研究授業に熱心すぎた弊害【連載小説 教師の小骨物語 #13】

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目の前の子供たちを大切に、ありのままを見せる研究授業に

研究授業は、成功すればさらに欲が出て、「もっと良い授業をしなくては!」と思ってしまう。僕はいつしか大切なことを見失っていたのだ。

他校で盛り上がった授業が、自分のクラスではしら~っとして盛り上がらないのを感じていたのに、まだ外を向いていた。自分にとって大切なのは目の前の子供たちなのに……。

研究授業で見せるべきは子供たちの成長だったはずが、自分の優れた授業、自分の良いところを見せることがモチベーションになっていたかもしれない。そして、子供たちはそんな僕の“目的”を感じ取って、「はいはい、先生に協力しますよ」というスタンスになっていたのだ。

その後も、子供たちから壮絶な反抗を浴び続けた。

確かに、このクラスを担任したときから、「しっかりした6年生に育てよう」と厳しくしすぎた面もあった。目の前の子供たちのありのままを受け入れるより、レベルを引き上げようと叱ってばかりいた。

いろいろな後悔が押し寄せてきた。それからは出張を少なくして、子供たちの心に寄り添う努力はしたが、いったん離れてしまった心を取り戻すのは最後まで難しかった。結局その1年は取り返しがつかなかったのだ。

そんな苦い経験をしてから、僕は変わった。研究授業のために、事前の指導に躍起になったり、掲示物を作ったりしなくなった。

自分(自分のクラス)を良く見せようとしても無駄だ。結局の所、ありのままの自分で、目の前の子供たちに相対するしかないのだ。少しずつ失敗も笑えるようになった。叱ることも減り、まず、「みんなどう思う?」と聞けるようにもなった。

もう、目の前の子供たちから離れない。

取材・文/谷口のりこ  イラスト/ふわこういちろう

『教育技術』2020年9月号より

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