素敵な学校に育てていくための、春からの6大経営戦略

連載
タバティのLet’sスマイル (レッツスマイル)学校づくり

前埼玉県公立小学校校長

田畑栄一

春は、新入学や新学期にクラス替えと、新たな始まりや新しい出会いによって、教職員も子どもたちも、新しい気持ちで新たな希望を抱く時期だと言えます。この時期の学校は、多くの教職員が個性と協働性を活かして学校生活の基盤を整え、前進しようとするエネルギッシュな姿が見られます。この活力に満ちた感情や雰囲気を大事に、学校経営を進めていきたいものですね。今回は、管理職(校長・教頭)が学校経営をしていくうえで、春から始めておきたいことについて考えてみましょう。

【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #21

春の校舎のイメージ

春から始めたい6つのポイント

⑴ 安心・安全な空気を醸成する 

まず春には「いじめ予防」として、教職員と子どもたち全員で『いじめとは何か』の共有化を図ることが重要です。

第一に教職員は、「いじめ防止対策推進法」について理解を深め、教室経営や教科経営の基軸におくことが大切です。特に目的や定義、基本理念、いじめの禁止などを共有化し、子どもたちの前に自信と余裕をもって「笑顔」で立つ心構えをもつことです。これにより、今後の1年間のいじめを含むトラブル対応の基軸が確立されます。ここを押さえておかないと、いざトラブルが起きた時に慌てふためくことになり、場当たり的対応になり混乱をきたします。

(定義)
第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

第二に、子どもたち全体が「いじめの構造」を理解するように働きかけていきます。
①いじめとは、大きく分けてマイナス言葉(死ね、消えろ、うざい、キモイ、バカ等)と暴力(叩く、蹴る、どつく、意図的にぶつかる)である、ということ。
②条文における「当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」ということから、相手の側に立って考える必要があること。

昨今「いじり」という言葉を使うことで、いじめではないかのようにオブラートに包むような風潮もありますが、「相手が少しでも苦痛を感じるような言葉やボディタッチはいじめである」ということをしっかりと定義します。自分本位で、相手の心情を顧みない一方的な行為がいじめに繋がるのだ、という構造を示すわけです。
そして、どうしたら友達関係を円滑に繋いでいくことができるかを各自で考えたり、教室で話し合ったりすることで理解が深まっていきます。これが、その後の学校生活や授業での発言などの際に、言葉の配慮として生かされていきます。このいじめ構造を学ぶ過程でこそ、一人ひとりの心理的安全性が形成されていきます。すると、授業での発言回数が増え、コミュニケーションが活性化して、教室に笑顔が多くなっていきます。結果、不登校も起きなくなっていきます。

さらに、自分がいじめに関係していない場合でも、傍観者にならないこと。友達に対して行われるいじめを見逃したり放置したり…といったことがないように、子どもたちそれぞれが意識できることも大切です。いじめの当事者は調子に乗っていたり、いじめをしている自覚がなかったりすることが多々あります。だからこそ、いじめを発見した子どもの取るべき行動をしっかり価値づけます。
●いじめを把握したとき、止めに入ること。
●加害者が怖くて仲裁に入ることが難しいなら、大人(先生・保護者)に相談すること。
これらは、等しく良い行いであるということを価値づけます。周りの正義感を育てることが、いじめが広がっていく雰囲気を防いでいくのです。

第三に、万が一いじめが起きた場合は、学校は被害者を全面的に守り、寄り添うこと、加害者には反省と改善を促すことを周知しておくことも大事な視点です。学校として「いじめ防止基本方針」を作成し、保護者会や学校だより、ホームページなどでも周知して、子どもも保護者も学校に対して安心と信頼を持てるようにすることが大切です。

⑵ 教職員を笑顔と温かい言葉で労う 

いかなるときでも、どんなことでも受け入れてくれる。そんな懐の深さや寛容さが、管理職に求められる一番の素養であり条件です。
例えどんなに業務に追い立てられていようとも、余裕のない姿や、自分の殻に閉じこもるような姿を部下に見せてはいけません。
教頭は教育委員会に提出する文書を作成しながら様々な業務をこなし、処理しなくてはなりません。したがって、時間を区切ってスケジュール管理をすることがとても大切になります。
そのスケジュールの中に、教職員との関係構築、という業務も組み込んでください。
職員室内を歩きながら、笑顔で労いの言葉をかけるのです。
それが教職員の心の緊張を和らげ、気持ちを前向きに高めていく助けとなります。
教職員から「声をかけられる教頭」でありたいものです。教職員が意欲的になれば教育活動は、さらに活性化しています。

校長はメールの整理や書類作成などで校長室に閉じこもりがちになるのではないでしょうか。
そこで逆に、校長室をあなたの主な居場所と考えないようにしましょう。
職員室や校内を見回りながら教職員や子どもたちに笑顔とポジティブな声かけをしていきます。学校の主役である子どもたちに寄り添うべきことは言うまでもありませんが、教職員に対しても話しやすく、安心できる相手であるようにしましょう。特に新しく着任した教職員は、先の見えない不安と慣れない環境に緊張しているものです。そんな時に校長から、笑顔で「困っていませんか」「お疲れ様です」「ありがとうございます」などの労いの言葉をかけられたら、不安が一気に安心に変わると思います。温かい言葉と笑顔は、ストレスや緊張を和らげ、コミュニケーションを円滑にします。「労い上手な校長」になりましょう。働き改革で時間短縮が叫ばれていますが、最も配慮したいのは職員室が話しやすい場所になっているかどうかです。

