投げる・捕る技能を高めるには、どうすればいいの? 【使える知恵満載! ブラッシュアップ 体育授業 #35】
近年、子どもの体力低下が叫ばれています。特に「投げる」力の低下については、新体力テスト関連のニュースでもよく耳にします。ボール運動が苦手な子の多くは「投げる」ことだけではなく、「捕る」ことも苦手です。自分に向かってくるボールが怖くて「捕る」ことができず、活動に参加できないまま、得意な子どもとの技能差が広がってしまうというのが、多くのクラスの実態ではないでしょうか。そこで今回は、「投げる」だけでなく「捕る」技能も高めていける低学年向けの「はしごドッジボール」を紹介します。
執筆/栃木県公立小学校教諭・下野誠仁
監修/筑波大学附属小学校教諭
体育授業研鑽会代表
筑波学校体育研究会理事・平川 譲
目次
1.コート
上図のようなコートを準備します。ライン引きは#5を参考にしてください。1つのコートで4人が活動するので、32人学級であれば8個のコートを準備します。クラスの人数に応じてコートの数を決めます。
できれば片側が壁の近く(10m程度)になるように場所を設定すると、外野がキャッチできなかったボールが遠くへ転がってしまうことを防ぎ、その分活動時間が増えます。教師が壁の反対側で指導するようにすれば、転がってきたボールを拾ってやることもできます。
2.グループ
「キャッチボール」や「ソフトボール投げ」などの投力を示すデータから、投力別に4人組のグループを作ります。学級の人数の関係で、4人グループが作れないときには、投力の高い子たちで内野3人、外野2人の5人グループを作り、これを1番大きなコートにあてます。5人組にする理由は以下の2点です。
①3人組のコートを作ると、そこに欠席・見学が出た場合に実施できなくなる。
②投捕が苦手な子たちの参加頻度を上げるのが「はしごドッジボール」の大きなねらいであるので、苦手な子たちのグループではなく、得意な子たちのグループの人数を増やす。
3.ルール
●1つのコートは、内野2(3)人、外野2人の計4(5)人で活動する
●投力の高いグループは、広い(点数が高い)コートに、低いグループは狭い(点数が低い)コートに配置する
※これにより、技能差に対応したゲームが可能になります。
●外野でボールを当てたとき、内野でボールをダイレクトキャッチしたときに、それぞれ1点とする
●当てた外野と当てられた内野は交代する
●1回のゲームは、2〜3分間程度
●最後に合計点数を計算し、4(5)人の順位を決める
●一番得点の多い子は隣の広いコートへ、逆に一番得点の少ない子は反対側の狭いコートへ入れ替えをする
4.ゲームの進め方
プリントや説明をするだけでは、ゲームのイメージをもつのは難しいので、1つのグループにモデルゲームを行わせ、全体でルールを確認していきます。
⑴ 内野と外野の決定
内野と外野を決めます。希望が重複した場合はジャンケンで決めます。
⑵ 得点の数え方
自分が得点したときに「1点!」「2点!」…と大きな声で得点を数えさせます。互いの得点を確認しながらゲームを進めることで、最後に得点を比べる際のトラブルを減らすことができます。
⑶ 入れ替えの方法
ゲームの終了後、コートの中に得点順に並んで座ります。同点の場合はジャンケンで決めます。ルールに示した方法で入れ替えを行います。一番広いコートの1位と、一番狭いコートの最下位の子は、そのまま今のコートにとどまることを確認します。
⑷ 2回戦に進む
1回目は丁寧に確認しながら進めると、1回戦で授業1回分(約20分間)かかります(→時間設定については#18を参照)。2時間目からはゲームの進め方の説明がいらないので、1回の授業(約20分間)で2回戦程度実施していきます。2時間目以降も入れ替えが正確にできているか確認しながら進めていくとよいでしょう。
⑸ ゲーム終了時
「はしごドッジボール」終了時に、自分がいたコートの得点や同じコートにいた友達の名前をノートに記入させます(→ノートの使い方については#3を参照)。これにより、次時のゲームにスムーズに入ることができます。
5.「はしごドッジボール」のメリット
⑴ 全員が実質的に参加する
「はしごドッジボール」は、休み時間のドッジボールとは以下の点で大きく異なります。
●1つのコートの人数が少ない
●投捕技能が似通った子ども同士でプレイする
これらの特性から、常に全員が「投げる」「捕る」「避ける」のいずれかの動きをしていることになり、ボール運動に関する技能向上を図ることができます。
⑵ 技能差に対応できる
ボール運動は、ほかの運動に比べて、技能差によるゲーム参加頻度の差が顕著になる運動です。クラス全員で行うドッジボールでは、「コートの中を逃げ回るだけ」「当てられてしまったら外野で見ているだけ」という、いわゆるお客さん状態になってしまうことが少なくありません。しかし、「はしごドッジボール」は、上記2つめの特性から、苦手な子は安心して、得意な子は高いレベルでドッジボールを楽しみながら、技能を高めることができます。
また、苦手な子は小さいコートに寄っていますので、教師側は苦手な子が把握しやすいというメリットがあり、以下のような支援の頻度を高めることができます。
●小さなコートの近くに立ってこぼれ球を拾い、苦手な子たちの実質的活動時間を意図的に増やす
●ボールを投げるときに、利き腕と同じ側の足を前に出している子には、直接脚を触って意識させる
●ボールを見ずに外野に背を向けて逃げている子には、ボールを見るようにアドバイスする
ボール運動は、ゴール型、ネット型、ベースボール型の3つに分類されますが、どの運動においても「投げる」「捕る」の基礎技能はとても重要です。低学年では型の分類にこだわる必要はなく、はしごドッジボールのように、全員がボールに関わる機会を増やす教材で、「投げる」だけでなく「捕る」技能も高めていくことが大切です。基礎技能を高めて、子どもたち全員がボール運動を楽しめるようにしていきましょう。
【参考文献】
平川譲、清水由、眞榮里耕太、齋藤直人(2017)『子どもの運動能力をグングン伸ばす!1時間に2教材を扱う「組み合わせ単元」でつくる筑波の体育授業』明治図書出版
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執筆
下野 誠仁
栃木県公立小学校 教諭
1988年、沖縄県那覇市生まれ。若手や体育授業が苦手な教師にとっても取り組みやすく、子どもたちみんなが「できた」を実感できる体育授業を目指し、実践・研究を重ねる
監修
平川 譲
筑波大学附属小学校 教諭
体育授業研鑽会 代表
筑波学校体育研究会 理事
1966年千葉県南房総市生まれ。楽しく力がつく、簡単・手軽な体育授業を研究。日本中の教師が簡単・手軽で成果が上がる授業を実践して、日本中の子どもが基礎的な運動技能を獲得して運動好きになるように研究を継続中。『体育授業に大切な3つの力』(東洋館出版社)等、著書多数。