第59回 2023年度 「実践! わたしの教育記録」審査員選評

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学校法人 軽井沢風越学園校長

岩瀬直樹

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二


第59回「実践! わたしの教育記録」入選者が発表されました。4人の審査員の方々から、入選作品についての選評を伺いました。

上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二さん

赤坂真二教授

19年間の小学校での学級担任を経て、2008年4月より現所属。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。日本学級経営学会共同代表理事。『最高の学級づくり パーフェクトガイド』(明治図書出版)など著書多数。

まず、特選の三好達也氏の実践であるが、校内研修はコロナ禍で停滞した感があった。また、コロナ前から、教員の多忙化とともに研究授業をするにしても、授業者を研究主任がお願いして実施しているような状況も聞かれた。校内研修は、組織として解体に向かおうとする学校に求心力を持たせる営みとしても期待されるが、本実践は、そうした校内研修をめぐる幾多の課題に一筋の光明を見せる取組であると評価できる。事前の先生方の意識の見取りから、授業を見る視点の提示、議論の活性化のためのICTによる見える化など、手立てが秀逸である。先生方の変容も納得できた。

特別賞の上村洸貴氏の記録は、生成AIの英語教育に関する効果的な使用方法の実践例ではあるが、現在の教育界がどことなく漂う閉塞感を打破しようという意図を感じる革新的な実践であると受け止めた。筆者の生成AIに対する向き合い方がとても明確で、批判を覚悟の上でこれから誰もが使っていくであろうツールを、教育や子どもの人生に肯定的に使用する経験を学校教育で積ませている点が意味深い。また、実践内容も生徒の英語力を高めるためでなく、社会参画力を磨くために英語を位置付けているところも秀逸である。

入選の一編、野田豊氏は、筆者の南極でのエキサイティングな体験、興奮が文章の端々から伝わってくる。この思いは、おそらくオンラインを通じて児童に伝わり、忘れられない時間になったことは間違いない。また、筆者の本実践が教員として授業する喜びを他者に伝えたいという思いも実に尊く共感できる。教師や子ども、そしてこの授業に関わった人たちの興奮が伝わるようであった。ただ、イベントとしてはとても価値あるものとして受け止めたが、これが教育活動としてどの程度の意味があったのかは残念ながら評価が難しい。授業時の子どもの反応や振り返り用紙などの分析が示されたならば、本実践のすばらしさがさらに伝わったのではないかと思う。

学校法人 軽井沢風越学園校長・岩瀬直樹さん

埼玉県公立小学校教諭として22年間勤め、学習者中心の授業・学級・学校づくりに取り組む。2015年、東京学芸大学大学院教育学研究科准教授に就任。 学級経営、カリキュラムデザイン等の授業を通じて、教員養成、現職教員の再教育に取り組んだ。 2016年、一般財団法人軽井沢風越学園設立準備財団設立に参画し副理事長就任。2020年、軽井沢風越学園校長就任。

最優秀賞の三好達也さん、学習者の観察を中心に据え、動画や写真を活用して具体的な場面をもとに対話を促す校内研修の提案。ICTを対話のツールとしてうまく活用し、また結果として校内研究を通じた組織開発も期待できる。経験によらずフラットに参画できるデザインも秀逸。本実践を続けていけば、教師の見取りの力が上がっていくことも推察され、組織開発と共に教師の力量形成にも寄与するだろう。このような校内研修を通じた組織開発の提案が広がっていくことは公教育の変化につながっていく。

入選の内山智枝子さん。前回に続いて力のある実践記録である。探究の学びにおける評価の問題に愚直に取り組んでいる。「科学的な探究用振り返りシート」が主体的に学習に取り組む態度の評価の具体にどうつながるかを実証的に明らかにしている形成的評価、総括的評価の両面に活用されたのも興味深い。学習者自身、そして授業者自身がその価値を感じられる学びの記録になりつつあり、探究の学びの評価に一石を投じるチャレンジである。このような骨太な実践記録が増えていってほしい。

