出会いを無駄にしないことが大切【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第16回】

連載
授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」

今回からは、熊本県の授業名人(小学校·道徳科)として多数の学校で授業公開や講演も行い、若い先生方の育成にも携わってきている赤星桂子指導教諭にインタビューしました。新卒の若手の頃から何をどのように学び、何を身に付けてきたのかを紹介していきます。

赤星桂子先生
赤星桂子教諭

子供の学びを細やかに見とり、先生はそれに合致する言動を取る

私は若い頃から、とにかく教師になりたいという思いをもっていて教職の道に進みました。現在、道徳科を専門の教科としていますが、短期大学ということもあり、専門をもたずに小学校と幼稚園の免許をとり、小学校の教師になったのです。

新卒の1年目、私にとって初めての担任は3年生でした。本当に元気のよい子供たちだったため、「学級経営をしっかりしよう」「とにかく子供たちをきちんとさせなくては」ということばかり考えていました。今から考えれば、新卒者の力不足に加え、専門がないという引け目もどこかにあったかもしれません。「きちんとさせよう」と思うあまり、日々叱ることばかりになっていってしまいます。当然、叱ってばかりいる私の指示は次第に子供たちに届かなくなり、いつも教室内がざわついている落ち着きのない学級になっていきました。

最近の赤星先生の授業中の表情。「叱ってばかりいた」という新人時代が想像できないくらい、とても柔らかい笑みをたたえている場面が多い。

もちろん私が苦労する姿を見ていた同学年の先生は、いろいろアドバイスをしてくださいます。しかし、「きちんとさせよう」「学級の体裁を整えよう」という思いばかりが先走ってしまっているため、自分自身の課題に気付くことができず、どう改善すればよいのか分かりませんでした。そんな厳しい状況の中、押し寄せてくる学級担任としての仕事を、日々必死にこなしているというのが私の教師1年目でした。

私にとってとても大きな出会いとなったのは、4年目に異動した2校目で出会ったS先生です。S先生は授業づくりも学級づくりもとても上手な先生で、同じ短期大学の大先輩でした。校内の先生方が皆、「あの先生の学級経営を見なさい」「あの先生の授業を学ぼう」と目標にされているような先生で、その姿に憧れました。そして、「ああ、私もがんばれば、あの先生のようになれるかな」と思い、気持ちも新たに取り組んでいったのです。

S先生は私より10歳年上のお姉さんのような先生で、いつも笑顔で冗談を言いながらご自身がとても楽しそうに学級経営をされていました。子供たちががんばると、「花丸音頭だよ」と言い、子供たちの前で歌って踊りながら花丸を描かれるのです。そんな感じでよく冗談を言っておられて、笑顔いっぱいの明るい雰囲気の学級なのに、いざ授業になると子供たちはみんな集中していて、学習態度もすばらしいものでした。

そんなS先生の学級経営を見て、子供の前で自分の素の部分(おもしろい面など)をチラリと見せることで、子供たちとの距離が良い意味で縮まるということを学んだのです。そして、私は常に子供たちに「きちんとさせなくては…」とばかり考え、子供たちに対し、上から指導していたことに気付かされました。

あるとき、「S先生、なぜそんなに学級経営がお上手なんですか?」と尋ねたことがあります。その答えは「こんなクラスにしたいというものをはっきりもっていて、それに向かって学級経営をしている」というものでした。漠然と「こんなクラスにしたい」というものはもっていたものの、それを年間通して意識し、学級経営をしていたかというと、そうではない自分がありました。それから自分の学級経営で大事にしたいことは何かということを、まず意識するようにしたのです。そのときに考えたことが「一人一人の良さが生きる学級経営」をしようということでした(この内容については、次回詳述します)。

宿題プリントを1枚ものに整理するS先生

もう一つS先生から学んだのは、毎日の学び、日常の学びを大切にするということです。その頃の私は日々一杯一杯でしたから、例えば研究授業の前だけあわてて教室掲示をするといった状況でした。

それに対してS先生は、日頃から常にドリルや漢字カードを使って練習させたり、そのときの重点となる学習内容を意識して教室の学習掲示を整理したりしておられ、日常の教室全体から子供の学びが見えるという感じだったのです。そんなS先生の姿を見て「ああ、日常が大事なんだな」ということを学びました。

現在は、道徳科の指導教諭として他校にも指導に回っているため担任をもっていない赤星先生。しかし、対話を通して思考が深まる過程が整理された板書を見るだけで、日々の学級掲示もすばらしいものだっただろうと想像できる。

授業づくりもとてもうまく、どの授業もすばらしいものでした。例えば、算数では教科書の問題をそのままやるのではなく、子供たちの生活に関わるような題材を取り入れて問題づくりをされていました。ただ、その頃の私はまだ、そんな授業づくりのエッセンスを学び取って、自分のものにしていくだけの力がなかったように思います。

とにかくS先生はアイデアにあふれた先生でした。例えば、学年部の話し合いで、宿題プリントを1枚にまとめるアイデアを出されていました。教科ごとに分けて何枚も出していると、子供たちも分かりにくいし、やるのを忘れたり、学校に持ってくるのを忘れたりする子も出てきてしまいます。そこで、1枚のプリントに算数の計算練習があったり、国語の音読や漢字の書き取りがあったりと、2分割、3分割になっていて、それ1枚をやれば、1日の宿題が終わるようになっていました。

さらに、その宿題プリントの下部に連絡帳がわりの保護者がコメントを書く欄もあって、保護者が宿題に目を通してコメントを書き込むわけで、それ1枚があれば、1日に必要なことが全部終わるわけです。どの子でも取り組みやすく、保護者ともコミュニケーションがとれるわけで、「そんな工夫もあるのか」と学びました。

私自身、S先生との出会いによって学び、この先にも赴任先の校長先生との出会いを通して道徳の道に入っていくのですが、やはりそんな出会いを無駄にしないことが大切だと思います。若い先生方も、学校内や学校外で、「ああ、すてきな先生だな」と思うこともあるでしょう。そのときに、その先生からしっかり学ぶのか、学ばずに終わるのか、30年以上の教師人生を考えると、その違いは大きいと思います。

次回は、赤星先生がS先生との出会いを通して考えた、「一人一人の良さが生きる学級経営」の内容や、その先の道徳の学びを紹介していきます。

【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」】次回は、7月13日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました