授業の構成は、教師にとって必要不可欠なマネジメント力【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #14】
教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第14回「コミュニケーション科」の授業は、<授業の構成は、教師にとって必要不可欠なマネジメント力>です。
目次
子どもの視点で、授業内容を掘り下げる
校内研修に呼ばれる機会が多々あります。アクティブ・ラーニングの視点から、「活発な話し合いを促す指導」「子どもが自ら考え深め合う指導」というテーマで研究教科と関連づける学校も多いのですが、研修内容の多くは相変わらず指導技術に偏っています。教案に沿って進められたかどうかだけに着目し、肝心の子どもの学びの姿をしっかり見ない。子どもの立場に立った視点で、授業内容を掘り下げることが少ないと感じています。
例えば、国語科の読み物教材などの指導では、全文を大きな模造紙に書き出し、教室の後ろに貼り出している学級を一時よく見かけました。登場人物の心情や物語の重要な箇所が赤線や二重線で引かれ、一見“学習した感”が感じられるのかもしれませんが、単なる掲示物になっているものも少なくありません。文章の内容を正確にとらえることばかりに目を向け、子どもがじっくり考える場面を設けることなく、正解を一方的に説明する授業をこなしてきた教師にとっては、話し合いも、早く正解を見出すための指導にすぎず、表面的な活動で終わっています。
正解ありきで行う話し合い活動は、一部の “できる子” の発表の場となり、その他の子どもは単なるお客さん。これでは、お互いに自分の考えを出し合うことで新たな発見に気づき、話し合いのおもしろさを経験することはできません。子どもが学びたくなる授業の構成は、教師にとって必要不可欠なマネジメント力なのです。
一つひとつの発問がつながっていく授業を
話し合い活動を行うために最も大切なのは、子どもと担任、子ども同士、学び手に信頼関係が築けていることであると、この連載の中でも度々述べてきました。
一人ひとりを認め合う教室になっていなければ、子どもたちは「私が意見を言っても大丈夫かなあ」「間違った答えを言ったら、叱られ(笑われ)そうだ」「みんなと違う意見を発表したら、浮いてしまうかも」と不安な気持ちを抱き、「どうせ言っても……」「自信がないから……」と口を閉ざしてしまいます。
教師は、安易に「自分の意見を言いましょう」「今の意見に対して、どう思いますか?」と発問しますが、実はとてもハードルが高く、大人でもそんなにたやすく飛び越えられるものではありません。
教師向けに模擬授業を行う機会が度々ありますが、意見が分かれそうな発問をすると、ほとんどの参加者が不安そうな表情になります。「自分は教師なのに間違えたらみっともない」「あまりよく知らない人の前で発表するのは恥ずかしい」「大多数の意見に合わせた方がいいかな」と、ためらったり考え込んだりする姿を見るたびに、「こんな難しいことを、あなたたちは日々子どもたちに発しているんですよ」と思わずにはいられません。
毎日毎時間、子どもたちは“静かにきちんと”授業を受けています。それが “つまらない” 授業だったとしても、多くの子どもたちは素直に座って聴いています。その姿を当たり前と受け止め、忙しさを理由に十分な授業研究もせず、日々子どもたちに指導している教師も少なくありません。うるさいのも落ち着かないのも、活発な意見が出ないのも、理解できないのも、すべては子どもたちのせい。「あの子がいるから」「今年の学級は“外れ”かも」と子どもに責任転嫁するのは、自らの職務を放棄しているのに等しいのではないでしょうか。なぜ落ち着かないのか、なぜ活発な意見が出ないのか……指導方法を見直す第一歩として、まずは教師が子ども側に立って、授業を振り返ってみましょう。
授業で最も大切なのは、どの子も主体的に学ぶことです。そのためには安心感が必要です。
それでは、どうすれば安心感を持つことができるようになるのか。日常的な学級づくりを土台として、そこで築いた関係性を授業でも十分発揮できるように授業を組み立てていくことが必要になります。
話し合いは、その核になる活動です。一つの正解を求めるという単純なものではなく、意見が分かれ、対立構造が生み出せる題材を選ぶことが必要です。これまでの経験や見る角度によって異なる意見がいくつも出てくる。友達の意見を聞きながら、「そういう見方もあるんだ」「私は賛成の立場だったけれど、Aさんの意見を聞いて反対に変えたい」「みんなの意見を聞きながら、新たな意見を思いついた」と、頭の中で汗をかき続けられる題材を心がけましょう。題材を選んだら、発問内容、順番を考え、最後に、子どもが納得する答えを自ら見つけていくような授業を構成していきます。一つひとつの発問はばらばらのパーツではなく、最後に一つのパッチワークとしてつながる。このような展開をイメージし、マネジメントしていくことが大切です。