⑶ 一日に一回は校内巡視を

学校生活が始まり、各学級の教育活動が軌道に乗っているかどうか確認することも重要です。教頭と一緒に一日に一度は教室を訪問し、子どもたちの様子や学級の雰囲気を直接感じたいものです。
忙しいときは、少なくとも廊下を歩きながら雰囲気を感じるようにしましょう。
管理職が教育活動を見守ることで、教職員も子どもたちも、学校に対する信頼度と安心感が高まります。
また、先生と子どもたちの姿に「表情がいい」「笑い声が聞こえる」「前のめりに授業に臨んでいる」といったポジティブな感覚を覚えると、あなた自身の仕事への喜びや、やりがいにもつながります。
もちろん、気になることや課題もあると思いますが、喫緊の問題は別として、春は大局的に構え、学校全体を俯瞰することが大切だと言えるでしょう。
どのピースが欠けているかは、パズル全体を見渡さなければ認識しにくいものです。
また、教頭と一緒に校内を巡視することで、情報交換ができます。施設や教室の環境、授業の雰囲気、先生と子どもたちの様子を把握することができますし、管理職同士でそれぞれの悩みを共有することもできます。こうして教頭とのパートナーシップが強化されると、それを何気なく見ている教職員や子どもたちに安心感をもたらします。穏やかな空気が校内に醸成されていきます。

⑷ 子どもたちの目に触れる存在に

子どもたちに寄り添う方法としては、朝、校門に立って「おはようございます」の挨拶と笑顔で子どもたちを迎えることが、経験上非常に役立ちました。毎日の積み重ねで、表情の明るさや元気かどうかなど、子どもたちの様子を素早く把握することができるようになります。子どもたちの目によく触れることで、子どもたちにとって、気安く相談できる相手になることもできます。
また、休み時間には廊下や校庭でおしゃべりを楽しんだり、校長室を子どもたちに開放し、いつでも立ち寄っていいよと宣言することで、子どもは教室以外に自分の居場所を見つけることができます。学校内に一息つく場があると思うことで、子どもは居心地の良さを感じるようになるのです。集団生活では、その日の人との関わりで感情が大きく変動します。だからこそ柔らかい温かい場所づくりや柔らかい人間関係づくりが重要になるのです。

⑸ 保護者とのつながりを構築する

授業参観・保護者会での校長挨拶は、保護者との信頼関係を築く重要な機会です。
まずはなるべく手短に、以下の3点を説明します。
①感謝と労いの言葉
②学校の経営理念、目指す学校像、そして子ども像
③これからの時代に必要な資質・能力を育成するための授業づくりについて

そして最後に。ここが重要です。以下に挙げる2点を、しっかり力を込め、丁寧に伝えます。

A. いじめ対策について
保護者にとって心配事の一つは、わが子が「いじめ」の被害に遭わないか、またいじめの加害者にならないかということです。先にも述べましたが、いじめの定義を共有し、いじめが起きた時の学校の対応策を明確に伝えます。さらに、いじめと感じたら、直ぐに相談することを促します。事前にいじめへの対応を共有しておくことで、いざというときのための土俵を整えておき、混乱を避けることができます。

B. 不登校対応について
子どもに学校渋りが起きた時には、すぐに学校に相談することの重要性を強調します。保護者と学校で面談し、子どもの状況に応じた対応策を考えていきます。「学校に迷惑をかけたくない。子どもの心情に沿ってゆっくり対応したい」など保護者の揺れ動く心情を理解し、校長・教頭が対応することを伝えます。
なぜなら、担任は終日授業がありますので、対応が遅れる可能性があります。また、教員が抱える負担を減らしてあげたい、ということもあります。そしてもしかしたら、担任の指導によって、学校渋りの要因があるかもしれません。
子どもや保護者が困ったときの対応こそ、校長・教頭の優先すべき職務の一つです。

いじめや不登校の対策において成否を握るのは、子どもや保護者の痛みを、管理職が自分事として共感しているかどうかです。校長の最優先職務は、いじめ予防・対応と、不登校予防・改善にあると考えています。

⑹ 地域のコミュニティーになる

コロナが収束し、地域との連携が活性化しています。管理職は、学校運営協議会委員や民生委員会議などにおいて、関係者と積極的にコミュニケーションを図り、学校所在地の地域的実態や課題を掌握します。そして、実際に地域にも出かけ、自治会長、交通指導員、見守り隊員などと対話して、地域のニーズを吸い上げ、学校経営に活かしていきます。
特に総合的な学習の時間での「SDGs学習」などは、地域との連携が不可欠です。学校は、地域のコミュニティーとしての役割を担っており、地域の人々や地域の教育資源との連携を大切にしたいものです。さあ、笑顔で地域に出かけましょう。

おわりに

春の学校経営のポイントは、人間関係を築くことです。つまり、「教育は、人との関係性こそが全て」と言っても過言ではないと考えています。学校は、個性的人材が集まり、様々なドラマが生まれます。トラブルの要因の多くは、コミュニケーション・エラーや、いじめが起きやすい環境、雰囲気にあります。教職員も子どもも保護者も、誰もが幸せになりたいと願っています。その象徴は、穏やかな笑顔と温かいコミュニケーションに表れます。まずは、あなたの笑顔と温かい言葉から始めませんか。それが、素敵な温かい学校づくりの第一歩です。


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田畑栄一

<プロフィール>
田畑栄一(タバティ) 前埼玉県公立小学校校長。 
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)『クラスが笑いに包まれる 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)『「カウンセリング・テクニック」学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校日本語科講師/一般社団法人「Lauqhter」温かい笑い教育アドバイザー/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティー等。


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