「専門性の高い教員」とは? 教科担任制にまつわる4つの疑問

関連タグ

教科担任制を導入するにあたり、学校の実態に合った、働きやすいしくみをつくるために、現場の教員の声に耳を傾ける必要があるはずです。現役の公立小学校教諭である藤原友和氏に聞きました。

藤原友和先生

藤原友和(ふじわら・ともかず) 公立小学校教諭。1977年北海道函館市生まれ。4年間の中学校勤務を経て小学校に異動。「ファシリテーション・グラフィック」を取り入れた実践研究に取り組む。教職21年目の今年度は、教職大学院で勉強中。教師力BRUSH-UPセミナー、函館市国語教育研究会、同道徳研究会所属。

教科担任制の理想と現実

私は現在、小学校の教員ですが、元々中学校の国語科教員でしたので、中学校でも小学校でも教科担任制を経験しました。それらの経験を踏まえ、現職の教員という立場から、教科担任制の導入にあたり、心配や疑問に感じている4つの点を指摘したいと思います。今後、各自治体や学校が、教科担任制のしくみを考える際に、参考になれば幸いです。

●専門性の高い教員の確保への疑問

教科担任制の導入により、小中連携が一層強化されると思われます。ただ、教科の専門的な力量と学級経営力は、全くの別物です。小学校での指導経験がない中学校の教員が、そのまま小学校で専門性の高い指導ができるのかといったら、それは難しいのではないかと思うのです。

私の経験をお話ししますと、中学校で国語科の研究に一生懸命取り組んでいました。そして、小学校に異動し、4年生の担任になり、自信を持って授業参観で国語の授業をしたのです。ところが、授業参観が終わった後に保護者から「先生の授業は難しくてわからない」と言われました。

「中学校の教員が小学校に来たら、専門的な指導ができるでしょう」という前提で、文部科学省は話を進めているように感じますが、実際はうまく教えられるとは限りません。当時は、小学生を教えるための専門性を持っていなかったからです。教育委員会や学校が、この点をいかにカバーしていくのかが課題だと思います。

そもそも何をもって「専門性が高い」というのかが明らかにされていません。それなのに、どうやって専門性の高い教員を確保するのでしょうか。

また、高学年を担当する教員は、担当教科を絞り込んで教材研究を行うことになります。そのため、「教科Aの専門性は高くなったが、教科Bはもう何年も教えたことがない」人が出てくる可能性があります。しかし、異動先の学校では、学年のメンバーとの兼ね合いで、教科Bを教えることもありえます。そうなると専門性どころではないのではないでしょうか。

●時間割の作成が困難

教科担任制では時間割の組み方が非常に複雑になります。私は過去に毎週、時間割をつくっていたことがあります。教科担任制を行うには加配教員が必要です。再任用の短時間勤務の教員、非常勤講師、学習支援員など、誰がいつ入るのかを全部把握し、行事の調整をして時間割をつくるのは大変な作業です。何らかの工夫や対策をしていく必要があると思います。

●教員の人間関係が心配

教科担任制を導入したからといって、「担任一人で抱え込まず、チームで指導できる」とは限りません。私には教科担任制がうまくいかなかった経験があります。その学年団では、学年主任の関心がスポーツの指導に向いていたり、言動や行動で誤解を招きやすい教員もいたりしていたため、学年がうまく回っていませんでした。それぞれの持ち場で責任が果たせなかったときは責める関係になり、非常に厳しかったです。その一方で、同じ学校で、他のメンバーと学年団を組み、一部の授業を交換したときには、とてもうまくいきました。担任同士の仲が良く、いつも助け合っていましたので仕事を負担に感じたことはありませんでした。やはり、現実はメンバーの顔ぶれによってうまくいく場合といかない場合があり、ベースの信頼関係ができていないと教科担任制は難しいと感じます。

●総合的な学習の時間への懸念

2つあります。一つ目は、学級担任制であれば「総合的な学習の時間で盛り上がったから、もう少し時間を延長しよう」ということがやりやすいわけです。そういうフレキシブルな時間割構成ができなくなり、それがやりづらさにつながっていくのではないかという懸念があります。

また、各教科で培った力を総合的な学習の時間で発揮することが前提だと思うのです。しかし、「自分のクラスの社会科を教えていない」担任が出てきます。そうなると、社会科の授業と関連付けることができないわけです。各教科に分化したものを、総合的な学習の時間では、誰がどのように統合していくのかが気になります。

ビジョンの明確化が重要

最後に、管理職にお願いしたいことは、ビジョンの明確化です。教科担任制を行うこと自体が目的ではないと思うのです。目的はその先にあります。例えば、子どもたちをこのように育てたいから、教員は教科担任制でこういうふうに関わっていこう、保護者や地域にとってもこういうメリットがあるというように、学校経営全体のビジョンとの関係から、教科担任制が子どもたちにとって必要であり、そのために教員に力を発揮してほしい、と明確に示してほしいのです。それにより、意気に感じる教員が増えてきて働きやすくなりますし、それぞれが主体性をもって行動できるのではないでしょうか。

ただし、それは校長のやりたいことを押し付けることとは違います。学校の現在地の診断とビジョンを合致させたうえで、校長が、そのために教科担任制をどういうしくみにしたらいいと思うのかを、教職員に聞いてほしいのです。そんなふうに教職員に聞ける関係ができていれば、どんな手段をとってもうまくいくと思います。大事なのは、組織の目的のためにはこれでいくのがベストなのだと、皆が納得して分担できる状態をつくることだと思うのです。

取材・文/林孝美

『総合教育技術』2021年1月号より

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
関連タグ

授業改善の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました