リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #46 自由な時間|若松俊介 先生(京都教育大学附属桃山小学校)

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リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ
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北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今回は若松俊介先生のご執筆でお届けします。

執筆/京都教育大学附属桃山小学校教諭・若松俊介
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

ごあいさつ

みなさん、こんにちは。
京都教育大学附属桃山小学校に勤務しております、若松俊介と申します。
このたび、藤原友和先生にお声かけいただき、道徳の実践について書かせていただきます。
2022年度は教職大学院に通っていたので、学級担任をしたり、道徳の授業をしたりすることはありませんでした。そのため、本実践はそれより前に行ったものになります。6年生の子供たちと、1枚の画像をもとにあれこれ一緒に考えることができました。

一つの物事や言葉にこだわって考えを聴き合うことが好きな子供たちで、授業後に何度もこの話題が出てきました。

授業の実際〜自由な時間〜

対象:小学6年
主題名:自由を実現させる心
内容項目:A(1)善悪の判断、自律、自由と責任

以下の写真を提示します。

提示すると、

「これは先生の家の時計?」
「朝の8時かな? 夜の8時かな?」
「私は、朝の8時だったらもう電車に乗ってるよ」
「日曜日だったら朝8時でもまだ寝てるかもしれない」
「夜の8時だったら好きな番組が始まる時刻だ」
「水曜日ならまだ、塾からの帰り道だよ」

……と、あれこれ好きなことをつぶやいていました。
近くの人と自然とおしゃべりが始まるので面白いものです。同じ「8時」という時刻を見ても、子供たちが行っていることや感じるものは違うようです。

そこで、私は次の質問をしました。

発問1 みんなが好きな時刻・時間はいつですか?

子供たちは一瞬、「好きな時刻? 好きな時間?」と戸惑ったようでしたが、すぐに思いついた時刻や時間をつぶやき始めました。

「朝7時」
「夕方の6時」
「10時30分から始まる中間休み」
「9時からお風呂に入る時間」

と、子供たちによって好きな時刻、時間はさまざまです。
その理由を聞いてみると、

「朝7時から始まる朝の番組が好きだから」
「夕方の6時から晩ご飯までは自由な時間だから」
「中間休みには友達といっぱい自由に遊べて楽しいから」
「お風呂に入る時間はのんびりできるから」

とのことでした。「好きな〇〇」ですので、子供たちによって違っているのが当たり前です。
その理由に、その時刻や時間に対するその子の考えや思いが表れています。
今回、「授業時間」のことを話す子はほとんどいませんでした。子供たちにとっては、やはり自分の好きなことに取り組めたり、自由に過ごせたりする時間の方が好きなのでしょう。

ただ、理由にも出てきていた「自由な時間」「自由」についてのイメージは子供たちによって、少し異なるような気がしました。そこで、少し話題を絞って「自由な時間」について考えることにしました。

発問2 「自由な時間」ってどういう時間のこと?

子供たちは、

「学校だったら休み時間」
「家で好きなことをしている時間」
「本を読んでいる時間」
「別にどの時間も全部自由な時間」
「サッカーをしている時間」
「好きなテレビを観ている時間」

と、口々に自分の考える「自由な時間」について話していました。
その中で、「授業は『自由な時間』なのか」についても考えを聴き合いました。
「別にどの時間も全部自由な時間」と表現した子も含めて、お互いの考えに少し「違い」が見られたからです。

「別に全てのことを制限されているわけじゃないから自由な時間なのでは」
「あまり好きじゃないこともやらないといけないから、自由な時間ではない」
「好きなことをするだけが自由ってこともないんじゃないかな」
「『やらなければならない』ことが増えると、自分の中での『自由』が狭くなってしまう」
「『自由な時間』って自分で決めたら、もうそれは『自由な時間』なんじゃないかな」

と、少しずつ「自由」そのものについて考え始めました。
そこで、次の発問をしました。

発問3 「自由」って何だろう?

「好きなことができる」「楽しい」だけでなく、もっと深く「自由」について目を向けることにしました。先ほどの話とつなげて、子供たちからは、

「例えば、授業でも自分がその『自由な部分』をつくっていければ自由になっていく」
「自由って、自分が主人公になっていたら大概のことは自由かもしれない」
「それでも、不自由って言葉もある。したいことをしようと思ってもできない環境とか状況もありそう」
「これまで『自由をつくる』『自由を見つける』という考えはなかったから、ちょっとそれをもとに過ごしてみたい」
「自分勝手に過ごすことはけっして自由じゃない。勉強するときにも、自分勝手に過ごして『好きな時間』にするんじゃなくて、学ぶことについての『自分の自由』を見つけたらいいのかもしれない」

と、あれこれ考えを聴き合いました。私自身も「自由って何だろう?」と改めて考え直すことができました。子供たちの中には、「今の自分って自由なんだろうか?」と問い直す子もいました。

他教科とのつながり

自分の中の「自由」や自分自身に目を向けることは、授業だけでなく学校生活のあらゆることにつながります。単純に「自由だから楽しい」「好きなことだけができる」といったことにはなりません。
今回は、あえて「授業の時間」についても話題に取り上げました。なぜなら、これからずっと考え続けることができるからです。

「『自由』って何だろう」
「自由な時間をつくるためにはどうすればいいだろう?」
「今、どんな学びの時間にしてるかな?」
「自分の中の『自由』を大事にしているだろうか」

……と、絶えず自分の中での「自由」について目を向けていくでしょう。
子供たち一人一人が「自由」な部分をつくろうとすることで、その学びはより充実したものになるでしょう。

わりに

今回は「自由な時間」「自由」に目を向けましたが、別に「好きな時間」「好きじゃない時間」でも何でも構わないでしょう。
「自分の『好き』をつくるもの」についてあれこれ考えてみるのもおもしろそうです。
自分が過ごしている毎日や時間、自分自身について、改めて目を向けられるきっかけをつくれればいいと思います。

年度当初、このようなことに目を向ける時間をつくっておけば、この後何度も立ち返ることができます。
私自身、「好きな時間」「自由な時間」「自由をつくる」「自分の自由を見つける」については、「こうするのがいい」というものが見つかっていません。
だからこそ、これからも子供たちと共に考え続けたいです。

今後の連載予定
第47回 葛原祥太(兵庫県・西宮市立夙川小学校)
第48回 松尾英明(千葉県・袖ケ浦市立蔵波小学校)
第49回 渡辺道治(瀬戸SOLAN小学校)
第50回 木原一彰(鳥取県・鳥取市立大正小学校)

<リレー連載>明日の授業に生きる! 「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
第16回 町名の由来
第17回 百年の桜
第18回 わんこそば
第19回 みんなの場所で
第20回 美しい建物の街~弘前
第21回 1枚で3通りの活用 ~西郷瀞のブランコ~
第22回 外国の靴屋さん
第23回 象には絶対に乗らない
第24回 誰かの便利は、誰かの不便
第25回 美しさの見つけ方
第26回 祇園の夜桜
第27回 私たちにできること
第28回 テニスボールに込められた思い
第29回 学びの「値段」
第30回 東日本大震災
第31回 「一枚画像」から道徳を問う
第32回 誰の姿が見えますか?
第33回 五輪で戦うためには…
第34回 なまはげ
第35回 「だれでもピアノ」開発に込められた思い
第36回 どうして育ててもらえないの?
第37回 あなたはどこで待ちますか?
第38回 住んでいる地域の魅力
第39回 どんな言葉をかけますか
第40回 二宮金次郎像
第41回 鏡餅にこめられた思い
第42回 悪と判断できるが……
第43回 なくなったもの
第44回 ソーセージの最期
第45回 時間によゆうのある方は

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