スーパー保育士×小学校長対談「ポジティブな言葉と笑顔を教室にあふれさせよう」
新採教員であっても、子どもたちの前に笑顔で立つことと、一人一人をできるだけほめる努力をすることは可能です。「笑育」を掲げて実践を重ねる俵原正仁校長と、元保育士の原坂一郎さん。「笑い」を生み出す達人二人の対談で、明日からできる「温かい指導」について考えてみました。
左)原坂一郎(こどもコンサルタント・元スーパー保育士)
右)俵原正仁(兵庫県公立小学校校長)
はらさか・いちろう。1956年生まれ。23年間保育士として勤務後、KANSAIこども研究所を設立。俵原先生との共著『若い教師のための1年生が絶対こっちを向く指導!』(学陽書房)等がある。
たわらはら・まさひと。1963 年生まれ。「子どもの笑顔を育てよう」という「笑育」のコンセプトによる実践が数多くのメディアで 話題に。近著は『「崩壊フラグ」を見抜け!』(学陽書房)。
目次
1時間のうちに3秒×20回の笑顔を
―原坂さんの事務所「KANSAIこども研究所」の扉を開けた取材班は驚きで硬直。一瞬の後、笑い声が響き渡りました。なんと科学特捜隊とウルトラ警備隊のコスプレをしたお二人がスタンバイしていたのです。
俵原・原坂:こんにちは―――!!
原坂:僕ら二人とも、常に相手を笑顔にしたいというのが共通する性格。会った人に最初の10秒で良い印象を持ってもらい、笑顔になってほしい。だから今日はこの格好です。相手を喜ばせたいだけで、自分がボケたいのとちゃうよ(笑)。
俵原:本当はボケたいだけだという疑惑があります(笑)。教育でもやっぱり笑顔が大切ですね。
原坂:本質は何十年も変わっていませんね。保育所や幼稚園では子どもって、本当によく笑うんですよ。けれど小学校に入った途端、笑顔が少なくなる傾向がある。もったいないです。
俵原:入学時って、子どもたちは心の底からワクワクしていて、人生で最も学ぶ意欲が高い時なんです。その意欲が徐々に失われてしまう。防ぐには先生が子どもと一緒に面白がれて、笑えるクラスにするのが一番だと確信しています。
原坂:まずは先生が笑うことですよね。僕はずっと笑顔じゃなくていいから、「1時間のうちに3秒の笑顔を20回」と教えています。合計すると1分は笑顔、残り59分は普通の顔でいい。それだけでクラスの雰囲気が激変します。
俵原:教科書を進めなきゃ、授業を成立させなきゃって、若手の先生は焦って笑顔が少なくなり、ダメ出しの言葉が多くなりがちです。結果として冷たい雰囲気になりますね。
あと保育所や幼稚園と小学校を比べて勉強になったのが、園の先生の方が圧倒的に子どもをほめる量が多いこと。小学校では授業中はほめますが、生活や遊びの場面ではまだまだ少ないですよね。
原坂:大人はみんな「私ってほめられて伸びるタイプ」と言いますが、子どもも同じですよね。
保育所や幼稚園の先生から学びたい「伝わる言葉」の秘密
俵原:保育所や幼稚園の先生って、子どもに向けて「嬉しいね」って、たくさん言いますよね。例えば運動会で「今日は晴れて嬉しいね」と言い、みんなの気持ちを「嬉しい」方向に導いていく。まさしく言霊みたいなものです。
原坂:子どもの共感を促す言葉なんですよね。
俵原:見学に行くと、保育所や幼稚園の先生はプラスの言葉かけが圧倒的に多い。叱る場面でのネガティブな言葉も、言葉尻が柔らかだったり、顔が笑っていたり、トーンもゆっくりだったりして、それだけで全然違います。小学校でも力量のある先生は自然にやっていますけど。
原坂:子どもが物を落とした時に、「落ちちゃったね」って笑いかける先生と、「なに落としとんの!」って叱りつけてしまう先生がいるからね。
俵原:指導の仕方も、「〇〇しちゃダメ」じゃなくて、具体的に、「今は〇〇をします」と伝えることが大切です。例えば静かにさせたいなら「今は静かにします」。
高学年だと考えさせたいから「今は何をしたらいいかな?」と言いますが、低学年ではそう言っても混乱させてしまい通用しません。「AさせたいならAAA」。明確に繰り返し伝えることが原則なんです。
原坂:低学年だと擬人化も効果的ですよね。スコップが出しっぱなしだったら、「スコップさんがかわいそうだから、おうちに帰してあげましょうね」とか。折り紙でも「お山とお山がこっつんこなるように」という言い方をします。
