良い学級経営をするために「全員班長」と「学級通信」 【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第17回】

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授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」

前回、熊本県の授業名人(小学校・道徳科)の赤星桂子指導教諭が、初任者の頃、学級づくりに苦労し、先輩方から学んでいったことを紹介していきました。今回は、学級づくりのために赤星先生が工夫していった具体的な方法や後に異動した学校で道徳の授業づくりを学んでいった過程などを紹介していきます。

赤星桂子先生
赤星桂子指導教諭

子供の良さを見付けたらすぐに付箋紙などにメモ

学級の中にはいろいろな個性をもった子供たちがいます。そんな子供たちが伸び伸びと過ごせるような、「一人一人の良さが生きる学級をつくりたい!」と考えた私は、まず全員が班長となるシステムをつくりました。班長と言えば、グループごとに1名つくるのが普通ですが、私は班員一人一人に役割を分担しました。「がんばり班長(グループ学習の司会など)」「ピカピカ班長(掃除のお世話など)」「パクパク班長(給食のお世話など)」「ニコニコ班長(喧嘩が起きたら仲直りさせるなど)」「モリモリ班長(外遊びを呼びかけるなど)」など、いろんな班長をつくることで、みんなに出番があり、活躍できるようにしました。

係活動(会社活動)も一人一人の良さが生きる上で大事なものです。黒板消し係などの学級に必要な係もつくりますが、学級が楽しくなるようなおもしろい会社をつくりました。遊び会社、塗り絵会社など、子供たちに活動する時間や場を確保することで、盛り上げていったのです。そのように子供たちに役割を与え、工夫する時間と場を与えることで、子供たちの企画力や調整力が劇的にアップしました。

また、より良い学級経営をするためには、教師と保護者と子供の三者がつながることが必要だと考え、大事にしたのが「学級通信」です。三者がつながり、三角形で美しい響きを奏でる「トライアングル」のような学級経営を目指し、学級通信の名前にして私の思いを込めました。ただ、「一人一人の良さが生きる学級をつくりたい!」と言いながら、私は子供たちの良さを見付けることが少し苦手だったのです。そこで毎日必ず、学級通信を出すことに決めました。B5判程度の紙に手書きで、その日あったステキなことや子供たち一人一人の良さを毎日、毎日書いていったのです。

学級通信の中のエピソードには、必ず子供たちの名前を載せるようにしました。子供たちは自分の名前を見付けると大喜びでした。また、名前を載せるということは、誰のエピソードなのかを保護者や子供たちにも知らせることになりますから、すべての子供たちをバランスよく観察しなくてはいけないわけです。そのため、記載した子供の名前は毎日名簿にチェックし、どの子供も同じ回数載せるように心がけました。大変な作業でしたが、自分がいかにすべての子供たちをバランスよく見てはいなかったかということにも気付かされます。そこで、チェックした名簿を確認しながら、「今日は、あまり見ていなかった、〇〇さんを中心に見ていこう」などと、自分の中で目標を立てて観察しました。また子供の良さを見付けたらすぐに付箋紙などにメモし、忘れないようにしました。初任時の数年のことではありますが、毎日続けたことで子供の良さを見つめる目が養われたと自分では思っています。

現在の授業の中でも一人一人の考えにていねいに耳を傾け、問い返し、対話をしていく赤星先生。そうした細やかな関わりや、それを通して子供の姿を見とる目も、毎日、学級通信を書いていったことを契機に身に付けたものなのかもしれない。

もちろん毎日学級通信を書くのは大変ですし、働き方改革が求められる時代ですから、若い先生に「ぜひ学級通信を毎日出してみてください」とお勧めするつもりはありません。しかし日々、子供の良さを付箋紙などにメモしていくだけでも子供を見る目を育てる上で有効です。しかも、付箋紙を保管しておいて学級懇談会で保護者に伝えたり、通知表の所見に記述したりと有効活用できるため、日々のちょっとした努力が仕事の効率化へもつながるので、こちらはぜひお勧めしたいと思います。

