ボール運動や水泳運動への意欲を持続させながら技能を高めるにはどうしたらいいの? 【使える知恵満載! ブラッシュアップ 体育授業 #60】
これまで陸上運動<#31、#32、#33、#34>や器械運動〈#59〉で運動の得点化を紹介してきました。運動のできばえを得点化することで、単元内で身に付けた技能を適切に評価することができるとともに、子どもが認識しやすい数値の変動が、子どもの意欲を高めたり持続させたりすることにつながります。今回は、ボール運動、水泳運動での得点化の方法を紹介します。
執筆/新潟県公立小学校教頭・酒井慎一郎
監修/筑波大学附属小学校教諭
体育授業研鑽会代表
筑波学校体育研究会理事・平川譲
目次
1 「壁ぶつけ」「どこまでキャッチ」「どこまでキック」
ゴール型ゲーム・ネット型ゲーム・ベースボール型ゲームをより楽しむためには、ボールを投げたり捕ったりする技能や、思い切りボールを蹴る技能を、低学年から高めておくことが大切です。1時間2教材を用いながら、長いスパンで繰り返し取り組めるようにすると効果的です。
⑴ 壁ぶつけ
壁ぶつけは、壁にボールをノーバウンドで当て、跳ね返ったボールをキャッチする教材です。簡単に投捕の経験値を上げることができます。
<場づくり・準備> ※イラスト参照
●壁から3mのところにラインを引く(壁から最も近いラインは,クラス全員が届く距離にする)。
●4人の学習班を編成する。
<行い方>
●1人ずつ投げる。
●3m(1点)ラインから投げる。
●利き手側に体を向け、ラインをまたいで構える。
●利き手と反対の足でラインを踏み越えながらボールを壁にぶつける。
●跳ね返ってきたボールをキャッチし、再度、壁に向けて投げる。
●一定時間(1分間)繰り返す。
●残りの3人は「足がラインをまたいでいるか観察する」「得点を数える」「後ろに逸れたボールを拾う」などの役割を順番に担当する。
<得点化の方法>
●ノーバウンドで壁に当て、跳ね返ってきたボールを両手でキャッチしたら得点とする。
●一定時間(1分間)で、何点取ることができるか挑戦する。
<運動のポイント>
●ボールを持った手と反対の足を上げ、後ろ足に体重を乗せる。
●上げた足を大きく1歩前へ踏み出すのと同時に、ボールを持った手と反対側の肘や肩を後ろへ引く。
●上体を捻りながらボールを離す。
●目標を見たまま、最後まで腕を振り切る。
低学年で、ドッジボールを使う場合は、片手でボールを支えられずに落としてしまうことがあります。この場合は、利き手と反対の手を添えて投げてもよいことを指導します。
初回から得点に挑戦させると、利き手と同じ側の足を前に出して投げたり、正面を向いて手だけで投げたりしてしまうことがあります。最も近いラインから投げて10回キャッチする練習を2〜3回程度行う中で、投動作や班の役割を確認しておくことをおすすめします。
教師は、各班を回り、うまく投げている子や班の役割に取り組んでいる子を承認・称賛したり、つまずいた動きで投げている子に「こっちの足を出すよ」とアドバイスをしたりしましょう。また、初めの得点を名簿に記録し、これを超えたら体育ノートに記録させたり、教師に報告するように指示しておいたりすると、技能の伸びを把握することができます。「はしごドッジボール」のグループ編成にも使えます。
⑵ どこまでキャッチ
どこまでキャッチは、指定の距離と回数でキャッチボールが成功したら、徐々に距離を伸ばし、どこまで遠くでキャッチボールができるのか挑戦する教材です。遠くに投げることや相手が捕れる強さで胸の辺りに投げること、ボールを正面で捕ることを身に付けることができます。
<場づくり> ※イラスト参照
●3m間隔のラインを引く。
●片方のラインから1m間隔で4~5本のラインを引く。
●4人の学習班を編成する。
<行い方>
●2人1組で行う。
●向かい合って、オーバーハンドで投げる。
●キャッチしたらすぐに投げ返す。
●2人で6回(1人3回)続けてキャッチボールができたら、1本後ろのラインに下がる。
●一定時間(2分間)繰り返す。
●残りの2人は「得点を数える」「逸れたボールを捕る」などの役割を順番に担当する。
<得点化の方法>
●2人がどちらも落とさずにキャッチできたら得点とする。
●途中でボールを落としても得点を継続する。
●一定時間(2分間)で、何点取ることができるか挑戦する。
<運動のポイント> ※壁ぶつけの内容に加えて
●相手の胸に向けて、適切な強さで投げる。
●正面を向いて胸で抱え込むようにキャッチする。
●最後までボールを見てキャッチする。