子どもって年齢が一桁のうちは、「嬉しい」「楽しい」「面白い」ことが起きたら条件反射のように笑うんです。だからこの3つの感情を喚起すればいい。みんなに着席を促すかと見せかけて、「はいみんな、座り……ません!」ってやるだけで大ウケです。
俵原:高学年でもいいクラスの子は些細なことで笑うし、表情が柔らかいですね。
原坂:僕は「物ボケ」をよくやります。例えばハンカチを折り三角形にして、額に当てて「うらめしや~」、アゴに当てて「ヒゲじいさんですよ~」、頭の上に載せてお辞儀したらハンカチが落ちる……そんなので子どもたちは大爆笑。5回繰り返してもウケます。
俵原:身だしなみのチェックでも、ハンカチを出させる時、ドラえもん風に「ハンカチ~~」って言うだけで、みんな、大笑いするからね。
原坂:「これで手を拭けるんだ~~」とかね(笑)。
俵原:でもシャイな先生もいます。そういう方は「早押しピンポンブー」のような小道具や、ディスプレイにパワーポイントでクイズや計算問題等を提示するフラッシュ教材を活用してもいい。
最初はアイテムに頼りつつ、徐々に楽しい授業ができるようになりましょう。あとは、「ヘン顔」ができると強いですよね。ポカ~ンと大きく口を開けるだけで子どもは笑います。
原坂:それ、僕らの十八番だよね(笑)。
統一フォーマットによる情報共有シートの可能性
―今後、保幼小連携をより充実させていくために、どのような工夫が必要でしょうか?
原坂:年長の担任と小学校の代表が集まって情報を共有する懇談会は、非常に重要な機会ですから、保育所や幼稚園は遠慮せずに情報を開示し、小学校側はもっと貪欲に情報を得るべきだと考えています。
私自身は、配慮や支援が必要な子どもや保護者については、小学校側にはっきりと正確な情報を伝えるようにしていました。
俵原:小学校の先生側としては、「大きなトラブルはありましたか?」というのが鍵になる大切な質問です。見過ごせない問題はこれで拾い上げられます。ちなみにうちの校区では園の先生方と相談しながら、保幼から小への情報共有シートをフォーマット化しようと動き始めていて、既に導入している自治体もあります。
園によっては情報伝達に関して躊躇、遠慮してしまうところもあるし、それぞれ保育の仕方も違いますから、今後はこうした統一フォーマットの情報共有シートを活用しつつ、小学校側が意識的に情報を収集する必要があると思います。
原坂:情報共有シートは双方にメリットがありますね。あとは、情報共有懇談会の場での和やかな雰囲気づくりも、お互いの課題ですね。
俵原:学校の先生方には「〇〇君、すごく頑張っていますよ」といったほめ言葉から入ることをお勧めします。園の先生も「よく見てくれている」と嬉しくなり、話しやすくなります。
原坂:僕が保育士の時、小学一年生の授業を見てすごく参考になりました。同じように、小学校の先生もぜひ保育の現場を見に来てほしいですね。特に指導目標を持って行う「設定保育」の時間に立ち会うと、きっと得るものがあります。保育側は大歓迎ですよ。この頃は見学自由の園も増えました。
俵原:最近、園の子どもたちが学校に給食を食べに来たり、五年生と一緒に体育でプールに入ったり、図書室で一緒に読書したり等の交流は増えています。小学校と幼稚園・保育所の対話の機会が増えたのも良いことですね。
―最後に、低学年を担任する若手に向け、メッセージをお願いします。
俵原:入学式の時の子どもたちの、キラキラした目の輝きを保ち続けられるように、そして自分自身も入学式の時の気持ちを持ち続けられるようにしましょう。そのためには、何より笑顔と、プラスの言葉かけが大切です。子どもが笑って過ごせる場をつくるのが、先生の役目です。
原坂:一年生担任は、子どもの人生にとってとても大きな存在です。子どもたちは成長した後も、いつまでも一年生の時のことを覚えています。教師を志す人は間違いなく子ども好きだし、子どもに対して理解力があるはずですから、ぜひ自信を持ってほしいと思います。
あとは時々、「自分はなぜ小学校の先生になったのだろう」と、原点を思い出してみましょう。あなたのポテンシャルは素晴らしく、それを絶対に発揮できると信じましょう。ヘン顔と物ボケもお忘れなく(笑)。
取材・文/佐藤太志 撮影/西村智晴
『教育技術 小一小二』2020年3月号より