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<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」第2部・学校づくり編 #4 山形県小国町立小国小学校6年1組②

連載
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」 第2部・学校づくり編 タイトル

菊池実践を追試している3つの学校の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載、第2部。第2部では学級にとどまらず、学年、学校、地域を変えていくことを視野に入れた話し合いの授業を展開、レポートしていきます。今回は、山形県の曽根原 隼先生の学級(6年生)における2025年10月の授業記録をお届けします。

レポートする学校の3人の先生方の紹介

担任・曽根原 隼先生より、学級の現状報告

友達同士の対話だけでなく、委員会活動や行事でも、積極的に話し合おうとする姿が見られるようになってきました。
2学期の運動会では、これまでのようにリーダーによる一方的な指示によって動くのではなく、「自分のめあてを隣の人と確認しよう」「今の応援をもっとよくするためにはどうしたらいいか周りの人と相談しよう」と、応援練習の中でも話し合いを行うようになりました。
子供たちが対話・話し合いのよさを実感し、「一人をつくらない」という意識が強くなったように感じています。
そこで今年度は、これまで取り組んできた価値語事典・成長文集についてその意義を振り返り、自分たちの成長を伝え、読んだ人を感化したり勇気づけたりする文集づくりを目指すことにしました。これまでの学校生活を振り返り、自分の成長や学年・学級としての成長を見直すとともに、小国小学校での学びについて発信していくことを考えています。
これまでの文集づくりは教師主導で行ってきました。子供たちの意見は取り入れていたものの、子供たち自身のものになっていたかと考えると疑問が残ります。卒業を目前に控え、これまでの学びを発信することを念頭に置きつつ、子供たちの、子供たちによる文集になるようにしたいと思います。
発信方法についても、社会と関わる体験へとつなげ、子供たちの学びの記録である価値語事典・成長文集が教室の外へと浸透していくようにしていきたいと考えています。

菊池先生による授業の前時:曽根原先生の授業(3時間目)の概略

6年生が制作した価値語事典を、地域に向けて発信したいと考えた子供たちは、価値語事典のテーマと全体構成について話し合った。
子供たちからは次の三つのテーマが出された。

① 6年生の「成長」という事実を中心に、小国町を変えていこう
② 小国小で学び、生活に活かせるヒントを提案します
③ 一人ひとりが個性を発揮し、認め合える6年生をお伝えします

この中から一つを選ぶか、または合体させて新たなテーマを生み出すか。子供たちの議論は続いたが結論が出ず、次の時間へと持ち越しとなった。

3時間目の授業を受けた菊池省三先生の授業

「これは何を示しているのでしょう?」
菊池先生が、黒板に白いマグネットを1個貼り付け、みんなに尋ねた。近くの人と3秒間相談し合い、思いついたことを起立して発表。
菊池先生が、コの字型に並んだ教室の真ん中に立ち、
「思いついたことでいいんだから、立てるよね」と座っていた子をあおった。その子が立つと、
「『じゃあ、私も』って立つよね」と隣の子をさらにあおり、子供たちが次々と席を立った。

⚫︎磁石は磁石
⚫︎平成に買った磁石
⚫︎「人」の位置を表す

「人」と答えた男子に、菊池先生が、「人って誰?」と尋ねた。その男子が、
「自分」と答えると、菊池先生が力強く握手し、みんなが大きな拍手を送った。
「いつの自分だと思う?」とさらに尋ねると、後ろに座っている女子が、「今?」と少し自信なさげに答えた。
菊池先生が拍手を促し、みんなが大きな拍手。
「そうです。私たち一人ひとりの『今の自分』ということだね」と菊池先生が、白い磁石の左下と右上に直線を引き、左側に「過去」と書き、
「右側は何かわかる人?」と尋ねた。
全員が立った。
当てられた子が、「未来です」と答えると、みんなが大きく拍手した。
「みなさんは、1年生のときに学校探検をしました」と白い磁石を小さく丸で囲んだ。
「今は6年生だから、学級だけでなく学年全員で取り組み、それを全校に広げている。さらには、町全体にも広げようとしているんだね」と、菊池先生が白い磁石の周りを、波紋を表すようにいくつもの丸で囲んだ。
「成長しながら自分の世界を広げて、未来に向かって価値語事典を作る。すごい取組ですね」
菊池先生の話を聞きながら、みんなが笑顔になった。


3時間目と4時間目の、教室の空気の “切り替え” を意識しました。
私はよく、「言える人?」「思いついた人?」と、子供が自ら進んで答えるような問いを多く出します。しかし、答えない・答えられない子が必ずいます。一昔前であれば、自分のノートや教科書を見るふりをして下を向く、今ならタブレットを開いて探すふりをする……。このような学びからの “逃げ” をそのままにしておくと、やがてそうした子たちは学びの「わ」(輪・話・和)から外れていきます。そうした逃げを断ち切るため、「思いつきの発言でいいのだから、誤答はない」タイプの問いを出し、子供たちが自分から答えるように促します。「みんなが発表する」ためには、空気づくりが必要なのです。
こうした促しやあおりを入れるとき、私は必ず子供たちの座席やグループの間に入っていくようにしています。この授業では、3時間目で机の配置がコの字型になっていたので、私は中央の空いているスペースに行きました。この動きには、「今の時間は、みんなの発表が中心になるんだよ」と伝える意味があります。
教師の立ち位置一つで、子供たちに授業の形態の違いを示すことができます。
 ⚫︎教室の前にいるときは、教師中心の時間
 ⚫︎子供たちの中に入るときは、子供中心の時間

さらに話し合いが進むと、教師は子供たちの視界から消えていくようにします。
このように、問いや教師の立ち位置を学びに応じて切り替えることで、授業にメリハリが生まれるのです。

エピソードを聞き合うのが対話

菊池先生が、3時間目で話し合った価値語事典のテーマ<「成長」という事実を中心に小国町を変えていこう>が書かれた板書のうち、<小国町を変えていこう>の部分にチョークで赤線を引き、前方の3人を指名。
「小国町を変える──。どんなふうにしたいんですか? 『こうしたい』というビジョンを教えてください。一人ひとり違うのだから、聞いた人は友達の意見を応援してくださいね」と菊池先生が促すと、みんながうなずいた。
さらに菊池先生が、聞き方についてアドバイス。
「リアクションのポイントは、『うなずく』『軽く驚く』『上手に笑う』の3つです。…いいな、いくぞ!」と声をかけると、みんながやる気いっぱいの表情になった。

⚫︎価値語事典を通して、小国町の人が全員笑顔で豊かな心を持てるようにしたい
⚫︎6年生の努力や成長を、町の人全員に知ってほしい
⚫︎小国町をもっとよりよくして、みんなを笑顔にしたい

発表の途中で菊池先生が、
「聞いた人は、発表した人の言葉の意味を考えながら聞く。発表の中に、そう考えたきっかけや具体的なエピソードが入っていると、もっと具体的にイメージして聞くことができるね」とアドバイスした。
再び発表に戻ると、より具体的な内容が出てきた。

⚫︎最近、町の百均(百円均一ショップ)もなくなったので、元気を出してほしい
⚫︎4年生の頃、初めて価値語事典を作ったとき難しくて大変だったので、その努力を知ってほしい
⚫︎小国町のイベントや祭りが年々減ってきて、楽しいことが減ったので、価値語事典でもう一度盛り上げたい

「相手にも自分にもある、 そう考えた“きっかけ” や “エピソード” を聞き合う。これが対話です。
対話は、議論とはちょっと違います。相手の発言を否定せずに聞くのと同時に、『自分はどうだろう』と自分自身にも問いかける。これがないと、相手の意見に対して、『そんなの絶対無理!』と否定することになる。いろんな友達と、いいリアクションをし、うなずきながら聞き合いましょう」
菊池先生の声かけに、子供たちが席を立ち、自由に意見交換を行った。

⚫︎今まで価値語事典を学年や保護者にしか見せたことがなかったので、町の人にも知らせて、町がよくなるようにしたい
⚫︎町の人口が減って店も少なくなって、このままだともっと人口が減ってしまう。だから、自分たちから活動して、他の県の人が観光に来るよう盛り上げたい
⚫︎スーパーマーケットもなくなって、イベントも少なくなっているから、もっと楽しい町にしたい。

