リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #49 見えるもの・見えないもの|渡辺道治 先生(瀬戸SOLAN小学校)

連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ
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北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今回は渡辺道治先生のご執筆でお届けします。

執筆/瀬戸SOLAN小学校教諭・渡辺道治
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

初任者の頃から、毎年ブラッシュアップを重ねて行っている道徳の授業があります。
最初は、詩画集を使って読み聞かせをする形で授業を実施していました。
そのうちに、絵や詩を見せながら作者の半生を語り聞かせるようになりました。

私が結婚し子供が生まれた後は、自分の娘が描いた絵も授業で使うようになりました。
ある年、この授業を最初の参観日に実施すると、後ろでお家の方々が涙していました。
その涙されていた方のお一人が、授業後に私にある人物を紹介してくれました。
道徳の授業を見て、どうしても私に紹介したいと思った方がいるとのことでした。

そうやって紹介してくれた方は、今では私の親友となり、夜遅くまで語らう仲になっています。
一年目の頃から行ってきたこの授業は、ある一枚の画像を起点に展開していくものです。
今回は、その画像を一枚画像道徳として紹介します。

2 「一枚画像道徳」の実践例

対象:小学6年
主題名:「見えるもの・見えないもの」
内容項目:B-10 相互理解

以下の写真を提示します。

写真を提示する前に、私は自分の娘が3歳の頃に描いた絵を示して、「何歳の人が描いた絵だと思いますか?」と問いました。子供たちが答えたところで、3歳という答えを提示。
その続きで、上の画像を提示します。その上で、以下の発問をしました。

発問1 何歳の人が書いた字だと思いますか?

同じように子供たちに口々に答えさせた後、以下の内容を説明しました。

『この字を書いた人は、26歳です(子供たちは「え…」と固まる。一呼吸おいてから説明を続ける)。
この字を書いた人の名前を、星野富弘さんといいます。
繰り返しますが、これは星野さんが26歳のときに書いた字です。

星野さんのお仕事は、学校の先生でした。体を動かすことが小さい頃から大好きだった星野さんは、中学校の体育の先生になりました。
そして、自分の得意な体操を生徒たちに教えて、とても充実した日々を送っていました。

ところがある日、星野さんを悲劇が襲います。
授業で得意の宙返りを教えている時でした。
誤って、首からマットに落ちた星野さんは、首の骨を折る大けがを負ってしまいました。
そのまますぐに救急車で運ばれました。
お医者さんが、お腹や胸や足を触っても、まったく感覚がありません。
星野さんはけがのために、この日から首から下が全く動かなくなってしまったのです。

星野さんは、全く動かなくなってしまった体のことで、死んでしまいたいと考えるほど深く悩み、つらい日々を送りました。
毎日一所懸命お世話してくれるお母さんにすら、つらく当たってしまうこともあったそうです。

そんなある日のことです。
深く落ち込む星野さんが変わるきっかけとなる出来事がありました。』

発問2 星野さんに一体どんなきっかけが訪れたのでしょう

教え子たちがお見舞いに来た
学校から「先生がんばれ」と手紙が来た
何かの本を読んで、落ち込んでいては駄目だと気付いた

一通り子供たちの予想が出尽くしたところで、次の説明を行います。
『ある日、同じ病室にいた中学生の男の子が、転院することになりました。
名前を、高久君といいます。命の危険もある大病を患っている彼に対して、同じ病室のみんなで、高久君を励ますプレゼントを贈ろうということになりました。
プレゼントは、帽子です。
その帽子に、病室のみんなで寄せ書きを書いてあげようということになりました。
星野さんも、高久くんを何としても喜ばせて、励ましてあげたいと強く思いました。
けれど、自分は首から下が全く動きません。
だから、字を書くことができないんです。
それでも、どうしても星野さんは高久くんにメッセージを書いて励ましてあげたいと思いました。

星野さんは、どうしたと思いますか(一呼吸をおいてから説明を続ける)。
星野さんは、口でペンをくわえて字を書くことにしました(実際の写真を見せる)。
そのときのことを、星野さんは次のように話しています。』

初めて書いた字は、カタカナの「ア」の字でした。
くわえていたガーゼは、よだれでぐっしょりぬれ
あまり力をいれていたので、はぐきから少し血が出て、ガーゼにしみていました。
うれしくて、うれしくて、しかたがありませんでした。
次の日も、次の日も練習をしました。
字が書けたといっても、ミミズがのたくったような字でした。
しかし、何もできないと思っていた私にしてみれば
スポーツで新記録を出したようにうれしかったのです。
もう一度、器械体操を始めたときのような気持ちでやってみようと思いました。
器械体操の美しい技も、いきなりできる人はいません。
基礎になる技を、毎日毎日練習して、正しく身につけ、
それを積み重ねて、はじめてすばらしい技ができるようになるのです。
口で字を書くことも、それと同じではないかと思いました。
何年かかってもいいから、時間をかけて、一本の線、一本の点をしっかり書けるように練習していけば、いつかきっと、美しい字が書けるようになると思いました。

『星野さんは、言葉の通り、練習を続けました。
一つの点から、一本の線、そして、ひらがな、かたかな。
何度も何度も練習して、ようやく書き上げた字が、さっきみんなに見せた字だったんです。
ここまでのお話の感想を書いてごらんなさい。』(子供たちに感想を書かせる)

エピローグ

『星野さんは、ひらがなやカタカナだけでなく、漢字も練習をしました。
そして、それらを組み合わせて、詩を書くようにもなりました。
さらに、星野さんは、口でくわえたペンで、絵を描くことにも挑戦を始めました。
この学校の図書館には、その星野さんの詩や絵がまとめられた本が置いてあります。

その中には、星野さんのように人生に絶望した人へ向けて書いた励ましのメッセージや、傷付いて一歩も進めなくなっている人に向けて描いた美しい草花の絵、そして、かつて自分がつらく当たってしまったお母さんへの言葉と絵をつづった作品などが収められています。
気になる人は、ぜひ一度読んでみてくださいね。』

3 他教科とのつながり

星野富弘さんの詩画集は既にたくさんの先行実践がある教材であり、それらを参考にしつつ、娘の絵を導入部分で活用したり、星野富弘美術館で作成された映像資料を組み合わせたり、毎年様々なブラッシュアップを重ねながら実施している授業です。
特に近年では「オムニバス型授業」という形で、他の教科と組み合わせながら実施することが増えてきました。

オムニバス型授業とは、幾つかのパーツ(一つのパーツは5~10分程度)を組み合わせて行う授業の形式です。
今年は、音楽と算数と国語と図工と道徳のパーツを組み合わせて1時間の授業に仕上げ、実践しました(星野さんの話は道徳の部分にて実施)。
つまり、あらゆる教科との組み合わせが可能であるということです。
詳しくは拙著「BBQ型学級経営」(東洋館出版社)にその授業の構成や、詳しい留意点などを記載しています。よろしければご一読ください。

4 おわりに

「はじめに」で紹介した私の親友も、20代の頃に大きな事故にあい、首から下が全く動かなくなる怪我を負いました。
星野さんと同じく体のほとんどが動かない私の親友は、でも誰よりもアクティブで、明るくて、人生を大いに楽しんでいます。

今年、私は故郷の北海道を離れ、新天地の愛知に移住しました。
そしてこの夏、親友の彼は北海道から飛行機に乗って私に会いに来てくれました。
愛知の地で、彼と共に語らいながら、私はたった一つの授業が持つ可能性や、人の縁のすばらしさを感じずにはいられませんでした。
私の教師人生と共に歩み続けてきた、大切な大切な授業です。

【参考文献
星野富弘『花の詩画集 鈴の鳴る道』『速さのちがう時計―花の詩画集』『花の詩画集 あなたの手のひら』(いずれも偕成社)
渡辺道治『BBQ型学級経営』(東洋館出版社、2022年)
深澤 久『子どもが本気になる道徳授業12選』(明治図書出版)

今後の連載予定
第50回 木原一彰(鳥取県・鳥取市立大正小学校)

※この連載は、毎週木曜日に公開します。次回は8月24日(木)6時に公開予定です。

<リレー連載>明日の授業に生きる! 「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
第16回 町名の由来
第17回 百年の桜
第18回 わんこそば
第19回 みんなの場所で
第20回 美しい建物の街~弘前
第21回 1枚で3通りの活用 ~西郷瀞のブランコ~
第22回 外国の靴屋さん
第23回 象には絶対に乗らない
第24回 誰かの便利は、誰かの不便
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第26回 祇園の夜桜
第27回 私たちにできること
第28回 テニスボールに込められた思い
第29回 学びの「値段」
第30回 東日本大震災
第31回 「一枚画像」から道徳を問う
第32回 誰の姿が見えますか?
第33回 五輪で戦うためには…
第34回 なまはげ
第35回 「だれでもピアノ」開発に込められた思い
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第38回 住んでいる地域の魅力
第39回 どんな言葉をかけますか
第40回 二宮金次郎像
第41回 鏡餅にこめられた思い
第42回 悪と判断できるが……
第43回 なくなったもの
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第47回 心(しん)マトリクス
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