「もう、後は桂子先生の好きなようにしてみていいよ」

私が特に道徳の授業づくりに取り組むようになったのは、8年目を迎える年に転勤した3校目のことでした。その学校の校長先生が、教科等研究会道徳部会の部会長を務めておられ、誘われるままに道徳部会に入りました。若手が来たので期待してくださり、「道徳の研究授業をやってみませんか?」と言われたのです。「えっ私が?」という感じだったのですが、部会の先輩方も勧めてくださったので、研究授業を引き受けることになりました。そのときは、道徳というと初任のときに授業を失敗した嫌なイメージしかなかったのが正直なところです。しかし、せっかく声をかけていただいたのだし、「研究授業を引き受ける以上はがんばろう」と気持ちを切り替えて取り組むことにしました。

この道徳の研究授業づくりでは事前研修が本当に勉強になりました。どの先輩も熱心な方ばかりで、勉強不足の私に道徳の授業のつくり方を教えてくれたのです。もちろん、最初は専門的で分からない言葉が頭の上を行き交うような状態でしたが、必死にメモを取って後から調べながら勉強していきました。

そして、授業展開や発問構成など、疑問に思うこと、分からないことが生じれば、部会の先生方や理事長に徹底的に聞いていきました。しかも、こうしたらどうか、ああしたらどうかと自分なりのアイデアを思い付くと、しつこく何度も電話をかけて聞くので、最後には「もう、後は桂子先生の好きなようにしてみていいよ」と言われてしまったのを覚えています。

ただ、とても嬉しいことに道徳部会の先輩方は皆、とても優しくてすてきな方ばかりだったので、安心して学べました。例えば、道徳部会の理事長はすてきな女性の先生だったので、夏休みなどにはその先生の学校を訪れて教えていただきました。他の先輩方もとても熱心な先生が多くて、「教材研究はこうやってするんだよ」とか「教材解釈は…」というように、授業前の準備からいろいろな授業展開のパターンまで教えてもらえましたし、私にとって道徳部会は本当に楽しく学べる場だったわけです。そんな環境の中で多くの刺激を受けました。

結果的にその研究授業はとてもうまくいって、そのときは自分がやったような気になっていましたが、後から考えれば周りの先生方につくってもらったのだと思います。もちろん自分なりにアイデアは出してはいましたが、部会のベテランの先生方が上手に練ってくださった授業を、自分がやった気になっていたんだと思うのです。しかし、授業がうまくいったことで、ちょっと道徳の授業がうまくなったような幸せな勘違いをして、そこから「ああ、道徳っておもしろいな」と道徳の授業づくりにはまっていきました。

今や県を代表する道徳授業の名手である赤星先生。そこまでの長い道への入り口は、すてきな先輩方との出会いと、最初の研究授業の成功による「幸せな勘違い」だった?

道徳の授業に関しては、その後も例えば教育事務所の学校訪問で指導主事の先生に見ていただいたり、校内の研究授業や、研究会の授業公開など、多様な場面での研究授業を引き受けたりしました。そんな、「がんばらなければいけない」と思うような状況に立たされることで、必死に勉強し、先輩方に聞きながら学んでいったのです。もちろん、現在までずっと道徳部会に在籍して勉強を続けてきたわけですが、「誰かが研究授業をする」という話が出ると、今でも、みんなで事前に教材分析をしたり授業づくりを考えてきたりしています。ですから、私も同じように事前に教材研究をしたり、もし授業予定者と同じ学年だったら、自分の学級でその教材を使った授業を先行実践したりもしてきました。

そのようにすてきな先輩と仲間に恵まれたおかげで、今までずっと道徳の授業づくりを学び続けてくることができたのだと思います。

今回は、学級づくりの工夫や道徳の授業づくりに取り組んでいく過程を紹介しました。次回は、さらに道徳の授業づくりで工夫したことや、若い先生方へのメッセージなどを紹介していきます。

【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」】次回は、7月20日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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