「自分たちにもやれることがあるんじゃないか、とビジョンに向かっていく熱を大切にしたいですね」と、菊池先生が子供たちの熱い気持ちを認めてほめた。


対話において最も大切な自己開示の核になるのが、「きっかけ」と「エピソード」です。子供の意見には、必ず背景となるその子自身のエピソードがあります。そこを聞き合ってこそ、本当の対話が生まれます。
学級が少人数で人間関係が固定されたままだと、「あの子はこんな意見を出すだろう」と高をくくって聞き流してしまうことが多々あります。ずっと一緒にいるというだけで、“友達のことをなんとなく知った気”になっているのです。このような話し合いでは、対話は弾みません。
価値語事典作りは、一人ひとりが大切にしている価値語を解説し、それらを1冊の冊子にまとめ、校長・教職員や保護者、地域へと発信していく大がかりな取組です。そのためには、根幹にある「町を変えたい」という思いをみんなで強く共有することが大切です。
もちろん、その思いは一人ひとり違います。だからこそ、対話・話し合いを通して、「なぜそう考えたのか」というエピソードを聞き合い、掘り下げていくことで、学級あるいは学年全体の強い思いとなっていくのです。

発表の文末にこだわる

「3時間目でみんなが出した三つの願いをもとに、今後の授業で絞り込んでテーマを決めていくと聞いています。そこで、この授業では、テーマの文末表現について考えてみたいと思います」
菊池先生がそう話すと、3時間目で最終的に黒板に書かれた三つの願いの文末、<お伝えします><6年生><提案します>の3カ所に線を引いた。
「自分にとって、どのテーマの文末表現が一番ぴったりくるかを考えます。『自分にとって』なので、もちろん一人ひとり違っていいんだよね」
どれに決めたかを尋ねると、次のような結果になった。

<お伝えします>……10人
<6年生>……0人
<提案します>……12人

同じ考え同士のグループに分かれて意見を交換し、そのままの位置で発表した。

<お伝えします>派
⚫︎伝授する、習得させるというイメージがある
⚫︎一人ひとりの個性をいろいろな人に伝えることで、個性を知ってもらえる

<提案します>派
⚫︎「伝えます」だと、単に人に伝えるだけだが、「提案します」だと考えを提案するので、より強い意見になる
⚫︎自分だったら、「提案します」のほうが受け入れやすい

発表トップバッターのA君が言葉に詰まると、菊池先生が、
同じ考えを選んだ人たちは “チーム” だよね。チームはフォローし合うんだよね。友達の話を、じっと待って聞いてあげる。『どんな意見かな。自分ならどうかな』と考えながら聞く。だから、同じチームの仲間のフォローもできるんだよね」と話すと、A君の後ろにいた女子が代わって発表した。

発表を終えると、子供たちは自分の席に戻った。
「一人で不安なときは、二人で発表してもいいんです。
何かを決めていくとき、すぐに言葉にできない友達もいます。そういう友達に、『何か不安や、心配な気持ちはありませんか?』と言葉をかけると、『不安な気持ちを言ってもいいんだな』『他の人の意見とはちょっと違うけれど……』と感じて、意見を言いやすくなります。
こうした話し合いができるようになると、友達と意見が違うときも、『反対です』と言って議論するのではなく、『アドバイスします』『~~したらいいと思うので、私もフォローします』という言い方になっていく。そうすると、自分の考えも大事にしつつ、他の意見に変わることができるになります。話し合いがもっと活発になっていくのです」
菊池先生がそう話すと、以下のように板書した。

書くということは自分を することである
書くということは自分を することである

「これは、ある有名な教育者の言葉です。テーマや発信方法が決まって、価値語事典を書き、小国町やいろいろな人に伝えていくとき、この二つのことを考えながら作り上げてほしいと思います。
それぞれ、どちらも漢字2文字の熟語が入るんだけど、どんな熟語が入るでしょう?」
近くの人と相談し、思いついた子から席を立って発表。

⚫︎表現
⚫︎成長
⚫︎強化
⚫︎進化

「この教育者は、<整理><確立>と考えたそうです。今までの自分を整理し、振り返りながら、成長の道に向かう自分を確立していく。これを目指しているみなさんはとても凄いと思います。持てる力を発揮して発信するだろう、次の授業を楽しみにしています」
菊池先生の話に、子供たちは大きくうなずいた。
授業の最後に、価値語係の3人が、価値語、価値語事典にかける思いを発表した。

