【緊急提言】堀田龍也「学校教育の情報化を止めているのは何か」

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東京学芸大学教職大学院・教授

堀田龍也

文部科学省中央教育審議会等でICT教育政策を牽引してきた東北大学大学院・堀田龍也教授による論文「急速に進展する情報社会とこれからの学校教育」(教育技術MOOK『PC1人1台時代の 間違えない学校ICT』小学館,2020)を特別公開します。

堀田龍也

堀田龍也(ほりた・たつや)●東北大学大学院情報科学研究科教授。文部科学省参与を5年間併任。中央教育審議会にて新学習指導要領におけるICT関連の策定にかかわる。「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議」座長。

急速に進展する情報社会とこれからの学校教育

小学校では、2020年度から本格実施される新しい学習指導要領。これには、史上初めて前文がつけられました。ここには、「社会の多様化・持続可能な社会の実現・社会に開かれた教育課程」といったキーワードを使って、学校教育の進むべき道が示されています。

端的に言えば、「社会が変わっているのだから、学校教育も変わらなければならない」ということです。このことについて、主に教育の情報化や情報活用能力の育成といった視点から、できるだけ具体的にお話ししたいと思います。

社会構造の急激な変化

世界的には人口爆発による問題が懸念されている一方で、日本では少子高齢化人口減少社会を迎えています。少子高齢化は、先進国では珍しくない傾向であるものの、それがかなりのスピードで進行しているのが日本の特徴です。社会構造を早急に変更しなければなりません。

しかし、今の日本をリードしている人たちは、主に前の東京オリンピック(1964年)前後に生まれた人たちです。人口がどんどん増え、経済が拡大していく社会に生きてきました。その感覚がなかなか変えられません。

しかし、従来のやり方では、早晩行き詰まります。思いつきで新しいことをやろうとしても、うまくいきません。そもそも従業員が集まらないのですから。

テクノロジーの進展などによって、多くの仕事がなくなる一方で、新しい仕事が増えています。実際、証券業界では、システム化によって大いに人員が減りました。また近年では、法人登記のときに使われる、日本標準産業分類に当てはまらない業種が増えていると聞きます。これから小学校で学ぶ子たちは、こうした傾向がさらに進んだ社会に生きるわけです。学校教育も、これまで通りでよいはずはありません。

産業の情報化というと、GAFA(*1)と呼ばれる、アメリカ発のIT企業ばかりがクローズアップされます。しかし、変化しているのは、そうした企業だけではありません。多くの産業が情報技術によって大きく変わろうとしています。それはもちろん、わが国においても同様です。

*1 GAFA……アメリカの多国籍企業でコンピュータやソフトウェアを駆使し、ネット空間で支配的な立場を確立した会社のこと。具体的にはGoogle・Amazon・Facebook・Apple を指す。

たとえば農業。

農業は生産人口がいち早く減少しました。今はGPSを利用して、農業用機械が無人で稼働するというようなことが行われています。トラクターがセンチメートル単位で制御され、自動で耕し、コンバインが無人で刈り取る、といったようなことが現実になっているのです。

農薬散布もドローンで行う、ということが一般的になってきました。効率的かつ正確に撒ける上に、薬剤の量が少なくでき、コストダウンにもつながるそうです。こうした事例は、水産業や林業においても起きています。

銀行も同様です。

昭和の時代に登場したATMが、入出金に関わる人員を減らしたことはご存じの方も多いことでしょう。しかし今、消費税の増税をきっかけに、政府は電子決済の普及に舵を切りました。今後、現金の流通量がどんどん減っていくでしょう。ATMは、どんどん消えようとしています。電子マネーの普及がこのまま増えれば、やがてなくなるはずです。

こうしたとき「仕事がなくなるぞ、どうしよう」と考えるのは、生産的ではありません。歴史を振り返れば、なくなってきた仕事は山ほどあります。考えるべきことは、「銀行とは何をする仕事なのか」という、仕事の本質を捉え直し、銀行員たる資質・能力とは何かを考えることです。

情報技術の進展が否応なく進む今、私たちは、その技術を見極め、社会に役立つためには、どのような知識を身につけ、ふるまうべきかを考えなければならない岐路に立っているのです。

変わってきた教育界の状況

教育界も、こうした動きと無関係ではいられません。

たとえば国立大学法人。国からの運営交付金は、毎年1%減らされています。これからの大学は、よい研究をするのはもちろん、それを世間に認められて、お金を集めていく、ということが求められているのです。子どもの数が減っていることもあり、これを毎年、さらに進めていかないと生き残っていけません。教育界も、すでにそういう時代になっているのです。

今のところ、公立学校の先生は終身雇用の中で生きていますから、社会の変化に気づきにくい部分があります。しかし、先生がいつまで公務員でいられるのかわかりません。大学が急速に変わっていった状況を考えると、学校も今後、変わっていく可能性があります。

さきほど、急速に変化する銀行のことを述べました。かつて、入社したら一生安泰といわれていた銀行も、この頃は人を減らそうとしています。学校だけが不変と考える方が不自然です。

こうした時代だからこそ、「学校は何をするところなのか」を、今一度問い直さねばなりません。その議論は、学校改革のスタート地点になるはずです。そうした議論が、今までされてこなかった最大の原因は、学校が情報化されていないからだと思います。

今流行の「働き方改革」にしても、テクノロジーがほとんど入っていないところで成果を上げようとしても、どうしても無理があります。人がやるべきこととテクノロジーがやるべきことを分けて、要・不要を洗い出し、業務を効率化させることができないからです。

たとえ情報機器が入っていたとしても、クラウドはだめ、ネットは遅い、という状況ではとても業務に使えません。Wi-Fiに接続してはだめ、という自治体すら数多くあります。これでは、NHKの学校放送番組のサイト(NHK for School)に用意されている、多数のコンテンツを教室で見ることはできません。近頃このサイトはとても充実していて、授業で見せないのはもったいないです。先生方の教材研究にも役立ちます。

NHKの学校放送番組のサイト(NHK for School)
  NHKの学校放送番組のサイト「NHK for School」

さらにはYouTubeが見られないことも問題です。いまだに教育界では、YouTubeには、不法、不適切な動画しかアップされていないと思っている方が少なくありません。しかし、今のほとんどの小中学生は、お気に入りのYouTuberが、少なくとも2、3人はいるはずです。彼らにとってはもはや、メディアの一つとなっています。

子ども向けの情報だけということではありません。大人向けにも有意義な情報を発信している人も数多く存在します。時代に即した教育をする上でも、学校からアクセス制限をかけるのは、今やデメリットの方が多いのではないでしょうか。

そもそもこうした制限は、文部科学省が指示しているわけではありません。学校の設置者である各自治体が、独自の判断で制限しているのです。こうした方針は早急に見直すべきでしょう。学校で、学習用コンピュータ1人1台が見えてきた今、各自治体の責任は非常に大きいと言えます。


この論文の続きは、下記の特別公開記事でお読みいただけます。

【特別公開記事】
「急速に進展する情報社会とこれからの学校教育」
(教育技術MOOK『PC1人1台時代の 間違えない学校ICT』より)


なお本記事は下記書籍からの抜粋です。PC1人1台時代。学校に求められる役割とは何か?がわかる一冊です。新型コロナウイルス感染症への対応でさらなる補正予算も決まり、学校でのICT環境整備はますます加速します。「まず何から始めればいいの?」「授業は?」「研修は?」と不安を抱えている教育関係者は少なくないはず。ぜひご一読を。


PC1人1台時代の 間違えない学校ICT
著・編/堀田龍也
定価 1700円+税 小学館

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