【小学校社会科】みんな言ってるよ!の「みんな」って誰??〜言説×議論でつくるこれからの社会科〜【第3回】

政治や社会の問題について考える際、私たちは「みんなが言っている」「ネットではこの意見が多い」といった言葉に出合います。しかし、SNSで多く目にする意見は、本当に社会全体の意見なのでしょうか。
本実践では、SNSや生成AI、世論調査などを比較しながら、「世論」とはどのように捉えられるものなのかを考えます。そして、社会で語られている言説をそのまま「みんなの意見」と捉えるのではなく、「誰の意見なのか」「どのように調べたのか」「何を根拠としているのか」を問い直し、自分自身の考えを形成することをねらいます。
私たちは日常生活の中で、「みんなそう言っているよ」「SNSでは批判ばかりだよ」「ネットでは○○という意見が多い」といった言葉を耳にします。しかし、この「みんな」とは、一体誰なのでしょうか。
SNSで100人が同じことを書いていれば、それは「世論」なのでしょうか。1万件の「いいね」が付いていれば、多くの国民が賛成していると言えるのでしょうか。逆に、数千人を対象にした世論調査から、日本全体の傾向を考えることができるのはなぜなのでしょうか。 今回は、社会の中で何気なく使われている「みんなが言っている」という言説を「観測」し、その正体を探っていきます。
目次
言説と対象学年・単元
【対象学年・単元】
小学校第6学年「わたしたちの生活と政治」の発展として位置付けます。
日本国憲法の基本的な考え方や国民主権、国会・内閣・裁判所の働き、国民の願いと政治との関わりについて学習した後に、「国民の意見は、どのように捉えられているのだろう」という問いから「世論」について考える実践です。
私たちは、SNSやニュースなどで「みんなが言っている」といった表現を目にします。しかし、SNSで多く見かける意見と、統計的な方法によって調べられた世論調査では、「みんなの意見」を捉える方法が異なります。そこで、SNS、生成AI、内閣府の世論調査などを比較し、「その『みんな』とは誰なのか」「誰を対象に、どのような方法で調べたのか」を問いながら、世論の捉え方について考えます。
こうした学習を通して、社会で多く語られている意見をそのまま「世論」と捉えるのではなく、情報の発信者、調査対象、調査方法、根拠となる資料などに着目し、複数の情報を比較しながら、社会的事象について自分の考えを形成することをねらいます。
① その「みんな」って誰?
まず、子どもたちに身近な場面を提示します。
友達から「このゲーム、みんなおもしろいって言っているよ」と言われたら、本当に人気があると思う?
みんなが言っているなら人気だと思う。
でも、その子の友達だけかもしれない。
クラスのみんななのか、日本中のみんななのかで違う。
では、「SNSでは、この意見ばかりだった」と言われたらどう?
たくさんの人がそう思っているんじゃないかな。
でもSNSを使っていない人もいる。
同じ人が何回も書いていることもありそう。
ここで黒板に「『みんなが言っている』の『みんな』って誰?」と書きます。
例えば、ある投稿に1万件の「いいね」が付いていたとしても、その1万人がどのような人なのかは分かりません。また、その投稿に反応していない人がどのように考えているのかも分かりません。そこで、「「たくさんの人が言っている」ことと、「社会全体で多い意見である」ことは同じなのだろうか?」という問いを通して考えを深められるようにしていきます。

② SNSでたくさん見る意見=世論?