⚫︎価値語は、みんなが成長できることだと思った。みんなで見たり話し合ったりすると、成長できることがわかる
⚫︎階段を登るためには、いい言葉がないと前へ進めない。友達が使っていた価値語が自分のものになる
⚫︎成長や進化を書いて、責任感や公の場を意識しながらみんなで整理整頓し、どんどん成長していく。次へと成長する言葉だと思う

「価値語は、いろいろな場面に広がっていくんだね。お互いを高め合うためには、価値語のような言葉が必要です。対話は、相手のエピソードを否定せずに聞いて、自分も振り返っていくという、高め合いです。こういう対話を経て、価値語事典を完成させていくんですね。
価値語事典は、隣のクラスとも一緒に取り組んでいると聞きました。学年全体、学校全体、そして小国町へと広げていく学びを、さらに進めてほしいと思います」
菊池先生がそう締めくくると、子供たちがやる気の表情でいっぱいになった。


価値語は、「言葉」にこだわる取組です。
子供たちに、言葉一つひとつにもっと目を向けてほしいと考え、このような授業展開にしました。
みんなで意見を出し合い、練り合っていく話し合いでは、一人ひとりが思いついたことをどんどん発表していくことも必要です。しかし、練り合っていく段階では、言葉一つひとつにもっとこだわる必要があります。
3時間目、意見を絞り込んでいく話し合いの場面で、子供たちは “キーワード” になる言葉をいくつも詰め込み、結果として言葉が空回りする “言葉遊び” としての話し合いに傾いていきました。言葉を整理し、確立していく作業は、書く場面だけでなく対話・話し合いをまとめる場面においても、とても重要になってきます。

菊池省三先生から曽根原先生へのメッセージ

価値語事典の発信を、学級・学年、学校から町へと広げていく授業は、学びを社会化していく上で、とても意味がある取組です。
私はかねてから学びのゴールイメージの一つとして、「社会化」の重要性を述べてきました。担任として自分の学級で試みる実践を、「知識として知っている」から「実際にやる」へとステップアップさせたということです。「小さな町の、小さな学校の、小さな教室」の中で満足するのではなく、子供たちの学びを掘り下げ、外へと広げていく姿勢はとても大切です。
小国小学校では隣のクラスも巻き込み、学年全体として価値語事典作りに取り組んでいると聞き、嬉しく感じています。曽根原先生はこれまでの経験から、「ここは教師主導でしっかり示すところ」「ここは子供たちを中心にするところ」と押さえるべきポイントを身につけてきたと思います。隣の学級の担任にアドバイスしながら、教師も子供も、みんなが楽しめる活動にしていきましょう。
この試みは、曽根原先生にとっても、新たな学びになるはずです。
「これまでの経験」に満足してしまうと、教師の学びはそこで止まってしまいます。そして、教師の学びが止まれば、子供の学びも止まります。ベテランだからと守りに入らず、これからも攻め続ける姿勢で臨んでほしいと思います。

菊池省三先生による授業解説

価値語事典は、一人が一つの価値語について意味や背景などを解説したものを、1冊の冊子にまとめたものです。制作は個々の作業が中心になりますが、作りっぱなしで終わるのではなく、その後活用することに大きな意味があります。
誰に向けて、どんな目的で、どういう形で発信するか。話し合いを通して、それらを子供たちが自らつくり上げていきます。
この活動には教科書もガイドブックもありません。イチから積み上げていかなければならない活動だから、うまくいかなくて当たり前。体裁よりも、その試行錯誤の過程こそが、子供たちの真の学びとなるのです。
例えば、どういう形にまとめていくかについて話し合う際のルールは、学級会や代表委員会、児童会など、最高決議機関での話し合いのシステムを活かします。
内容については、一人ひとりがどれだけ自己開示できるかが重要で、つまり学級の人間関係づくりが問われます。
一つの単元としてこの活動に取り組むとき、その場限りの活動にならないよう、教師は全体を見通さなければなりません。文章力や対話力など、個々の力に対する指導が必要になる場合もありますし、「学びの社会化」の価値をどう意識させるか、その過程にも目を向けていかなければならないでしょう。
「学びの社会化」は、子供だけでなく、教師自身の学びの集大成でもあるのです。

「自分にとってぴったりくる文末はどれか」について、いろいろな友達と意見を交わし合う子供たち。
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取材・文/関原美和子


菊池省三先生の写真

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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