リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #48 「護美箱」に込められた思い|松尾英明 先生(千葉県公立小学校)

連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ
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千葉県公立小学校教諭

松尾英明

北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今回は松尾英明先生のご執筆でお届けします。

執筆/千葉県袖ケ浦市立蔵波小学校教諭・松尾英明
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

皆様、はじめまして。松尾英明と申します。
特別活動を中心に据えながら、道徳についても、様々な場で長年学んできております。
今回は藤原先生にお声がけいただき、このような貴重な機会を得ることができましたことに対し、心より感謝申し上げます。

さて私は、自分が学級経営の中においても、また人生においても大切だと思っている「掃除」に着目した実践を紹介します。

私はここ10年ほど、「日本を美しくする会」という認定NPO法人の活動に、時折混ぜていただきながら参加しております。イエローハット創業者であり、掃除道の実践家である鍵山秀三郎先生を顧問としたこの会では「掃除から学ぶ」というのが基本方針です。
また、「美しくする」という点も大切で、見えるところを美しくすることで、見えないところも自ずから美しくなるということが共通理解されています。したがってこの会では、掃除をさせていただくための掃除道具をとても大切にします。

今回使用している画像にある「護美箱」も、長年この会で清掃活動をさせていただいている神社に設置されているものに着目し、教材化をねらって私自身が撮影してきたものです。
この一枚の画像から「環境を美しくしていくのは、自分たち自身の心を美しくすることにつながる」ということに気付いてほしいと願って、本実践を行っていきました。

2 「一枚画像道徳」の実践例

対象:小学6年
主題名:「護美箱」に込められた思い
内容項目:C-14 勤労、公共の精神

まず、以下の写真を提示します。

発問1 これを見て気付いたことはありますか

何かの箱
燃って書いてある
「ご・み・ばこ」って読める
燃えるごみのごみ箱
何か普通のごみ箱と書き方が違う
ごみ箱にしては、何かすごくきれい

説明1

「そう。皆さんが言う通り、これはごみ箱です。都内の大きな神社に設置してあったものです。ごみ箱なのに、漢字が普通と違うので、興味をもって写真を撮ってきました。」

まずは導入として、このごみ箱に子供が興味・関心をもつことをねらいました。
あれこれ自由に発言する中で、普通のごみ箱とは違う点に着目し、あれこれ疑問が湧いてきます。

発問2 どうして「護美箱」と書いてあるのでしょうか

美しくするって意味
ごみを捨てると美しくなるから
「護」は、まもるって読める。美しさを護る箱
「燃」って大きく書いてあるから、分別してねってことで、それは環境を美しくする、自然を守るってことにつながる
ごみは汚いイメージだけど、きちんと分別すればリサイクルできて他のものにできるから、きれいになる
「美しいものをまもる箱」だから、箱自体もきれいなんだと思う
箱自体もわざときれいにしてある。ごみ箱をきれいにしておくとそこを汚されなくなるから、周りもずっときれいなままになる

続いて、自分たちの教室のごみ箱を持ち上げて蓋を開けて見せ、「これもどうかな?」と尋ねてみたところ、子供たちが「うっ」という顔をしました。

汚い
ごみ袋の外にまでごみが出ちゃってる
ちゃんとごみを捨てる時に詰めないで、上にどんどん積み重なって溢れそうになってることもある

等と発言が続きました。

説明2

「そう。じつはみんなの教室をきれいにしてくれているのが、このごみ箱です。
教室の美しさを護ってくれているんだよね。もしこのごみ箱が教室になかったら、すごく不便だし教室内も滅茶苦茶になってしまうね。ごみ箱は汚いって思っている人がいるかもしれないけど、この(画像の)護美箱みたいにきれいにしておくことができます。
もし教室のごみ箱が汚いとしたら、誰がごみ箱を汚くしているんだろう? そうですね。ごみ箱に限らず、トイレも、掃除道具も、私たち自身がきれいに使えばきれいなままです。道具にも感謝の念をもって、きれいに使うようにしたいですね。」

3 どうつなげるか

本校で用いている光文書院「小6道徳」教科書における「C勤労、公共の精神」のための題材には「8.世界が驚く七分間清掃」や、「14.広村堤防の清掃ボランティア」などがあります。ここにつなげていくのが本来の道徳の授業のつながりとしてはよいかと思います。

しかし今回はあえて年末の大掃除前の短い学活の時間にこの実践を行い、大掃除の取組へとつなげていきました。
なぜ大掃除をする必要があるのか。自分たちがお世話になった場や道具に感謝の念をもって教室やその他の場所をきれいにすること。
神社やお寺の掃き掃除や拭き掃除に込められた「場を清める」という感覚をもつ大切さを教えました。
今後の清掃活動全般にもつながる話です。

4 おわりに

2022年末、「小学館せんせいゼミナール オンライン研修会」で「不親切教師に学ぶ 本当に親切な学級づくり」という講座をもたせていただきました。
そこでファシリテーターを務めていただいた藤原友和先生より「多分、松尾さんは学級づくりで掃除を大切にしているはず」という鋭い指摘を受けました。それを大切だと思っていることが無意識に提案内容に反映しており、そこを見抜かれたことに驚きました。
確かに、自分の学級づくりにおいて特に大切にしていることが、この「掃除」です。
私は「外から見てもいいクラスはすぐわかる」ということの判断基準として、次のように子供によく伝えます。
「歌が歌えるクラスはいいクラス。掃除ができるのはいいクラス」。
歌と掃除。どちらも、コロナ禍において、一時期学校教育から遠ざけられてしまったものです。
やっと最近は正常化されてきたことに少しは安堵の気持ちももっていますが、まだまだ完全には戻っていないことと、これまで失われた分は取り戻せないということに危機感を抱いています。

私が昨年度まで勤めていた千葉大学教育学部附属小学校においては、感染症対策としてトイレ掃除は全て清掃員の方を雇って行われることになりました。
すると、目に見えた変化が起きました。子供たちのトイレの使い方が、顕著に汚くなるのです。自ら使う場を自ら掃除をしない、ということの弊害がはっきりと見てとれる現象でした。

掃除を通して、学級づくりの、そして道徳の柱の部分が指導できると考えています。
今回、このような貴重な機会を与えていただいたことに感謝を申し上げて、本稿を終わりにいたします。
ありがとうございました。

今後の連載予定
第49回 渡辺道治(瀬戸SOLAN小学校)
第50回 木原一彰(鳥取県・鳥取市立大正小学校)

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第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
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第17回 百年の桜
第18回 わんこそば
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第26回 祇園の夜桜
第27回 私たちにできること
第28回 テニスボールに込められた思い
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第30回 東日本大震災
第31回 「一枚画像」から道徳を問う
第32回 誰の姿が見えますか?
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第35回 「だれでもピアノ」開発に込められた思い
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