雑談力で教室のインフラづくりの素地を 【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #26】

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菊池省三流 コミュニケーション科の授業
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子供、子供同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第26回「コミュニケーション科」の授業は、<雑談力で教室のインフラづくりの素地を>です。

非言語にもっと目を向けよう

コミュニケーションに必要な要素を子供たちに尋ねると、話し方や声の大きさ、表情など様々な答えが挙がってきます。子供たちから意見が出たところで、私はコミュニケーション力の公式を示します。

コミュニケーション力=(内容+声+態度+α)×相手への思いやり

この式の(  )の中は、コミュニケーションに必要な技術です。話す内容や声の出し方、話す姿勢や聞く態度など、スピーチを指導するときに欠かせない技術的な要素です。αとは、話したり聞いたりするときの工夫で、うなずきやあいづち、ジェスチャーやユーモアなど相手を引きつける要素が当てはまります。αと相手への思いやりは非言語の領域です。

子供たちの答えを<コミュニケーション力の公式>に当てはめて示しながら、特に大切だと思う要素を選ばせると、多くの子供たちは笑顔、次いでユーモアや思いやりを選びます。子供たちが大切だと考えている要素の多くは非言語の領域です。同じ問いかけを大人にしても、同じような答えが返ってきます。

大多数が、コミュニケーションに必要な要素は非言語の領域であると考えているにもかかわらず、授業で対話・話合いの指導を行う際、教師は話の内容など言語の領域ばかりに目が向き、非言語にふれることはほとんどありません。教師自身が、非言語の大切さについて深く考えることがないからです。

雑談で職員室の空気をプラスに

様々な授業を参観する中で、最近とみに感じることがあります。

それは、教室の土壌が十分に耕されていないことです。教師の一方的な締め付けやうわべだけのことなかれの指導で、温かい人間関係が築かれていない教室は、一見落ち着いているように見えても、何かあればたちまち崩れる、もろい砂の城のようなものです。こうした教室では、当然豊かなコミュニケーション力が育つこともありません。

温かい人間関係とコミュニケーション力、この2つは、対話・話合いの授業だけでなく、全ての学級の学びの土壌を豊かにするために欠かせない、いわば教室のインフラです。

対話・話合いの授業を進める前に、まずは十分なインフラづくりをしなくてはなりません。

インフラづくりに必要なのは、お互いに認め合える関係性を築くことです。そのためには、子供たち一人一人の自己開示が必須です。

とはいえ、唐突に子供たちに自己開示を促しても、簡単にできるものではありません。私たち大人だって、突然、「自己開示をしなさい」と言われたら躊躇するはずです。

お互いをよく知るためにおすすめしたいのがフリートーク、すなわち雑談です。雑談は、言語領域である<内容>は全く自由であり、誰かが評価をつけるものではありません。また、うなずきやあいづち、身振り手振り、表情など非言語の領域も自然に身についていきます。

子供同士はもちろん、まずは職員同士でどんどん雑談をしましょう。かつては飲み会が大きな雑談の場でしたが、コロナ禍でずいぶん縮小されました。私が小学校に勤務していた頃は、喫煙コーナーも貴重な雑談の場でした(笑)。一緒になった管理職や同僚と雑談しながら、学級経営について相談や悩みを打ち明けることもありました。こうしたざっくばらんな雑談を職員室でもできるように、管理職自ら実戦してほしいと考えています。

もちろん、雑談にもルールがあります。話合いの基本的なルールと同じなので、話合いのスキルの素地になります。

①子供や保護者の悪口は言わない(困りごとと悪口は別物です)
②下品なことは言わない
③一方的に話すのではなく、言葉のキャッチボールをする

有意義な雑談にするためには、教師や子供たちをプラスの視点で見ることが大切です。そのためには常日頃から、プラスの行為を見つけるように心がけましょう。

管理職から学級担任に、「○組の前を通ったら、子供たちの楽しそうな声が廊下まで響いていたね」「この前、○○君が元気よく挨拶してくれたよ」と話しかけ、担任の返答を待ちます。自分の学級のことをほめられて、悪い気になる担任はいません。やがて、周りの教師も「私にも挨拶してくれたよ。最近、○○君は成長したね」と話に加わり、楽しい雑談になるでしょう。

プラスの言葉のキャッチボールが続くようになると、教師たちもプラスの視点で子供たちを見るようになり、他の学級の子供たちにも積極的に目を向けるようになります。「実は最近、○○君へのかかわり方をどうすればいいか、考えがまとまらなくて……」といった悩みが出てきたとき、普段から悪口ばかりの職員室だと「またあの子か。困ったもんだ」とマイナスに目が向きがちですが、温かい空気の職員室であれば、「○○君は△△君と仲がいいから、△△君や周りの子たちへのアプローチを変えてみたらどうか?」など、前向きにとらえたアドバイスが出てきます。

プラスにとらえる雑談力は、自己開示につながり、集団としてまとまっていきます。教師一人一人がその効果を実感すれば、個々の教室でも取り組むようになるでしょう。まずは職員室から雑談力をアップしましょう。

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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