小5 国語科「やなせたかし ーアンパンマンの勇気」全時間の板書&指導アイデア

特集
1人1台端末時代の「教科指導のヒントとアイデア」

文部科学省教科調査官の監修のもと、小5国語科「やなせたかしーアンパンマンの勇気」(光村図書)の全時間の板書例、発問、想定される児童の発言、ワークシート例、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。

小五 国語科 教材名:やなせたかしーアンパンマンの勇気(光村図書・国語 五)

監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/神奈川県横浜市立東汲沢小学校校長・丹羽正昇
執筆/神奈川県横浜市立川上小学校・佐藤勇介

1. 単元で身に付けたい資質・能力

本単元では、これからの自分の生き方について考えながら伝記を読む力を育てます。
子供たちは、伝記に描かれている人物がどんな人生を歩んだのか、出来事を整理したり、生き方や考え方を踏まえ、その人物像を思い描いたりしながら伝記を読みます。
その中で、読み手である自分自身の普段考えていることや実生活での経験、知識を重ね、「自分もこうなりたい」「~に対する考えが変わった」「初めて考えた」「考えが深まった」というふうに心が動かされた言葉に出会い、それらの意味を深く理解し、これからの自分の生き方につなげていく姿を目指します。伝記は、取り上げられている人物のエピソードを物語るために、人物の行動や会話、心情が物語のように書かれている部分と、事実の説明や、その人物に対する筆者の考えや評価が説明的文章のように書かれている部分で構成されています。子供たちは、これまでに文学的文章と説明的文章の学習で身に付けた力を活用し、伝記作家の思いを考えながら読み進めることになります。
一冊の伝記を読み、被伝者の人物像や生き方について思いを巡らし、これからの自分の生き方について考えることもできますが、ここでは並行して同一人物について書かれた別の伝記や、伝記で描かれる人物の自伝と比べて読むことで、書き手による書きぶりの違いにも気付けるようにしていきます。

2. 単元の評価規準

単元の評価規準

3. 言語活動とその特徴

本教材では、伝記などを読み、内容を説明したり、生き方などについて考えたことを伝え合ったりする活動(言語活動例「読むこと イ」)を意識した「名言カレンダー」の作成を言語活動として設定しました。

伝記を読むよさや意義は、その人物の生き方や考え方に触れられることや、それによって自分自身の生き方や考え方を広げられることにあると考えています。
この単元では、子供たちは今後の自分を変える可能性のある言葉や、自分自身の成長につながる言葉を探しながら、伝記を読んでいきます。そして、人生の転換点や成長を支えた言葉、その人物が人生において貫いた信念が感じられる言葉、その人物にしか言えない言葉などを「名言」として共通理解を図り、それらを集めた日めくりカレンダーを作成します。

カレンダーに載せる「名言」を選ぶためには、その言葉を発した人物がどのような人生を歩んだのか、背景となる出来事や言動を事実としておさえ、表現に着目しながら書き手の意図を読み取ることで、人物像をより具体的に想像することが大切になってきます。
子供たちがただ聞こえのよい言葉を名言として選んでしまうようでは、子供たちの思考や理解の度合いを見取ったり、適切に評価をしたりすることが難しくなります。
そこで、名言カレンダーはページをめくるかたちにし、1枚目には選んだ名言と自分が捉えたその人物の人物像、2枚目には、名言に対する自分自身の解釈や説明、今後の自分自身の生き方についての考えを書くようにします。
選んだ名言には、どのような意味があるのか、叙述を引用したり、要約したりして説明するとともに、自分の生き方についても考えることで、今回ねらいとする資質・能力の育成につなげていきます。

名言カレンダーのイメージ

4. 指導のアイデア

〈主体的な学び〉

〇 子供と教師で共に学習計画を立て、学習の見通しをもつ時間を設定する。

主体的な学びのためには、子供たち自らが学ぶことに興味や関心をもち、見通しをもって学習を進めることが大切とされています。
この単元でも、これからどんな学習を進めるのか、初めから教師がモデルなどを示して学習を誘導するのではなく、子供たちが教材と出会い、何を感じたか、「誰に」「何を」「どのように」伝えたいと思ったのかを吸い上げ、共に学習計画を立てながら単元のゴールを共有していきたいものです。
もちろん、教師はこの単元でどんな力を身に付けさせたいのか、そのためにはどんな言語活動が考えられるのかを吟味しておくことが大切ですが、それをどのタイミングで子供たちと共有するのかには十分気を配りたいところです。