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰・菊池省三さん

「ほめ言葉のシャワー」「成長ノート」「白い黒板」「価値語」などの独自の実践により、児童の自尊感情を高める学級づくりをめざす。「菊池道場」主宰。主な著書に「学級崩壊立て直し請負人」(新潮社)「菊池先生のことばシャワーの奇跡」(講談社)「菊池省三流 奇跡の学級づくり」(小学館)ほか多数。

最優秀賞の三好達也先生、おめでとうございます。校内研修の充実をテーマとされた実践記録です。「子供の姿」を軸に研修スタイルを変えたところが素晴らしいです。今までの校内研修は、「教師の指導技術」に目が行きがちだったと思います。それだけではなく、授業は、本実践が示すように「子供がどうだったか」が問われるべきです。今後は、本研修が授業にどう生かされているか、子どもを見る目がどう変わったかといった実践研究を期待しています。

特別賞に選出された上村洸貴先生の重厚な実践に敬意を表します。ChatGPTを活用した「学びの個別最適化」を軸とした実践記録です。陥りがちな是か非かの二項対立で考えるのではなく、グラデーションで捉える思考を養うという視点が素晴らしいと考えます。生徒たちが考えた「私が考える世界一学びに役立つプロンプト」も、大変ユニークで現場に役立つものばかりです。今後は、「協働的な学び」がどうであったのか、という点にも実践を広げていただきたいと願います。

新人賞の中原修平先生、おめでとうございます。子どもへの愛情が感じられる実践です。「今日も明日も体育がいい!」というタイトルから惹きつけられました。学年が上がるにつれて体育嫌いが増えていると言われます。小学1年生で、「全員が楽しむための目標の設定と振り返り」「個々の差を埋めるためのルールの工夫」という2点を、子どもたちの話合いを中心に考え実行していったところに感心しました。子どもたちの豊かな今後のスポーツライフの実現を期待しています。

大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子さん

全教職員、保護者、地域の人々が手を取り合って「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに情熱を注ぎ、支援を要すると言われる子どもたちも同じ場でともに学び、育ち合う教育を具現化した。『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」をつくるために―特別支援教育を問い直す―』(ともに小学館)等、著書多数。

大阪教育大学附属池田中学校・三好達也先生は、日本の学校教育の最大の課題である「当事者意識の欠如」に視点をあて、「受ける研修」の転換を図ることにチャレンジした実践は、高く評価される。授業者に視点をあてた授業研究ではなく、提供される授業に対し、子どもの姿から参加者が自分事として学び取ろうとする実践が、結果として教員同士のつながりを深め合い、学び合う教員の行動が生まれることを実証してくれている。この教員同士の行動が、学校文化を豊かにし、必然的に生徒たちの学びの環境をつくっていくのだと実感させられる記録である。

また、小学校1年生から「問い」を持ち、子どもが学ぶ子ども同士が学び合う授業をつくることにチャレンジした関西大学初等部・荒木裕亮先生の実践は、今まさに旬の貴重な実践記録である。ともすれば、従前の小学校1年生の授業は「しつけ」が中心でいかに子どもを学校生活のルールにはめるかが当たり前であったが、1年生から「問い」を持つ授業が当たり前に広がれば、すべての子どもは「みんな違っていることがあたりまえ」の環境が、義務教育のスタート時から授業の中でつくり出せる。大変貴重な全国に広げていきたい実践記録である。

北海道教育大学附属釧路義務教育学校・澤田康介先生の実践は、固定観念を捨てるチャレンジと勇気が見事だ。授業における子どもの姿や子ども自身のふり返りを授業者が真摯に学び、授業を高めていく実践に学ぶところが多い。ともすれば前例踏襲の上に授業づくりをするケースが多い中で、「子どもにとってどうなのか」の視点にぶれることなく実践を積み重ねていく本記録は、授業づくりにおいて不可欠な実践である。「子どもが主語の授業づくり」について、子どもの事実さえ見落とさなければ誰もが無理なく実践できることを証明してくれている。

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