全教員参加の模擬授業研修で目指す「外国語」授業づくりの強化策

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新学習指導要領の実施の中で、外国語の授業づくりに学校全体としてどのように取り組んでいくか。校長の打ち出す方針が非常に重要になる場面です。「学校教育向上事業」研究指定校として、子どもの自主性・主体性を大切にした外国語の授業づくりに力強く取り組んでいる東京都中野区立白桜小学校の事例を、宇賀神佳子校長に説明していただきました。外国語教育を支える基盤のひとつとして校内研修が成果を上げていると言います。

イラスト/横井智美
イラスト/横井智美

模擬授業形式の研修で授業のイメージをつかむ

白桜小学校では、外国語教育の強化に学校全体で取り組むために、校長自ら「外国語活動・教科外国語の実施に向けて」という教員向け通信を発行しました。

そして徐々に学校全体で理解が深まってきたところで、今度は教員たちの意欲をより高め、授業実践力の向上も図ろうと、授業研究を中心に据えた校内研修と、研修を円滑に進めるための体制の整備に取り組みました。

もっとも注力し、大きな効果を生んだのが模擬授業です。管理職を含む教員らが子ども役となり、授業者の発音や指示英語、発問等の改善を図ったり、使用する教材の有効性を話し合ったりしました。

授業者は、英語で対話を続けるための「つなぎ言葉」を実際の経験からたくさん習得し、また参加者にとっては授業の流れや子どもたちの反応をイメージしながら指導案を検討できる貴重な機会になったといいます。

「最初の頃は、皆、以前の取り組みのイメージから離れることができなくて、『この歌がいい』『このゲームがおもしろい』などと、ただ単に子どもが楽しめるアクティビティのアイディアを出し合っていました。

アクティビティ至上主義というか、良いアクティビティや教材を用意すれば子どもたちが英語に興味を持ってくれると考えていたのだと思います。

しかし模擬授業とその後の研究協議会を繰り返し行っていくうちに、いつしか、アクティビティそのものではなく、そのアクティビティによって子どもにどんな力が身につくのかを考えるのが普通になっていきました」

それ以降は、どんな場面設定のもとで何を学ぼうとしているのか、目的やねらいを意識しながら授業づくりを考える時間へと進化。「子どもがどういう姿になれば良い授業といえるのか」「先生が言った言葉の真似ではなく自分で選んだ言葉を使って考えを伝えようとしているか」などといった議論も活発に行われるようになったということです。

スモールトークと英語劇で教員の英語への抵抗をなくす

チャレンジ!

宇賀神校長によると、今回の取り組みでもうひとつ、大きな効果を生んだ研修があるといいます。それは、英語教育推進リーダー中央研修派遣者を講師とした還元研修です。同校に在籍する英語教育推進リーダーが夏季休暇中に教員たちを集め、英語に慣れ親しむための研修を実施しました。

具体的には、スモールトークのやり方を学んで教員同士で実践したり、『ジャックと豆の木』を題材にした即席英語劇に取り組んだりしました。特にこの即席英語劇は、教員たちに、間違っても構わないのでとにかく英語を口にするという経験を与えてくれたそうです。

「劇というスタイルがよかったのだと思います。最初は英語を発することを恥ずかしがっていた教員も、いい意味で開き直ってどんどん積極的になり、しばらくすると英語に親しみが湧いてきたようでした」

ただし、これには注釈が必要です。新学習指導要領では、音声を中心とした指導が求められているのですが、そこでは必ずしも教員たちに正しい英語を使って教えることを求めているわけではありません。もともと英語が得意な人ならともかく、そうでない教員に正しい発音を求めてもあまり意味がないからです。

「本校の教員たちにも、正しい発音は音声教材やALTに任せればいいし、英語を『教える』という考えもいったん忘れたほうがいいということを伝えています。小学校の外国語教育において学級担任たちに求められている役割はそこではなく、子どもたちと同じ学習者として、日常の中でどんどん英語を使う姿を見せていくことだと私は考えています」

白桜小学校の職員室で、決して流暢とはいえない英語がいつも飛び交っているのも、こうした宇賀神校長の考えによるものです。“Aren’t you tired? ”という校長の問いかけに、教員の1人が、“Yes, I am tired. ”と答えます。

言葉が詰まって英語が思うように出てこないこともよくありますが、多くの教員たちが、英語を使ってコミュニケーションを図ることの難しさと同時に、自分の英語が伝わったときの楽しさを実感しているといいます。

このように教員たちが、苦手なことに一生懸命挑戦する姿、楽しんで英語を学んでいる姿、間違いを恐れずに英語を使って話そうとする姿を、子どもたちに日常風景として見せていくことが、「学びに向かう力、人間性を育む」という意味で、すでに有効な外国語教育になっているのです。

「それからもうひとつ。わざわざ時間と場所を決めて校内研修を行わずとも、こうした職員室や廊下でのちょっとしたやりとりが、貴重な校内研修の機会になると気づけたことも、私たちにとっては大きな収穫でした」

こうして校内研修を進めてきた結果、英語を話すことに対して抵抗感をもつ教員は白桜小学校から1人もいなくなりました。ほんの数年前には何人もいたにもかかわらずです。

そして、もうひとつの大きな成果が、教員たちの授業をつくる力の向上です。具体的には、その授業の目的や目標、子どもたちの到達度などを、教員1人ひとりがしっかり見きわめられるようになってきたといいます。これで教科化で心配されている「評価」についても、白桜小学校の教員たちが苦労することはないはずだと宇賀神校長は話していました。

取材・文/石川 遍
『総合教育技術』2019年5月号より

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