この単元で教材文に出会った子供たちは、「やなせたかしさんという人物」「やなせたかしさんの考えや残した言葉」などへの興味関心が高まると考えられます。
やなせさんの残した言葉のうち、子供たちが気になった言葉や、深い意味がありそうだと考えた言葉に着目し、やなせさんという人物と自分を重ねて考えようとする発言を生かしながら、「伝記を読むことで、心が動く言葉(名言)を見つける。伝記の人物と、自分自身のこれまでの姿を重ね、これからに生かしていく。」という学習の軸を共有していきます。
さらに、それらの言葉を名言カレンダーに落とし込んでいくことで、伝記を読むことの楽しさの一つである「人の生き方に触れ、その人となりに思いをはせること」ができるようにします。

とは言え、いきなり名言カレンダーを作るといっても、子供の発想はなかなかその域には達しません。まずは教材文を読み、伝記やなせたかしさんへの印象を共有した後、被伝者の言葉に着目していくようにします。
単元の学習に入る前に、教室内にさりげなく市販の名言集や名言を紹介した日めくりカレンダーなどを置いたり、朝の会などで名言を紹介したりしながら、子供の気付きを促す方法も考えられます。
そのような仕掛けを施すことで、「伝記を読むことで、心が動く言葉(名言)を見つけること」「伝記の人物と自分自身のこれまでの姿を重ね、これからに生かしていく」という伝記を読む価値を一人一人が把握し、学習の見通しをもてるようにします。

一時間ごとに、課題意識を明確にして授業に臨むことを大切にする。

共通のめあてをもちながら単元の学習を進めていても、子供たちそれぞれが課題とするものや、疑問に思うことは徐々に違ってきます。
ここでは、単元の学習を最終的に1枚の振り返りシートにまとめていきますが(※タブレット端末の活用の項で後述)、その過程で大切にしたいことの一つに、「その日の課題(授業ごとの課題)」があります。45分という授業時間の中で、自分は何を解決したいのか、どこまで学習を進めたいのか、そのためには誰とどんな相談をしたらいいのか、授業前に子供たちが認識できるようにしておきます。
課題が明確にあるからこそ、子供たちが自分で学習を調整したり、粘り強く学んだりすることにつながります。

〈対話的な学び〉

〇 友達との共通点や相違点を明確にしながら交流する

名言カレンダー作りを通した読む力の育成過程で、子供たちはそれぞれが名言として取り上げるものと、それらについての解釈を明らかにしていくことになります。選んだ名言について、「被伝者の人生におけるどんな場面の言葉なのか」「どんな意味や信念が込められているのか」「自分たちに何を教えてくれているか」など、選んだ名言や、その背景をお互いに説明する時間を意図的に設けます。

友達は何を名言として選んでいるのか、その名言に対してどんな考えをもっているのかを聞き合い、友達との共通点や相違点を明確にしながら交流することは、改めて叙述に立ち返ったり、自分の考えを整理したりすることにつながるはずです。名言についてだけでなく、「人物像」について考えるときも同様です。

また、教師は子供たちがそれぞれの課題を意識できるように、思考すべき視点を明確に示しておくことが大切です。「名言を選ぶ際」「人物像を考える際」「裏付けとなるエピソードを選ぶ際」「名言の解説をする際」「自分自身と重ね、今後の自分の生き方を考える際」など、子供同士の対話が有効に働く場面を想定し、具体的な思考の流れや操作、そのためのツールを提示しておくことで、子供たちが自身の課題解決を目指し、友達と対話をしながら学びを進められるようにします。

