「学習者用デジタル教科書」の現状と課題~どうしたら活用していけるのか~(中編)

令和6年度より、全国全ての小学5年生から中学3年生に、英語の学習者用デジタル教科書が導入されます。一部の小中学校では、「算数・数学」でも導入される予定です。いよいよ本格導入が見えてきた学習者用デジタル教科書。しかしこの先には活用へ向けての課題も横たわっています。

本記事では、教科書会社の担当者や学習者用デジタル教科書を活用している先生方への取材から浮かび上がった現状と課題をもとに、元教科書編集者/元教育ソフト開発者としての筆者の視点から、活用に向けた考察と提言を3回に分けてお届けします。今回はその第2回です。

取材・文/村岡明

学習者用デジタル教科書の活用を考える

【前回の記事はこちら】
いよいよ本格導入へ!「学習者用デジタル教科書」をめぐる現状と課題~どうしたら活用していけるのか~(前編)

メリットを実感してもらうために

前回の記事で述べてきたように、学習者用デジタル教科書を使ってもらうためには、まず先生方に「使いたい」と思わせる明確なメリットが必要です。しかし、今回取材をした中で「メリットを感じない」とおっしゃる先生は少なくありませんでした。

なぜメリットを感じないのでしょうか。その意見を深掘りすると、大きく次の4つに集約されます。

  • 操作が分かりにくい
  • コンテンツに魅力がない
  • 教科ごとに操作方法が違う
  • 動作が遅い

以下順番に、その意味するところを考えてみます。

操作性が分かりにくい

逆説的な言い方になりますが、ほとんどのソフトウエアは「操作が分かりにくい」ものです。若者に「使いやすい」と評判のiPhoneでさえ、多くの高齢者は「使いにくい」と感じます。日本人の多くが「分かりやすい」と感じる街角の標識も、外国人には「分かりにくい」ものだったりします。

つまり、「使いやすい・使いにくい」「分かりやすい・分かりにくい」は絶対的なものではなく、「慣れ」の要素が大きいのです。このことは、多くのUX(User Experience)の専門家も指摘しています。

ただ、確かに使いにくい操作性になってしまっている場合もあります。たとえば、デジタル教科書をすぐに使いたいのに、いったんプラットフォームを開いてからでないと起動できない教科書があると聞きました。これでは授業のリズムが崩れてしまいます。

こうした明らかに「使いにくい」と感じることがあった場合は、ぜひサポートセンターに連絡してあげてください。その際、「使いにくい機能の操作手順や場面」を端的に説明できるようにしておくと、声を取り上げてもらいやすくなります。また、周囲の人も同様に感じているようなら、その点を伝えることも重要です。

コンテンツに魅力がない

「デジタル教科書のメリット」と聞いて、先生方が真っ先に思い浮かべるのは、動画や音声といったデジタルコンテンツでしょう。実際、今回取材した各社とも、この部分を充実させていました。しかし一方で、一部のデジタル教科書に対しては先生方から次のような不満の声が上がっています。

  • 動画の内容に魅力がない
  • 必要なところに動画がない
  • 動画(または音声)の再生速度を自由に調節できない

どうやら教科書会社ごとに、コンテンツの質や量に関して差が出てきてしまっているようです。これは、先生方の声が、教科書会社に対して十分に伝わっていないことが原因かもしれません。「声」は、サポートセンターまたは、各社のWebサイトに設けられている問い合わせ窓口からでも届けることができます。

その際に重要となるのは、「この学習内容を教えるのには、こうした動画が必要」「子供はYouTubeなどで高品質な動画に慣れている」など、授業との関連性や子供の実態とともに伝えることです。先生方にとっては常識ということでも、教科書会社の人にとっては初耳ということはよくありますから。

教科ごとに操作方法が違う

デジタル教科書を使う先生方にとっては「教科ごとに違う」というイメージになりますが、正確には「プラットフォームごとに違う」ということです。プラットフォームというのは、デジタル教科書の土台を担うソフトウェアで、下記の6種類があります(2024年4月現在)。参加しているおもな教科書会社(義務教育のみ)とあわせて列挙します。

  • レントランスビューア(東京書籍・三省堂)
  • まなビューア(光村図書・教育芸術社・光文書院)
  • 超教科書(啓林館・帝国書院)
  • みらいスクールプラットフォーム(教育出版・学校図書・日本文教出版・開隆堂)
  • エスビューア(数研出版)
  • つばさブック(大日本図書)

以下、各ソフトウェアの画面例です。

レントランスビューア(東京書籍 英語)
レントランスビューア(東京書籍 英語)
まなビューア(光村図書 国語)
まなビューア(光村図書 国語)
超教科書(啓林館 算数)
超教科書(啓林館 算数)
みらいスクールプラットフォーム(日本文教出版 図画工作)
みらいスクールプラットフォーム(日本文教出版 図画工作)

さきほど「操作性には慣れが重要」と申しましたが、ご覧のとおり、各プラットフォームで、それぞれ画面設計も機能も操作性も異なりますので、先生にとっては慣れるのも一苦労です。しかも4年使ったらまた別のプラットフォームの教科書に変わる、ということもあり得ます。これは、先生方のみならず、教育界全体で考えていかなければならない問題なのです。

動作が遅い

「動作が遅い」という不満は、GIGAスクールで端末が整備されてから、学校でよく聞くようになりました。この「遅さ」は、ソフトウエアを使っている時に感じるものです。そのため、遅さの原因をソフトウエアに求めがちですが、実際はそうとも限りません。解決のためには、ソフトウエアの問題以外に、以下のようなことに問題がないかどうか確認する必要があります

  • 端末の情報処理能力
  • 学校のネットワークシステム
  • 学校がつないでいるインターネット回線環境
  • 代理サーバーやフィルタリングソフトなどのソフトウエア環境

「遅さ」といってもこれだけの複合要因があるのですから、デジタル教科書のサポートセンターにいきなり連絡しても解決できません。ICT支援員さんに協力を求め、問題をある程度特定してから相談するのがよいでしょう。

以上、今回は学習者用デジタル教科書の活用が広まりにくい状況について、先生方からの意見をもとに事情を深掘りしてみました。こうした現象が生じるのは、先生方が怠慢なわけではありません。このような混乱は、業務をデジタル化しようとしたとき、ほとんどの組織において多少なりとも生じていることです。

次回は、このような状況を解消し、デジタル教科書を使いやすいものにしていくための方策について、提言をしたいと思います。

(以下後編へ続く)※5/2公開予定!

村岡明

取材・文/村岡明
埼玉大学教育学部卒。国語教科書編集者を経て、ソフトウェア開発会社にて「ジャストスマイル」など教育ソフトを多数企画し、事業部を率いて全国の自治体・学校での採用を実現する。その後、独立して教職員向けのネットマガジンを創刊。ソフトウエア開発、Webサービスの開発は20年以上の経験がある。

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