伝統産業をのぞいてみよう|産業編①【地域と生活の科学~見つけよう!探究学習の種~#7】

日本各地には、その土地の自然や文化と結びつきながら受け継がれてきた伝統産業があります。そうした産業の現場をのぞいてみると、長年の経験の中で磨かれてきた工夫や、実に豊かな「科学」と出合うことができます。今回は、長い歴史をもつ奈良の墨を題材に、株式会社古梅園(図1-1,1-2)に協力いただきながら、昔ながらの製法による固形墨づくりをのぞいてみたいと思います。


執筆/四天王寺大学教育学部准教授・仲野純章
目次
奈良の墨という、長い時間の積み重なり
「墨」という言葉は、「染み(しみ)」から転じたものだといわれています。日本には、推古天皇18年(610年)に高句麗の僧・曇徴によって製墨法が伝えられたとされ、以後、朝廷や寺院を中心に墨づくりが行われてきました。
時代が下るにつれて、墨づくりは市井の造墨家へと広がり、室町時代末期には、現在の株式会社古梅園が創業します。江戸時代には製墨法が大きく発展し、古梅園も幕府の許可を得ながら中国の造墨家と交流・研究を重ね、より品質の高い墨を生み出してきました。その技は、400年以上たった今も受け継がれています。
固形墨って、どうやってできてるの?―古梅園に伝わる昔ながらの製法―
小・中学校の書写では、手軽に使える墨液を使うことも多いですが、本来の墨は、硯で磨(す)って使う「固形墨」です。古梅園に伝わる製法では、固形墨は次のような工程を経てつくられます。
①煤(すす)を集める「採煙」
②膠(にかわ)を溶かす
③煤と膠、香料を混ぜて練る
④木型に入れる
⑤灰の中で乾燥させる
⑥自然乾燥
⑦磨き
⑧彩色
――と、実に多くの手間と時間がかかります。小さな墨一丁が完成するまでに、数か月から半年以上を要することもあります。
