っているのは目の前の一人一人の子ども。正解のない問いを問い続けることが、未来の学校づくりには不可欠である。
〇学ぶのは子どもで、子ども同士が学び合うきっかけを与えるのが授業者の役割。目の前の子どもの事実から何を学ぶかが、授業研究の目的である。

 【関連記事はコチラ】
【木村泰子の「学びは楽しい」#25】人のせいにしない学びの環境をつくろう
【木村泰子の「学びは楽しい」#24】排除する前に「どうすればできるか」を見つけませんか
【木村泰子の「学びは楽しい」#23】すべての子どもの命を守るために

※木村泰子先生へのメッセージを募集しております。 エッセイへのご感想、教職に関して感じている悩み、木村先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら、下記よりお寄せください(アンケートフォームに移ります)。

 

木村泰子先生

きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました