リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #43 なくなったもの|和泉慶子 先生(埼玉県公立小学校)

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リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ
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北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットを機能させて教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今週は和泉慶子先生のご執筆でお届けします。

執筆/埼玉県さいたま市立春岡小学校教諭・和泉慶子
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

1 ごあいさつ

みなさん、こんにちは。
埼玉県さいたま市で小学校の教員をしております、和泉慶子と申します。

今回、「一枚画像道徳」連載執筆のお話をいただいたとき、ワクワクが止まらない一方で、正直とても不安でした。私は幼稚園教諭からの転職で、まだまだ小学校での経験は浅いからです。そんな私が発信できることは何か、とても悩みましたが、答えは見つからず(笑)。

難しく考えても仕方がないので、背伸びをせず、自分が素直に感じていることを伝えようと思い、今回の実践を選択しました。

私の勤めている小学校は130年を超える歴史ある学校です。
そういった学校には、地元ともつながりが深く、その土地ならではのものが飾られていることが多いのではないでしょうか。

今回の写真の掲示物は、渡り廊下を通った先の右の壁に掛けられているものです。
誰も気にしない、目もくれない、飾られていることに疑問ももたない、そんな掲示物です。
その写真で「一枚画像道徳」を作りました。

2 授業 〜なくなったもの〜

対象:小学3年
主題名:地元を知るということ
内容項目:C-17 郷土愛

以下の写真を提示します。

「お祭りだ~」
「なんかみたことある、なんだっけ?」
「見たことないよ、こんなの」
「あれ? 上の階の廊下に飾られてなかったっけ?」
「知らな~い」

まずは、好きなように話してもらいました。「みんな知っているものだよ」と伝えつつ。
そして学校に飾られていること、飾られている場所を伝えました。

「ああ、思い出した!!」
「似たようなやつが昇降口にもあるよね」

説明

これは『深作ささら獅子舞』というお祭りの写真です。ささら獅子舞に関わるものが、この学校には他にもありますね。校庭にある倉庫や昇降口です。

 発問1 なぜ、この学校にささら獅子舞の写真があるのでしょうか。

「近くでやっているお祭りだから」
「この学校の人たちが参加してたんじゃないか」
「今、コロナでやってないだけで、昔からやっている祭りだから」

など、学校と地域とのつながりを考えてくれました。

説明

「深作ささら獅子舞」は、さいたま市の無形民俗文化財に指定されています。
オスの獅子2頭とメスの獅子1頭が、地域の田や畑でたくさん作物がとれるように、地域の人々が健康でありますようにと願い、かっこよく舞う姿を人々に見せるのです。
また、いたずら好きの天狗が現れ、その天狗に抱きしめられると「縁起が良い」とされ、小さい子供を連れた大勢の人々が集まっていました。

ただ、残念なことに2016年を最後に、この「深作ささら獅子舞」は行われなくなりました。

「え、なんで?」
「見たかったのに」

江戸時代から伝わってきたと言われている「深作ささら獅子舞」は、踊りや演奏ができる人が高齢化してしまいました。
披露する人がいないと、行うことはできませんよね。
実はこの学校には「ささら獅子舞クラブ」があったのです。そのクラブで練習し、毎年祭りで披露していました。祭りがなくなるとともに、そのクラブもなくなってしまいました。

この時点で、児童はとても悲しい顔をしていました。

発問2 私たちにできることは、なんでしょう。

「家族に話す」
「友達ともう1回、ちゃんと写真を見る」
「できるなら、クラブを復活だー!」
「でも教える人がいないから難しいかも」
「色んな人にこの祭りのことを伝えること」

今回の授業の話を聞いていなかったら、知らずに卒業していたでしょう。
無いものを知ることで、この地域を、また少し好きになってくれたらいいなと思います。
校庭の倉庫に彫られたささら獅子舞の壁画も、ただの体育の集合場所や鬼ごっこの牢屋代わりではなく、地域の宝物だと思えると、素敵ですよね。

3 他教科とのつながり

本校3年生の総合では、『春岡発見』と題して、地域の調べ学習を行います。
私は、その導入に今回の道徳授業を取り入れました。「深作ささら獅子舞」という、この学校ならではのものを学ぶことで、なくなってしまったものの存在に触れることができました。
総合的な学習における探究の時間では、タブレットで検索して出てくる情報だけではなく、目には見えない歴史的背景や、思いにも目を向けるようになってくれたように思います。

4 おわりに

後日談ですが、家に帰り親に話した児童の中には、「お母さんがささら獅子舞クラブだった!」と、嬉しそうに報告してくれる子もいました。

道具や楽器は深作氷川神社社務所に保管されていると伝えると、行ってみると友達と約束もしていました。
「まだ、復活するかもしれない!」 とワクワクする児童の姿を見て、取り組んでよかったと思いました。

今、あるものを大切にすることも、なくなってしまったものに目を向けることも、これからたくさん経験してほしいなと思います。

今回の実践は、初めて教科書教材以外を使った道徳授業だったので、粗削りな部分も多かったですが、とても素敵な経験でした。

ありがとうございました。

今後の連載予定
第44回 篠原諒伍(北海道・網走市立南小学校)
第45回 山本晃佑(神奈川県・横浜市立駒林小学校)
第46回 若松俊介(京都教育大学附属桃山小学校)
第47回 葛原祥太(兵庫県・西宮市立夙川小学校)
第48回 松尾英明(千葉県・袖ケ浦市立蔵波小学校)
第49回 渡辺道治(瀬戸SOLAN小学校)
第50回 木原一彰(鳥取県・鳥取市立大正小学校)

<リレー連載>明日の授業に生きる! 「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
第16回 町名の由来
第17回 百年の桜
第18回 わんこそば
第19回 みんなの場所で
第20回 美しい建物の街~弘前
第21回 1枚で3通りの活用 ~西郷瀞のブランコ~
第22回 外国の靴屋さん
第23回 象には絶対に乗らない
第24回 誰かの便利は、誰かの不便
第25回 美しさの見つけ方
第26回 祇園の夜桜
第27回 私たちにできること
第28回 テニスボールに込められた思い
第29回 学びの「値段」
第30回 東日本大震災
第31回 「一枚画像」から道徳を問う
第32回 誰の姿が見えますか?
第33回 五輪で戦うためには…
第34回 なまはげ
第35回 「だれでもピアノ」開発に込められた思い
第36回 どうして育ててもらえないの?
第37回 あなたはどこで待ちますか?
第38回 住んでいる地域の魅力
第39回 どんな言葉をかけますか
第40回 二宮金次郎像
第41回 鏡餅にこめられた思い
第42回 悪と判断できるが……

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