実践!「コミュニケーション科」の授業
俳句に詠まれた話者の思いを考える <大人版・菊池教室>
子どもの気持ちになって授業を受ける
教師や教職を目指す学生を対象にした模擬授業が始まった。
「今日は6年生になったつもりで、子どもが授業のどんなところでドキッとしたり、困ったりするかを体験しましょう。まずは全員立ちましょう①」
菊池先生の声かけに、参加者が席を立った。
「ホワイトボードに書かれている俳句を声に出して読み、暗記した人から座りましょう②」
菊池先生が、ホワイトボードに中村汀女の一句を書いた。
風邪の子が 留守あづかると いひくれし
「季語は何か、隣の人と3秒間話し合いましょう」
会場から笑いが起こった。
解答「風邪」の次は、「いひくれし」の意味を考え合った。続いて、菊池先生が「この句の登場人物を書いてください」。
自分で考えたあと、自由に立ち歩いて意見交換を行った。
当てられた人が「風邪の子と親」と答えると親の性別、さらに話者は誰かを尋ねた。菊池先生から出される発問にみんなが軽々と答えていったが、「それでは、子どもは何歳ぐらいでしょうか?」と尋ねたところで、勢いがピタッと止まった。普段の俳句の授業に比べて、より奥まで突っ込んだ菊池先生の質問に、参加者は真剣な表情に変わったのだ。
A 幼児 4~5歳……5人
B 低学年……3人
C 高学年……7人
──そして、みんなの意見が分かれた③。
子どもの不安感、安心感を実感して
参加者が理由を書いていると、菊池先生が机間巡視をしながら「1個書いて安心している人はいませんね。書き続けることが大切です。書けなくても、あとで友達と相談して足してもいいですよ」とみんなに話しかけた。
書き終えたところで、同じ意見どうしで作戦タイム。
A 留守にすることに着目し、手のかかり具合から
B 風邪の幼児を残して留守にできないし、高学年なら元々留守番させられる
C 幼児や低学年だと、留守番は無理だろう。「留守番できる」と話すところがいかにも高学年らしい
意見を聞いた菊池先生が、「自分の生活体験から言う子もいれば、文章を読み取って考える子もいます。どちらも認める姿勢が大切です」と話すと、参加者は今自分で考えてきた意見の理由を思い出しながらうなずいた④。
菊池先生の発問はさらに続く。
「お母さんはどこに行くのでしょうか?」
A 買い物、B 仕事
最前列の一人に向かって、菊池先生が「どっちが多いと思いますか?」と尋ねると、迷いながら、「Aかなあ」と答えた⑤。
結果は、Aが8人、Bが7人。意見が真っ二つに分かれた。再び同じ意見どうしで話し合う。
A 「留守をする」と言えたのは、短時間の買い物だから。薬が必要だから出かけるのではないか
B 仕事があるという困り感を感じ、高学年なら「留守をする」と言える
「それぞれの理由でいいと思いますが、話者の感動を読み取ると、私はB、Bだと思います」と菊池先生が話した⑥。
最後に、この俳句をもとに母子の会話を即興で考えた。
子 お母さん、仕事に行っていいよ
母 え、でも風邪をひいてしんどいんじゃない?
子 大丈夫。平気だから行ってきて
母 ありがとう。成長したわねえ
参加者二人の寸劇に、会場から大きな拍手が起こった⑦。
「今日は、みなさんが子どもになって授業を受けました。子どもの気持ちがわかると、これからの授業の目指す方向も見えてくるのではないでしょうか。明日からの授業にぜひ活かしてください」と締めくくった。
授業後、参加者からは「初めての場で一人当てられると、『正解を言わなければ』と焦って不安になってしまう。みんなと相談することで安心できたし、友達がどんなことを考えているのか知ることもできた」「友達との意見交換があるので、その後も自信を持って発表できる。人の意見を聞くことで、自分の意見を変える、ということが実感できた」「俳句の授業のおもしろさに触れることができた」と感想が寄せられ、自分の教室の子どもたちに活かしていきたいというやる気で満たされていた。
① 「子どもの気持ちになって」と話すことで、子どもの内面についても深く考えるようになる。
② 立ったり声を出したりして、まずは体の緊張をほぐす。
③ 難しい発問の場合、考えをまとめやすいように選択肢にする。
④ 文章を深く読み込めず、自分の生活体験から考える子もいるが、否定しない。みんなで話し合う中で、読み取ることのおもしろさ、大切さを経験すると、次第に文章から読み取れるようになっていく。
⑤ 「あなたはどう思う?」ではなく、「みんなはどう思うだろう?」という視点の質問で、徐々に周りのことも考えるようになっていく。
⑥ 一つひとつの発問は個々ばらばらではなく、最後につながっていく。最後の質問があることで、④のように文章を深く読み込む必要性を実感できる。
⑦ 寸劇で俳句に親しみやすさを実感させるとともに、即興力を鍛える。
『総合教育技術』2021年8/9月号より
構成/関原美和子
菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。