リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #36 どうして育ててもらえないの?|吉川裕子 先生(立命館小学校)

連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ

北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今週は吉川裕子先生のご執筆でお届けします。

執筆/立命館小学校教諭・吉川裕子
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

はじめに

はじめまして。
京都の立命館小学校の吉川裕子と申します。
私が勤務している立命館学園には、四つの附属の中学校・高校、一つの小学校があり、それぞれの学校が特色ある教育を展開しています。

2021年度、附属校の一つである立命館宇治高校から2名の生徒さんが、「コア探究」の授業の一環として、小学2年生に「食育」の授業をしに来てくれました(テレビ局主催のプレゼンコンテストに挑戦されていたので、取材もありドキドキしました)。

今回ご紹介する「一枚画像道徳」の授業は、その田中愛乃さんと福田奈津実さん(現在大学2回生)に教えてもらった内容です。お二人の活動をたくさんの先生方にも知ってもらいたいと思い、この題材を選びました。

1.授業の実際

対象:小学1年生
主題名:どうして育ててもらえないの?
内容項目:節度、節制(A―3)
ねらい:食べ物は多くの人の努力と勤労によって作られていることに気付く。

授業のはじめに、生活科で種をまいてアサガオを育てた経験を交流します。他にも植物を育てた経験をしている児童がいるので、交流します。

チューリップの球根を植えた。
家でトマトを育てた。
おじいちゃんが畑でキュウリを育てていた。
ミカンの木を家で育てている。

多くの児童が家庭や保育園、幼稚園で野菜を育てた経験があることが分かりました。そこで、野菜を育てた経験について話し合います。

家で野菜を育てて食べたら、おいしかった。
アサガオは種をまいたけど、野菜は少し大きくなったものを植えて育てた。
それは「苗」っていう。
おうちの人と一緒にお店に苗を買いに行った。

野菜は「苗」から育てることが多いことを確かめ、以下の写真を提示します。

規格外の野菜

発問1 この白菜の苗はこの後、捨てられることになっていました。なぜでしょう。

売れ残ってしまった……?
おいしそうじゃなかった……?
葉っぱが少し曲がっている……?
葉っぱが黄緑っぽい……?

この苗は「規格外」として、捨てられることになっていたものです。

例えば、茎や葉が曲がっているもの、葉が緑色でないもの、野菜農家の元に届けられるタイミングで、大きすぎたり小さすぎたりするものなどは、捨てられてしまうことがあります。
そのような規格外の苗でも、育てれば同じように野菜が収穫できることを伝えます。

発問2 種から野菜苗になるまで、どのぐらいかかるでしょう。

1か月?
2か月?
半年?

野菜苗の多くは、苗農家で育てられます。
野菜苗としてポットに入って売られる状態になるまで、野菜の種類にもよりますが、2か月ぐらいかかるそうです。何回か植え替えをしたり、毎日様子を見ながら水やりの量を調整したり、手間暇をかけて育てられます。そして、野菜農家に届けられたり、小売店で売られたりします。

発問3 野菜がみんなの口に入るまでに、どれぐらいの人が関わっているのでしょう。

種から苗に育てる人。
苗から野菜を収穫するまで育てる人。
収穫してからトラックなどで運ぶ人。
お店で売る人。
料理する人。
どの仕事も一人だけではできない仕事だから、たくさんの人がいる。
一つの野菜だけで、何十人も関わっているかもしれない。

例えば、今日の給食の野菜一切れにも、これまで思っていなかったほど、たくさんの人が関わって自分たちの口に入っていることに気付きました。

2.どこにつなげるか

今年度、1年生に45分の授業として実施したときには、子供たちにとって一番身近な給食を例として、苗農家から野菜農家に届けられ育てられた野菜が、どのように給食として自分たちの教室に届くのかを伝えました。

「これからは、できるだけのこさないようにしたいです。」
「ちょっとの野菜でも、たくさんの人がつくってくれているとわかりました。」

といった感想がありました。自分たちの給食が、たくさんの方の努力と勤労によって届けられていると改めて気付き、感謝の念を持ったり自分の行動を変えたいと思ったりしていました。

私は、この問題を当時高校生だったお二人に教えてもらうまで知りませんでした。
苗農家でも廃棄する苗が年間通して1割未満になるよう努力されていますが、タイミングの問題もあり、多い時期には育てている苗のうち2~3割の苗が規格外として、廃棄されるそうです。
苗農家の方に伺うと、野菜苗も農家からの注文数に合わせて育てられるので、ある程度のロスが出ることは仕方ないようです。とはいえ、育てられるものを廃棄せざるを得ないのは、やはり残念です。

昨年度は、田中さんと福田さんにキャベツの廃棄予定苗を届けてもらい、2年生の生活科で育てました。
捨てられる予定だった苗が、無事に育ち、収穫することができました。野菜そのものも味や栄養に関わらず、形が悪いと売れ残るということも耳にします。
思っている以上に私たちのまわりには、「もったいない」と感じることがたくさんあります。どんなところでもったいないと感じるかを考える展開も可能です。

授業の中で、「みなさんの先輩である大学生のお姉さんが、この捨てられる予定の苗に『もったい苗』という名前をつけて、少しでも無駄にしないように行動しているんだよ。」と伝えると、小学1年生からも「すごいなー。」「会ってみたいな。」という反応がありました。

おわりに

これまでも生活科で野菜苗を購入し、育ててきました。
しかし、その苗がどこでどのように育てられているかまでは、深く考えていませんでした。
お二人は、福田さんのご実家が農家であることから「廃棄苗」の存在に気付き、何とか有効利用できないかという思いから、高校での探究授業の枠を超え、卒業後も活動を広げていっています。その行動力に感心しました。
子供たちと年齢の近い高校生、大学生の行動を知ることで、子供たちが自分の生き方についても考えてくれると嬉しいです。

<参考URL>
2022年4月11日放送『大下容子 ワイド!スクランブル』より 「廃棄する苗」活用法考案の女子大生!“もったい苗”を減らす!田中愛乃さん(18) (tv-asahi.co.jp) 2022年11月26日取得
2022年2月7日創業手帳より 立命館宇治高校 福田奈津実 田中愛乃|廃棄苗(もったい苗)を活用したハンズオン学習の事業展開で注目の若手起業家 2022年11月26日取得
2022年4月22日【農林水産省大臣官房技術総括審議官 賞】立命館宇治高校もったい苗プロジェクト ポンズ 2022年11月26日取得

今後の連載予定
第37回 永井健太(大阪府・大阪市立明治小学校)
第38回 櫻井里佳(北海道・旭川市立知新小学校)
第39回 有我良介(北海道・函館市立桔梗小学校)
第40回 山崎克洋(神奈川県・小田原市立足柄小学校)
第41回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。

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第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
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第11回 なにが見える?
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第28回 テニスボールに込められた思い
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第34回 なまはげ
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