「さいたまSTEAMS教育」で教科等横断的かつ探究的な学びを推進【連続企画 探究的な学びがカギ! これからの「理数教育」のあり方 #06】

特集
探究的な学びがカギ! これからの「理数教育」のあり方

ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、そしてAI(人工知能)などの著しい進展によって社会が激しく変化し、これまでになかった多様な課題に直面している現代。文系・理系といった枠にとらわれず、様々な情報を活用しながら、それを統合し、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結びつけていく資質・能力の育成が求められている。そのような中、さいたま市が独自に推進している「さいたまSTEAMS教育」について、さいたま市教育委員会学校教育部指導主事の能見郁永氏に聞いた。

埼玉県さいたま市教育委員会

人口130万人を超えるさいたま市。市内にある公立の学校は168校(小学校104校、中学校58校、高等学校3校、中等教育学校1校、特別支援学校2校)にのぼる。市独自の取組「さいたまSTEAMS教育」は実施4年目。

写真は学校教育部指導主事の能見郁永氏。

この記事は、連続企画「探究的な学びがカギ! これからの『理数教育』のあり方」の6回目です。記事一覧はこちら

市立高校での先行研究・実践を小・中学校で活かし、展開する

さいたま市は、文部科学省が掲げる「STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進」を受け、独自の「さいたまSTEAMS教育」を推進している。

指導主事の能見氏は、「さいたま市でも、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かす、そんな資質・能力を子どもたちに身につけさせたいと考えたのが、STEAMS教育を導入したきっかけです」と話す。

この「さいたまSTEAMS教育」は、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定された市立高校での理数教育などの先行研究・実践を踏まえたもので、「科学技術分野の発展や革新を支え、新たな価値を創造し、未来社会をリードする人材の育成」「科学技術の進展により複雑に変化する現代社会において、自己実現できる市民の育成」を目標としている。

教育課程の中に位置づけた市独自のSTEAM教育の取組

さいたま市独自の取組としての特徴は大きく2つ。1つは、S(Science:科学)、T(Technology:技術)、E(Engineering:工学)、A(Art:芸術・リベラルアーツ)、M(Mathematics:数学)からなる「STEAM」に、S(Sports:スポーツ)を加えて「STEAMS」としたこと。さいたま市はサッカーをはじめ、もともとスポーツが盛んなことも背景にあるが、「2019年度から、DXツールを活用してスポーツを科学的に分析し部活動に活かす、という研究に取り組んできた市立高校もあり、その取組を小中学校でも展開したいと考えました」と理由を明かす。

そしてもう1つの特徴として、能見氏は「これはおそらく自治体としては初めてなのではないかと思いますが、『さいたまSTEAMS教育』に特化した『STEAMS TIME』という時間を総合的な学習の時間に位置づけ、授業として扱っています」と話す。

「さいたまSTEAMS教育」については、2020年度から市内の各小中学校で、各教科等の授業において教科等横断的な学習と探究的な学習の充実が図られてきた。そのような準備期間や学校への周知などを経て、2022年度より、小学3年生から中学3年生までの「STEAMS TIME」が一斉に始まった。

「さいたまSTEAMS教育」で、現代の諸課題に対応して求められる資質・能力の育成もめざす。

「STEAMS TIME」の柱となるプログラミングとPBLの学習

「STEAMS TIME」は、子どもたち一人一人のワクワク感を大切に、教科等横断的な学習で育んだ資質・能力を活用して課題を解決する授業プログラムだ。

「その内容については2つの柱があり、『プログラミング的思考をはぐくむ内容』を年間で3時間以上、『創造性をはぐくむPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)』を6時間以上、2つ合わせて9時間以上取り組んでくださいという形にしています」

「プログラミング的思考をはぐくむ内容」は、コンピュータなどによる情報処理を通じて、プログラミング的思考を活用しながら、身近な問題を解決する学習。「創造性をはぐくむPBL」は、実生活の中から課題を見いだし、チームで解決に向けて調べ、考え、まとめ、成果を発表するという探究的な学びである。

「STEAMS TIME」を実施にするにあたっては、事前に研究指定校等の教員が中心となって、実践やアイデアをもとに授業コンテンツを作成。当初は、そのコンテンツや経済産業省の「STEAMライブラリー」などを参考に実践を重ねてきたが、現在はそればかりでなく、独自の内容を考えて「STEAMS TIME」に取り組んでいる学校もたくさんあるという。

「STEAMS TIME」の2つの柱、「プログラミング的思考をはぐくむ内容」と「創造性をはぐくむPBL」。

廊下での衝突を防ぐプログラムや学校でのケガを減らすための対策

「プログラミング的思考をはぐくむ内容」の小学校での実践例としては、人型ロボットを活用して、「ほっこりするやりとり」をテーマにプログラミングを体験するというものがある。