〈深い学び〉

〇 書き手が違う伝記や自伝を読み比べ、書き手や書き表し方の特徴を捉える。

伝記に描かれている人物はどのような人物と言えるのか、その人物像をまとめる際、子供たちは、被伝者の人生における印象的な出来事や、そこで考えていたこと、残した言葉などを根拠とすることになります。
ここで大切にしたいのが、伝記はあくまで第三者が、被伝者の自伝やインタビュー等をもとにまとめたものであることです。同じ「やなせたかし」の伝記でも、書き手がちがうと取り上げられているエピソードが違ったり、そこで使われている言葉が違ったりしていて、読み手の印象は変わってきます。
書き手が被伝者をどのような人物と捉え、評価しているのか、書き手の意図やその違いを捉えた上で、自分は何を根拠に人物像をまとめるのかを考えることは、深い学びにつながります。
これは、名言を選んだり、名言の解釈をまとめたりするときも同様です。自分が選んだ名言には、どんな意味があるのか、その本質に迫るために、書き手が違う伝記や自伝でどのように書かれているかを比較し、自分の言葉で解説を加えられるようにしていきます。

〇 単元における学びを自覚し、読書として「伝記を読む」ことの価値を語り合う。

単元の中で誰とどんな言葉を交わし、どんな気付きや学びを得たのか、自分でまとめたワークシートや各時間の振り返りの記述を見直す中で、自身の学びを言語化し、自覚できるようにしたいものです。
また、異なる伝記を選んだ子供同士で、「自分が読んだ人物は何をした人物か」「どんなところがすごいと思ったのか」「その本の面白さや伝記を読むよさについて感じたこと」を語り合う時間を設けることも、読書活動の充実を図る意味で有意義だと考えます。
国語の授業での学びが日常生活につながる一つの機会として読書は有効です。伝記を読むことによる学びや、その面白さへの自覚を促していきます。

5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント

(1)個別最適な学習を目指した取り組み ~航海をイメージした「学びの地図」の共有~

名言カレンダーの作成を進める際に、タブレットの共有機能を活用します。
子供たちとは学習の流れを、海の航海をイメージした「学びの地図」で共有します。地図上には、子供の思考過程を意識した島「名言島」「エピソード諸島」「人物島」「解読島」「未来諸島」が設定されており、子供たちは名言カレンダーの完成を目指し、それぞれの課題に応じて、島を行ったり来たりしながら学習を進めていきます。

島ごとには、クリアすべきミッションのイメージで、考えるべき視点や学びのガイドとなるものを示します。また、「学びのログ」として、その島での学びや気付きを残せるようにしておきます。
地図上にいつでも共有できる「学びのログ」を残せるようにすることで、教師は、子供の学びの様子を把握し、子供同士の学びをつなぐために活用することができます。
また、友達がそれぞれの島で何を学んだのか、気を付けたことや、キーワードは何かなどを記録した「学びのログ」は、それぞれ異なる進度で学習を進める子供にとっても、学びの支援となるはずです。

タブレット上で共有する「学びの地図」イメージ
「学びの地図」イメージ

「名言島」「エピソード諸島」「人物島」「解読島」は、指導事項「読むこと エ:人物像や物語などの全体像を具体的に想像したり,表現の効果を考えたりすること。」、「未来諸島」は「読むこと オ:文章を読んで理解したことに基づいて、自分の考えをまとめること。」を意識した島となります。

