子供たちとの距離の取り方 ~連載小説「教師の小骨物語」 #8

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新米でもベテランでも、教師をしていると誰でも一つや二つは、「喉に詰まっている”小骨”のような」忘れられない思い出があります。それは、楽しいことばかりではなく、むしろ「あのときどうすればよかったの?」という苦い後悔や失敗など。そんな実話を取材して物語化して(登場人物はすべて仮名)、みんなで考えていく連載企画です。

8本目 最初が肝心!単に仲良しとは違う子供たちとの距離の取り方

自分が教えた子供たちが大人になったとき、「あの先生のクラスは楽しかったな」「あのときの先生の言葉が、いまの自分の糧になっている」などと思い出してもらえるような教師になることを夢見て、僕(新田賢治、現在教師3年目)は教職の道を選んだ。

基礎学力を身に付けさせることはもちろん大切だが、きらきらした思い出をいっぱい作ってあげたい。そんな夢は教師2年目にして早くも打ち砕かれた。

5年生を担任した当初は、とくに問題もなく毎日楽しかった。1学期の運動会も、2学期の音楽発表会も上手くいった。

ところが、2学期後半あたりから、一人、二人とコントロールが効かない子が増えていった。いま振り返ってみれば、子供たちが訴えてきたことを解決しないまま、“流してしまった”ことが積み重なったのだと後悔している。

例えば、電気係になった祥平くん。移動教室のときなど、最後に電灯を消す係なのだが、僕はつい無意識に消してしまっていた。

「先生に仕事を取られた」

祥平くんはいじけてしまった。

「ごめん。いつも頑張ってくれているのにね」

そう謝りながらも、その後もつい自分で消してしまった。精神的にちょっと幼い祥平くんは、落ち込んで、泣いてしまうこともあった。それに対して何度も謝ったが、祥平くんとの関係は修復できなかった。

それから、彼は僕の言うことを聞かなくなって、授業中に立ち歩きをするようになってしまった。

もう一人、まったく僕の言うことを聞かなくなってしまった優斗くん。

2学期までは勉強は苦手だが、ちゃんと席について発言もしていた。ところが、ある日、同じ班になった優等生タイプの女子に「ブタって言われた!」と訴えてきた。

「聞き間違いじゃないの?」

「絶対に言った! なんで信じてくれないの?」

一応確認してみて、「言ってないそうだよ」と優斗くんに伝えた。

今思えば、その女の子への印象から言うはずもないと勝手に決めつけてしまい、まずは優斗くんの訴えを受け入れることをしなかった僕の失態だ。真相は闇の中だが、事実はどうあれ彼は僕に何か解決してほしいことがあったのかもしれない。でも、当時の僕は優斗くんの気持を深く考えず、そのまま“流した”。我ながらひどい教師だと思う。そして、優斗くんは少しずつ反抗しはじめた。

こんなふうに、“引っ掛かり”がある子が増えていった。一人の小さな反抗なら何とかなったかもしれないが、いくつかの反抗の流れが合わさって大きな流れになってしまうと、もうその勢いを止めることはできなかった。

言動に矛盾がある教師は、子供になめられる!

子供たちとの距離の取り方は難しい。とくに新人教師は「仲良くしよう」と思うあまりの失敗が起こりがちのように思う。教師として信頼されることと仲良くなる事は違うのに・・・。

担任になったばかりの頃、休み時間になると女子が僕を取り囲んでからかってきたものだ。

「かわいい筆箱、使ってるね。どこで買うの?」

「先生、彼女いるの~?」

ため口で話されても、注意なんてしなかった。ふざけた質問には、こちらもつい調子に乗ってふざけて答えていた。

厳しく叱らなければいけない場面も、その場の雰囲気が悪くなるのを避けて、「まぁ、いいか」と流してしまうことも度々あった。

だから、僕が叱って子供たちがシーンとしてしまうような場面もなく、一見、“先生と子供たちの距離が近い”楽しそうなクラスだった。

だが、それは間違っていた。子供たちは僕の甘さを本能で見抜き、「なめてよい先生」と判断した。僕のことをなめて、好き勝手にする子がクラスの4分の1ぐらいになると、もうコントロールできない。真面目に授業を受けていた子たちも息を潜めてしまう。

ついには、自分の手に負えず、教頭先生や手の空いている先生に助けてもらう場面も増えてきた。隣のクラスはベテラン女性教師だったが、彼女が来ると、たちまち立ち歩いてる子も掃除をさぼっている子もビシッと態度を変えた。

そのことが本当に悔しかった。情けなかった。僕は完全になめられていたのだ。

ベテラン教師と新人教師で違う子供の反応

僕とベテラン女性教師と何が違っていたかというと、彼女は指導に筋が通っており、何か問題が起これば、一つ一つその場で解決していた。

「今の言葉を聞いて、みんなどう?」

厳しい口調で、妥協せずに指導していた。

それに比べ、ぼくの指導はメリハリがなかった。「だめ」と言ったことを守らない子がいても、許してしまっていた。

なめられないためには、自分の言ったことを実行しなくては! 子供たちは、約束を守らない教師を信頼しない。

例えば、体育でサッカーの説明をしているとき、「話の途中でボールを3回触ったら取り上げる」と言ったからには、約束を破ったら本当に取り上げる。今では有言実行している。

一旦、甘く見られてしまったら、威厳を回復するのは難しい。自分の至らなかった点が分かっても、その年度が終わるまで子供たちとの関係性は大きくは変えられない。

すべての反省点は、今のクラスの指導に生かしている。

取材・文/谷口のりこ  イラスト/ふわこういちろう

『教育技術』2020年10月号より

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