「暮らしにちょっとだけ役立つプログラムを作ろう」をテーマに、学校生活で不便を感じることを解決するプログラムに挑戦。廊下の曲がり角で人とよくぶつかるため、反対側から人が来ると、センサーが察知し、ライトが光って知らせるプログラムを作成した。また、登校時に雨が降っており下校時にはやんでいるとき、昇降口で子どもたちに「傘、忘れてない?」と声をかけるプログラムを組み、実際に忘れ物が少なくなった学校もあるという。

もう1つの柱である「創造性をはぐくむPBL」では、小学校4年生が「けがを減らそう」をテーマに、学校でよくするけがの種類や場所、時間などのデータを取って分析。けがを減らす方法を考え、実際にその解決に取り組んだ。

ほかにも、「災害に強い橋を造るためにはどのような構造にすればよいのか」という課題に対して、重さに耐えたり、強度をもたせたりするため、子どもたちがペーパーブリッジの作成で試行錯誤をくり返すという授業を行った学校もある。

ちなみにスポーツに関しては、体育の授業における運動の動きを動画で撮影し、子どもたちがそれを見て分析し参考にするなど、「体育とコラボして、体育と科学をかけ合わせるスポーツ科学という形で行っている学校が多い」とのことだ。

「STEAMS TIME」はまだ2年目。少しずつだが成果は見える

「STEAMS TIME」をスタートして2年目だが、手応えや成果は見えてきているのだろうか。

「私たちの成果の指標として、年に一度調査を行っているのですが、その調査の中で、STEAMS教育を通して『授業で学習したことを他の学習で活かしているか、橋渡しになっているか』という指標に関して、子どもたちはかなり肯定的な回答をしています」と能見氏。

「2021年度の国の調査では『授業で学んだことを他の学習で活かしているか』が84%ぐらいでした。それに対して、さいたま市では昨年度の段階で87%という数値なので、全国より3%上回っている。それは成果の1つではないかなと捉えています」

「STEAMS TIME」に取り組む子どもたちの反応については、「いくつも授業を参観させていただきましたが、とにかく子どもたちは集中して、楽しそうに活動している姿が印象的でした」と顔をほころばせる。

「子どもたちは、私たち大人が気づかないような角度から物事を捉えていて、こちらがハッとするような考えがポンと出てくる場面もありました。そういった点では、子どもたちがたくさん試行錯誤したり、子どもたちなりの意見を交わしたりすることを通して、新しい見方や考えが生まれているのではないかなと考えています」

教職員専用端末のサイトで実践や反省点の情報を共有

この「STEAMS TIME」について、教育委員会から学校や先生方へ内容に関する指定は特にしておらず、子どもたちや学校の実態に応じて研究・実践をしているという。そのため「まだ学校としても『どういうものがいいのか』というのは試行錯誤、研究段階なのかなというところは正直あると思います」という。

また、スタート当初は「どういうふうに取り組んだらいいのか、ちょっと見えにくい」「どれが正解なのかよくわからない」などの問い合わせがよくあったという。そこで、教員向けのワークショップなどを開いたりしていたが、現在は学校の要請に応じて指導主事が説明に訪れるほか、教職員用の端末に「STEAMS TIME コンテンツライブラリー」という専用のサイトを開設している。

「このサイトでは、どのような授業コンテンツに取り組み、どのように工夫し、どのような反省点があるのか――などを各学校からアップしてもらい、先生方で情報が共有できるようになっています。何か気になることがあれば直接その学校に連絡をして、そのときの担当の先生と話ができるようになっており、市教委としては、このような形で先生方のフォローをさせてもらっています」

先生は答えを教えるのではなく、子どもとワクワク探究してほしい

この取組の改善点や、今後の課題について、能見氏はこう語る。

「この取組をこれからずっと続けていくにあたって、やはりマンネリ化しないように、つねに子どもたちと向き合いながら実施していけるといいかなと思っています。そのためには、先生が子どもたちに答えを教えるのではなく、先生も探究的になって、子どもたちと一緒に課題を解決するなど飛び込んでいって、子どもたちと一緒にやってもらえるといいですね」

特に「STEAMS TIME」は、「楽しそうだから、やってみよう」というところから、子どもたちの学びが始まる授業であり、先生が答えを全部知っている必要はない、というのが大前提だ。

子どもに「先生、これってどうなんですか?」と聞かれたときに、「先生もわからないな。どうだと思う?」と逆に先生が問いかけ、それに対して子どもが「うーん」と考える。「先生もちょっと調べてみるから、それ、次の時間に答え合わせね」などと、子どもたちとやりとりができる授業になるといいですね、と能見氏は目を輝かせる。

最後に、特集のテーマである「これからの理数教育のあり方」について聞いてみた。

「理数の考え方とか物事の見方は、これまでも、これからも、どのような世の中になっても必要になってくると思います。ただ、理数だけで世の中は成立しているわけではないので、国語や社会など他の教科ももちろん大切。そういった意味で、この文系・理系という枠を取り払った『さいたまSTEAMS教育』を通して、理数を含めた、幅広い考え方や見方を身につけた子どもが育ってくれればいいなと思います」

取材・文/永須徹也

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