それぞれの島のミッション イメージ

「名言」とは何か、イメージを確認しよう

名言島

「名言」とは何か、イメージを確認しよう
「辞書での意味」「伝記に書かれた人物側」「読者として」の三つの観点で確認しよう。

名言の候補を決めよう
自分がカレンダーに載せたいと思った名言をいくつか選んでみよう。

「名言」を選ぼう
自分や自分たちが変わっていく(成長する)ために、一番必要だと思うものを選ぼう。

名言を説明しよう
選んだ名言は、どんな言葉なのか、人物の人生や生き方、考え方とつなげて説明をしよう。解読島の話題へ

人物島 伝記の人物像を短くまとめよう

人物島

どんな人生を歩んだのか整理しよう
人生時計などを使って、その人物の人生で起こった大切な出来事をまとめよう。

人物の生き方や考え方を整理しよう
ターニングポイントとなる出来事で、どんなことを考えたか、人生で貫き通した思いは何かなどを整理しよう。

「言葉・表現」から考えよう
人物の人柄や心情が読み取れる言葉を探し、そこから考えられる事を書いてみよう。

読み比べてみよう
「自伝と評伝」「評伝と評伝」など書き手がちがう伝記を読み比べてみよう。

〇 エピソード島 人物像や名言につながる出来事

エピソード島

裏付けエピソードは何だろう
人物の生き方や考え方、自分が選んだ名言につながるエピソードを整理しよう。

ターニングポイントに宝あり
人物の悩みや決断、信念は、ターニングポイントにこそ見られるかも。探してみよう。

〇 解読島 みんなで相談・疑問を解決

 解読島

最も~~なのは何か語ろう
人物にとって、最も~~なのは何か語ろう。
例)最も大きな出来事・出会い

それぞれが捉える人物像
友達はその人物をどのように捉えているか、根拠となる出来事や言葉をもとに意見を交流しよう。

言葉の意味を深く考えよう
人物の残した言葉や、考え方について、それぞれ自分が考えることを友達と交流しよう。自分が選んだ名言の解説に生かそう。

〇 未来諸島 これまでの自分、そしてこれからの自分

未来諸島

自分のこれまでを重ねよう
自分が選んだ名言について、自分は今までどんな考えをもっていたか振り返ろう。

自分のこれからを考えよう
伝記を読んで考えたこと。人物の生き方や考え方にふれ、これから自分はどう変容するべき、成長していくべきか考えよう。

自分たちのこれからを考えよう
学年・クラスへのメッセージ
一緒に成長していく仲間として、これからどうあるべきかを考え、メッセージを送ろう。

〇 学びのログ イメージ

学びのログ イメージ

学びのログに残すことで共有したいのは、みんながそれぞれに学習を進めているけれど、一緒に冒険をする仲間だというイメージです。自分がその島で得た宝物(学び)はなんだったのか、次に島を訪れるであろう仲間のために足跡を残しておきます。

例えば「名言島」では、カレンダーに載せる名言の候補を探すために、どんなことに悩み、どのように解決したのか。その際に着目した言葉や、出来事は何かなどを残すことになります。
より具体的な記述は、それぞれの振り返りカードに残すことになるので、ここではメモのようなかたちで簡単に書いておけばよいことにしておきます。


(2)単元の学びをデータ上で1枚の振り返りシートにまとめる。

タブレット端末の機能を活用し、単元での学びを1枚の振り返りシートにまとめることができます。
振り返りシートには、学習計画として、個人の課題を意識したものを書き、その課題に対しての振り返りを毎時間残します。その時間にできたことや、学んだことは何か。次に向けた課題は何かを毎時間明確にすることで、個人個人が学習を調節しながら計画的に学びをデザインする姿を目指します。
また、タブレット端末のメリットとして、1枚の振り返りシートの中に、自分が使ったワークシートや思考ツール、関連図書のデータなどを一緒に入れて管理できるところがあります。
1枚の振り返りシートの中に、子供たちが何を、どのように考えたかの足跡が明確になっているため、教師は実態把握がしやすく、具体的な支援を考える際に活用することができます。

振り返りシート

6. 単元の展開(7時間扱い)

 単元名:ぼくらを変えるこの言葉 みんなで作る名言カレンダー

【主な学習活動】
・第一次(1時
①「アンパンマン」というキャラクターの特徴や、イメージを共有する。それを生み出した作者「やなせたかし」の人生や人物像に興味をもち、アンパンマンが生まれた背景や作者がそこに込めた思いを知ることができる、伝記というジャンルの本があることを知る。
伝記を読み深めていく価値やその方法について考え、学習計画を立てる。〈主体的な学び〉

・第二次(2時3時4時5時6時
② 名言カレンダーに載せる言葉の候補を考えたり、「やなせたかし」の人物像を捉えたりするために、梯さんが書いた「やなせたかし」の伝記を読み、時系列的記述や行動、人との出会い、特筆されている出来事をまとめる。
③「やなせたかし」を描いた自伝と評伝を比べて読み、書き手の違いによる人物の見方、考え方などの特徴を捉える。
④⑤⑥ 学びの地図を使った学習
「やなせたかし」の名言カレンダーを作成するために、伝記を再読したり、自分が選んだ名言や人物像に関わる部分を意識して読み比べたりしながら考えをまとめる。

・第三次(7時
⑦ 単元の学びを振り返り、クラスで共有する。「伝記を読むよさ」についてグループで共有し、単元を通して得た読書の意義を振り返る。

全時間の板書例、発問、ワークシート&端末活用例

【1時間目の板書例 】

1時間目の板書例

イラスト/横井智美

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