次に、SNSや動画サイトで情報を見る場面について考えます。
例えば、Aさんは毎日サッカーの動画を見ています。Bさんは毎日料理の動画を見ています。二人のスマートフォンに表示される「おすすめ」には、どんなものが出てくるだろう?
Aさんにはサッカーがたくさん出てくる。
自分がよく見るものに似たものがおすすめされそうだよね。
では、Cさんがある特定の政治についての動画を見ていたら「おすすめ」はどうなるだろう?
自分と似た意見ばかり出てくるかもしれない。
同じ考えの動画が出てきて、「みんな同じことを考えている」と思ってしまいそう。
実は、このように、自分が見たい情報や自分に合った情報が多く表示されることで、似た情報に囲まれてしまうことを「フィルターバブル」と呼ぶことがあります。では、もう一つ。この画面(下記の画像)を見てください。100人が何度も発信している意見と、1万人が1回ずつ発信している意見は、画面上では同じように「たくさんの意見」に見えることがあるよね。
たくさん表示されていても、たくさんの人が言っているとは限らないんだ。
そうだね。このように、発信される「声の大きさ」と、実際にその意見をもつ「人数の多さ」が同じとは限らないことを「ボリュームディストーション」と呼びます。
ここでは、「自分が見ている情報」と「社会全体」を区別することが重要です。SNSには、多くの人の考えを知ったり、これまで知ることのできなかった立場の声に触れたりできるよさがあります。一方で、自分の画面に多く表示されている意見が、そのまま社会全体の意見を表しているとは限らないことについてイメージできるようにしていきます。
SNSでは、利用者の閲覧履歴やイイネなどの利用実態が常に計測されています。そして、その傾向に応じて、自分の関心に近い意見や情報が表示されやすくなります。これを「フィルターバブル」と言います。その結果、自分の周囲が似た情報で囲まれ、よく似た意見の人たちの声ばかりが聞こえるようになり、それが社会全体の姿であるかのように感じてしまうことがあります。これを「エコーチェンバー」と呼びます。
また、SNS上では、頻繁に自分の意見を言う人と、そうではない人の差が明確です。つまり、「声の大きさ」と、その意見をもつ「人数の多さ」は必ずしも一致しません。
本実践では、こうした「声の大きさ」と「人数の多さ」のズレを、「ボリュームディストーション」という言葉で整理します。 小学生に用語そのものを暗記させることが目的ではなく、現象面の「自分に見えている情報=社会全体ではない」「たくさん目にする意見=たくさんの人がもっている意見とは限らない」という二つの見方を獲得することを重視します。

③ 1831人に聞けば、1億人の考えが分かる?
内閣府が実施している世論調査を提示します。内閣府では、社会や暮らしに関するさまざまな世論調査を実施しています。例えば「国民生活に関する世論調査」では、全国の18歳以上の日本国籍を有する人を母集団として、1831人を抽出して調査しています。対象者は、地域や都市規模などを考慮した統計的な方法によって選ばれています。
日本の人口はどれくらいか知っているかな?
1億2千万人。
(内閣府の世論調査を提示)だったら、この資料は1億2千万人いるうちの1831人にしか聞いていないのだから、信用できなさそうだよね。
確かに……。
北海道の人だけ1831人に聞いても、日本全体とは言えないよ。
いや、SNSとは全然違う。
SNSと世論調査は何が違うのかな? 近くの人と話し合ってみよう。
世論調査はいろんな世代に聞いているね。
年齢や住んでいる場所が偏らないようにしている。
ここで、子どもたちに「何人に聞いたか」だけではなく、「誰に、どのように聞いたか」が重要であることに気付かせられるようにしていきます。
一方で、世論調査も「絶対に正しい答え」ではありません。内閣府自身も、世論調査には「標本誤差」があり、回答者数などによって誤差が生じるため、結果の扱いには注意が必要だと説明しています。政府オンライン調査
つまり、「SNS=信用できない」「世論調査=正しい」という単純な二分ではありません。 大切なのは、「どのような方法で得られた『みんなの意見』なのか」を確かめることです。

④ 生成AIが「多くの人は~」と言ったら?
ここで、生成AIを登場させます。教師自身が生成AIの性質を理解しておくことが重要です。大規模言語モデル(LLM)を用いた生成AIは、人間のように社会の出来事を「理解」した上で回答しているわけではありません。大量の文章などを学習し、入力された言葉に続く可能性の高い言葉を統計的に予測しながら文章を生成しています。そのため、もっともらしい回答であっても、その内容が事実であるとは限りません。また、回答がどの情報に基づいて生成されたのかを明確にたどれない場合もあります。したがって、生成AIが「多くの日本人は○○と考えています」と回答したこと自体を、世論を示す根拠として扱うことはできません。
執筆/北海道教育大学附属釧路義務教育学校 澤田康介
