休職から現場復帰するために何をすれば?【現場教師を悩ますもの】

連載
諸富祥彦の「現場教師を悩ますもの」

「教師を支える会」代表

諸富祥彦

「教師を支える会」を主宰する『現場教師の作戦参謀』こと諸富祥彦先生による連載です。教育現場の実状とともに、現場教師の悩みやつらさを解決するヒントを、実例に即しつつ語っていただきます。

【今回の悩み】 メンタルヘルスを崩して休職中です。上手な復職のポイントを教えてください

メンタルヘルスを崩し、休職して3か月目になります。でも、教師の仕事は大好きなので辞める理由はありません。うまく現場復帰するには、どんなことに気を付けたらよいでしょうか。

(小学校教諭・30代女性、教職年数:12年)

教師はやりがいのある仕事。辛い経験を生かすこともできる

メンタルヘルスを崩す先生は、まじめで情熱のある方が多いです。仕事が好きなのであれば、辞めないほうがいいと思います。私もいろいろ相談に乗っていますが、仕事を辞めた方は、みなさんいったん気持ちが楽になるのです。だけど、しばらくすると「むなしい」と言って、また相談に来る方が多いのです。「たしかに大変だけれど、教師ほどやりがいのある仕事はなかった」と。

私は「教師は魂でする仕事だ」と言っていますが、本当にやりがいのある仕事だと思います。この先生には、今しばらく休むとしても、できれば教師を続けてほしい。うつ病になった先生は復職後、うつ病で休んだ経験が役立つこともあります。

今、小学生にもうつ傾向の子どもや、不登校の子どもが増えています。そんな子どもたちの気持ちがわかるようになるのは、研修を積んでもなかなか難しいのです。適応指導教室に勤務している人でさえ、最初はわかっているつもりでも、すぐに忘れてしまいます。

では、学校の中でどういう人がうつや不登校の子どもの気持ちがわかるのかというと、一つは自分の子どもがうつや不登校になってしまった人。もう一つは自分自身がうつや不登校になってしまった人です。わが身をもって体験しないと、本当の辛い気持ちは理解できないのです。

この先生は今、学校に行きたくても行けないという悔しいジレンマを抱えた状態で、なぜ行けないのかもわからない、体がついてこない状態なのだと思います。不登校は「身体」がキーワードです。この経験を生かして、社会にうまく適応できない子どもたちをサポートすることをミッションとしていけたらいいのではないでしょうか。「自分はそのために選ばれたのだ」というくらいの気持ちを持って、また教師をやってほしいと思います。

まずは生活リズムを整えて、仕事に関わることに目を向ける

では、具体的に学校に戻るために必要なことを考えていきましょう。生活リズムを整えていく、仕事に関わるようなことに気持ちを向けたり、頭を使ったり……。そうしたことを少しずつでもしていったほうがいいでしょう。ご相談の先生はこうやって質問をくれているので大丈夫だと思います。たぶん、ほかの教育関連の雑誌やサイトも見ているはずです。あとは夏休みに研修会に出てみたらいいと思います。今はオンラインでも行われているので外出しなくても参加できます。

朝、同じ時間に起きることからだんだん規則正しい生活に戻していきましょう。勤務時間に学校に行けなくても、代わりに近所の図書館へ行くとか、体を動かすということから始めてもいいのです。これは不登校の子どもにも同じことが言えます。この時期の経験も今後の指導に生きると思います。

辛いことは遠慮なく伝え、同僚は普段通り迎える配慮を

次に職場との調整です。具体的に言うと校長先生や教頭先生と面談して、環境の配慮や調整をお願いする作業をこの時期にしていったほうがいいでしょう。

環境調整をしてもらうときには、遠慮なく「これとこれは今の自分には難しいと思います」と伝えることが大事です。この先生がメンタルヘルスを崩したきっかけはわかりませんが、保護者会でひどく追い詰められたのが不調の始まりだったような場合は、「保護者会でフロントに立つのは、ほかの先生に代わってもらいたい」など、遠慮なく言うことです。

最初にも言ったように、うつ病になるのは真面目で責任感の強い方が多いのです。ここで「大丈夫です。全部やります」と言ってしまうと、あまりいいことが起きない気がします。無理をせず遠慮なく「今の自分に無理なことは無理」ということが大切です。

同僚の中で特に仲のいい先生には、オープンに状況を全部言っておいたほうがいいと思います。本当は学年主任の先生がベストなのですが、関係次第でしょう。仲がよければ管理職に対してもいろいろと代弁してもらえるので、そのほうがいいと思います。

最後に、周りの先生方が復職してくる先生を迎えるときのことです。これはよく言われることですが、「普段通りに接する」のが一番いいです。変に気を遣うと復職してきた先生が「自分は気を遣われている」と感じて、よけいに援助を求めにくくなってしまいます。復職した先生が「本当に普通だな、変わらない姿勢で自分を受け入れてくれたんだな」と感じられる環境を作るよう心がけてください。


諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。

諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/

取材・文/長尾康子

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