【小学校社会科】食料自給率は、高ければ高いほどよいの?〜言説×議論でつくるこれからの社会科〜【第2回】

社会で当たり前のように語られている「もっともらしい言葉や考え方」を「言説」と捉え、それを議論によって問い直す社会科授業を目指す本連載。今回は、日本にとって切っても切れない「食料自給率」についての言説を考えていきます。
日本の食料自給率の低さは、食料安全保障を考える上で重要な課題の一つです。しかし、そこには複数のものさしがあることは、一般的にはあまり知られていないのではないかと思います。ぜひ、子どもたちと一緒に、この問題を考えていきましょう。
目次
言説と対象学年・単元
第2回で取り上げる言説は、「食料自給率は、高ければ高いほどよい?」です。
「日本は食料の多くを外国に頼っている」「日本の食料自給率は低い」「もっと国産の食料を増やす必要がある」。こうした言葉を、ニュースなどで耳にしたことがあるのではないでしょうか。実際、日本の食料自給率の低さは、食料安全保障を考える上で重要な課題の一つです。
しかし、そもそも「食料自給率が低い」とは、何を意味するのでしょうか。
実は、食料自給率には複数の「ものさし」があります。また、「国産」と表示された食肉であっても、その家畜が食べる飼料までさかのぼれば、外国からの輸入に支えられている場合があります。その一方で、私たちは外国から多くの食料を輸入しながら、まだ食べられる食料を大量に廃棄しています。
「日本の食料自給率は低い」という一つの数字だけでは見えてこない日本の食料事情があります。今回は、「食料自給率は高い方がよい」という言説を否定するのではなく、そもそも食料自給率とは何を表す数字なのか、何を「国内でつくっている」と考えるのか、そして私たちの消費まで含めて、食料自給率をめぐる論点を整理しながら考えていきます。
【対象学年・単元】
小学校第5学年「我が国の農業や水産業における食料生産」
に位置付けます。
学習指導要領で重視される、食料生産に関わる人々の工夫や努力、食料生産をめぐる課題について多角的に考え、表現する学習につながる実践です。単に「日本の食料自給率は低い」と覚えるのではなく、「どのような基準で測るのか」「原料はどこから来るのか」「私たちは食料をどのように消費しているのか」など、食料自給率という数字の背景まで捉えることをねらいます。
① 日本の食料自給率は38%?それとも61%?
まず、教師は2つの数字を大きく提示します。
「38%」「61%」
どちらが日本の食料自給率だと思う?
38%だと思う。教科書で見たことがある。
半分より低かったと思う。
じゃあ、61%は何の数字?
日本の食料自給率の38%はカロリーベース、61%は生産額ベースの数字です(最新の2023年度農林水産省の発表によります)。
ここで、「食料自給率には、なぜ2つの数字があるのだろう?」と問いかけます。
農林水産省では、食料全体の自給率を表す主な方法として、食料を熱量に換算する「カロリーベース」と、金額に換算する「生産額ベース」を示しています。
カロリーベースの自給率を出すのは、私たちが生きていくために必要なエネルギー(カロリー)を、国産でどれくらいまかなえているか見るためです。
この数値が低い理由は明確です。高カロリーの油脂類や小麦などの大半を輸入に頼っているから。そして、肉や卵を育てるための飼料の多くが輸入されているので、国産とみなされない仕組みになっているからです。
一方で生産額ベースの自給率を出すのは、我が国の農業や水産業が、どれくらいのお金を生み出しているかを見るためです。
日本の農業と水産業は、ブランド力があり安全性も高い野菜・果実・食肉・魚など、大きな価値を生み出すものをたくさん生産しています。そのため、生産額ベースの数字は農業や畜産業・水産業の実態をより反映した数字になります。
「日本の食料自給率は38%しかない」という言葉は間違いではありません。しかし、それだけが日本の食料生産を表す唯一の数字ではないのです。

同じ日本の食料なのに、ものさしを変えるだけで38%にも61%にもなるんだね。
何を基準にするかで全然違う。
ただ自給率が低いというだけではわからない。
何を表した自給率なのか確認しないといけない。
ここでは、食料自給率を単なる暗記すべき数値としてではなく、ある「ものさし」によって社会を捉えた数字として考えさせます。
② 国産の肉なら、本当に「国産」?

カロリーベースの数字の際に少し触れましたが、次は、スーパーなどで販売されている「国産」の食肉を取り上げてみましょう。
国産の豚肉を食べれば、日本の食料自給率を高めることにつながるかな?
国産だから、つながると思う。
日本の農家が育てているから。
ここで、食肉の「国産率」と「食料自給率」を比較した資料を提示します。ポイントになるのが「飼料」です。
日本国内で育てられた家畜であっても、その家畜が食べているとうもろこしなどの飼料を外国から輸入している場合があります。食料自給率をカロリーベースで計算する際には、輸入飼料によって生産された畜産物の部分は国産として算入されません。
例えば、農林水産省が示した令和3年度の資料では、豚肉のカロリーベースの「食料国産率」は49%ですが、輸入飼料を考慮した「食料自給率」は6%でした。
スーパーには「国産」と書いてあるのに、どうしてこんなに数字が違うのだろう?
豚が食べているものが外国産だから?
肉だけを見ていたらわからない。
食べ物をつくるために必要なものまで考えないといけないんだ。
ここで、①で考えた「何を基準にするか」という問題が、さらに深まります。
パンであれば小麦、豆腐であれば大豆、そして肉であれば飼料までさかのぼる。「日本でつくられた食料」という言葉も、どこまで原料をさかのぼって考えるかによって見え方が変わるのです。

③ 食料が足りない? でも、捨てている?
ここで、もう一つ別の資料を提示します。日本の食品ロスの量です。農林水産省などの推計によれば、令和6年度の日本の食品ロスは推定年間約461万トンです。これは国民1人当たりにすると、年間約37kgになります。
日本は食料の多くを外国から輸入しているんだよね?
だから自給率を高くした方がいいと思っていた。
では、こちらの資料はどう考える?
こんなに捨てているの?
外国から買って、捨てているものもあるってこと?
つくる量だけではなく、食べ方も考えないといけないんじゃない?
ここで重要なのは、「食品ロスを減らせば食料自給率がそのまま上昇する」という単純な関係として扱わないことです。むしろ、問い直したいのは、「日本の食料問題は、『国内でどれだけつくるか』だけで考えてよいのだろうか?」という点です。
食料自給率をめぐる議論では、どうしても「国内生産をどれだけ増やすか」に目が向きます。しかし、食料の安定供給を考えるならば、私たちが必要以上に購入していないか、まだ食べられるものを捨てていないかという「消費する側」の問題も無関係ではありません。

④ では、「食料自給率は高ければ高いほどよい」?
ここで初めて、本時の中心となる言説に戻ります。
最初に「日本の食料自給率は低い」と聞いたとき、どう思った?
もっと日本でつくればいいと思った。
外国に頼らない方がいいと思った。
今はどう?
高くすることは大切だけど、何の自給率なのかも考えないといけない。
肉を日本でつくっても、飼料を外国から買っていたら、外国との関係はなくならない。
国内でつくることだけではなく、捨てる食べ物を減らすことも大切。
全部を日本だけでつくるというより、どうやって安定して食料を確保するかを考えた方がいい。
ここで教師は、「食料自給率は高くなくてもよい」と結論付けるのではなく、
では、なぜ国は食料自給率を高めようとしているのだろう?
と問い返します。
執筆/北海道教育大学附属釧路義務教育学校 澤田康介