壁ぶつけと同様に、初回から得点に挑戦させると、速く強く投げようと焦ってしまい、両手でボールを持って頭の上から投げようとしたり、利き手と同じ側の足が出てしまったりすることがあります。3mのラインを使って、1分程度でキャッチボールをする中で、投げ方や捕り方、班の役割を確認しておくことをおすすめします。
教師は、うまく投げている子や捕れている子、班の役割に取り組んでいる子を承認・称賛しながら各班を回り、見本となる班を見つけましょう。運動観察の場面を設定し、「どこに投げたらいい?」と問い、相手の胸の辺りに投げると両手で捕りやすくなることに気付けるようにしましょう。
⑶ どこまでキック
どこまでキックは、ボールをどれだけ遠くに蹴ることができるか挑戦する教材です。思い切り蹴る経験値を上げることができます。
<場づくり> ※イラスト参照
●壁から3m離れた位置にラインを引く(壁から最も近いラインは、クラス全員が届く距離にする)。
●最初は3m(1点)から始める。
●2m間隔で4〜5本のラインを引く。
●4人の学習班を編成する。
<行い方>
●1人ずつ蹴る。
●ボールはライン上に置く。
●ノーバウンドで1回壁に当てたら1本後ろのラインに下がる。
●一定時間(1分間)繰り返す。
●残りの3人は「足を後ろに引いているか観察する」「壁に当たった回数を数える」「逸れたボールを拾う」などの役割を順番に担当する。
<得点化の方法>
●各ラインに点数を付ける。
●ノーバウンドで壁に当たったら得点とする。
●一定時間(1分間)で、何点取ることができるか挑戦する。
<運動のポイント>
●2~3歩の助走からボールの横に踏み込むと同時に、蹴り足を後ろに引く。
●足の甲でしっかりと蹴る。(インステップキック)
●ボールを見て蹴る。
●蹴り足は、蹴った勢いで振り出す。
教師は、各班を回り、うまく蹴れている子や班の役割に取り組んでいる子を承認・称賛したり、「軸足はここ(ボールの横かやや後ろ)に置くよ」「足をグーにして力を入れて蹴るよ」とアドバイスをしたりしましょう。なお、使用するボールは、空気圧を調整し、柔らかくしておきましょう。痛さの軽減に加え、ボールが飛びすぎずコントロールしやすくなります。また、マーカーコーンを用いてティーアップすると、ボールの位置が少し高くなって蹴りやすくなります。ボールがいつも転がってしまう子にはおすすめです。
2 「水泳5分間○○リレー」
クロールで10m程度余裕をもって泳げるようになったら、ビート板を使ったバタ足やクロールで延べ何人泳いだかを競う5分間リレーがおすすめです。
<プールの使い方>
●プールの横幅を使う。
<行い方>
●4人組で行う。
●ビート板を使ったバタ足やクロールで1往復する。
●残りの3人は水の中で待つ。
●前の泳者がスタート側の壁をタッチしたら、次の泳者がスタートする。
●泳ぎを苦手とする子を第1泳者にすることで、泳ぐ回数を多くする。
<得点の仕方>
●1往復で1点とする。
●5分間の合計点数を出す。
教師は、水中で事故が起きていないか確認しつつ、各班を回り、泳ぎが苦手な子の手を引いたり、足の動きを補助したりしましょう。
今回は、ボール運動や水泳運動を例に、運動の得点化について紹介しました。単調になりがちな運動も得点化を用いることで、意欲を高めたり、持続させたりすることができます。新記録が出た場合はクラス全体に紹介したり、「得点の足し算」を使ってクラスの合計点を出したりすることで、さらなる意欲付けやクラスの一体感につながります。ぜひ、授業に取り入れてみてください。
【参考文献】
・清水由(2010)『写真でわかる 運動と指導のポイント ボール』大修館書店
・平川譲(2012)『体育授業が得意になる9つの方法』東洋館出版社
・平川譲編著(2017)『「資質・能力」を育成する体育科授業モデル』学事出版
イラスト/佐藤雅枝
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執筆
酒井慎一郎
新潟県公立小学校 教頭
1979年 新潟県見附市生まれ。小学校や特別支援学校において、運動に苦手意識や抵抗感のある子どもの指導・支援に重点を置いて研鑽中。新潟学校体育研究会幹事。『「資質・能力」を育成する体育科授業モデル』(共著)(学事出版)等、共著・雑誌原稿等執筆多数。
監修
平川譲
筑波大学附属小学校 教諭
体育授業研鑽会 代表
筑波学校体育研究会 理事
1966年千葉県南房総市生まれ。楽しく力がつく、簡単・手軽な体育授業を研究。日本中の教師が簡単・手軽で成果が上がる授業を実践して、日本中の子どもが基礎的な運動技能を獲得して運動好きになるように研究を継続中。『体育授業に大切な3つの力』(東洋館出版社)等、著書多数。