学校評価で、教職員にコミュニケーション力の育成を見える化 ~教育リーダー対談②江崎高英 【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #25】

連載
菊池省三流 コミュニケーション科の授業

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子供、子供同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第25回「コミュニケーション科」の授業は、<江崎高英さんとの教育リーダー対談②>です。

左)菊池省三先生 右)江崎高英先生

えざき・たかひで。兵庫県神戸市立春日台小学校校長。1968年徳島県生まれ。教育実践研究サークル 菊池道場 兵庫支部長。

学校評価で学校を変える

菊池 江崎先生と私は、先生が教員時代の頃からかれこれ10年の付き合いになりますが、校長になられてからは、どんなことに取り組んでいますか。

江崎 荒れていた小学校に勤務していた頃、コミュニケーション力を高める菊池実践を知り、セミナーに参加し、菊池道場の兵庫支部を立ち上げました。
担任はいわば、個人店主のようなもので、自分一人の考えで学級を運営することができます。一方、校長は全ての教職員を見据えて学校全体を見ていかなければなりません。
学校を変えるには時間がかかります。
そもそも、校長自身が「何をどう変えたいのか」イメージできなければ手を出さないし、実際に実行するためには、全教職員とのすりあわせに労力がかかります。
教頭になったとき、菊池先生を学校に招いて授業をしてもらいました。その後、私も菊池実践の授業を行って教職員に見てもらいましたが、なかなか伝わらない。
これまでの授業スタイルしか知らない教職員にとっては、授業を見るだけでは、私がどんな学校づくりを目指しているのかわからないのかもしれない──そう考えた私が、校長になってから手がけたのが、学校評価です。
教職員の自己評価の中に、「コミュニケーション力」「仲間作り」等の項目を入れたのです。

春日台小学校・学校評価項目(一部抜粋)

<「伝え合う」「つなぐ」コミュニケーション豊かな授業の推進>
ペアトークやグループワークを取り入れながら、自分の思いを聞き手と共有するコミュニケーション力育成に向けた効果的な取組を推進することができた。
温かく前向きな言葉がけがあふれる、コミュニケーション豊かな学級集団づくりに向けた具体的な取組を推進することができた。
<主体的に学びに向かう力や態度の育成>
個別に対話したり、自分の考えを綴ったりするなど、全員が自分らしく表現できる活動を授業の中で意識して設定することができた。
「『関係性』『主体性』『自己表現』は、あらゆる学校教育の “インフラ”」

菊池 目指すべき学校・授業を先生自身が省みる項目を入れたということですか?

江崎 そうです
1年目は、職員研修にグループワークを積極的に取り入れながら、具体的な取組を勉強していきました。
並行して、子供たちの姿を写真に収め、その写真にぴったり合う価値語を添えて、朝会で紹介しました。紹介した価値語付きの写真は今でも、校長室の前や廊下、階段など、校内のあちこちに貼り出しています。また、私自身が全学級で年2~3回、飛び込みで菊池実践の授業をしています。
こうした取組を通して、ようやく教職員間に “つながる関係性” ができてきました。
今年で3年目を迎え、教職員とともに「温かい関係性を土台とした進んで自己表現できる力の育成」という学校目標を決めることができました。カリキュラム・マネジメントのテーマとして、「関係性」と「主体性」、「自己表現」の3つの柱を立てて取り組む体制が整ったところです。

菊池 「関係性」「主体性」「自己表現」は、あらゆる学校教育の “インフラ” です。そこを中心に据えようというのは本来当たり前のはずなのに、おざなりにされてきた。
全教職員が「当たり前」ととらえるステップとして、江崎先生は評価項目を変え、丁寧な3年間のくさびを打ってきた。それぐらいなかなか変わらないということなんですね。

江崎 その通りです。
多くの先生方は、“目に見えない” と動きません。
しかし、言い換えるならば、先生方は “見えれば” 動くということです。
1年目の夏にみんなで話し合って作り、3学期の学校評価で振り返り、2年目に進む。
先生方は基本的に、真面目で熱心ですから、みんなで決めたことは、ちゃんと守って動きます(笑)。こうした見える化のプロセスは大事ですね。

子供の “事実” を元に、丁寧に立ち戻ることが必要

菊池 最初は反発もあったと思いますが。

江崎 「反発してやらない」というより、「わからないからやらない」という印象でした。
教師は、“教える”意識が強くて、その呪縛からなかなか抜け出すことができません。「ペアトークは子供に考えさせる時間」だと説明しても、実感としてわかっていないから実行に移せない。
例えば、子供に発表させるとき、原稿を書かせてスタンドマイクの前に立たせますよね。先生方に「書いたものを読むのをやめよう。マイクもハンドマイクにすれば片手が空くから、身振り手振りなど体を使った表現もできるようになるから。スピーチではなく、トークをさせよう」と、子供の自由な表現を活かす発表を促しても、「え?」という表情になる。抵抗ではなく、そういう発想自体がないからわからないんです。だからこそ、実感してもらうしかなかったですね。
一番大きかったのは、子供たちの姿です。
6年生が、運動会の閉会式の挨拶をしたんですが、勝ち負けよりも、そのときに感じたことをそのまま言葉にして語ったのです。
職員の終礼でそのことを私がほめると、先生方もみんなうなずいていました。スピーチの内容だけでなく、子供の思いや意欲をまるごと受け止める。そういう温かい関係性に先生方が目を向けることができるようになりました。

「子供たちの温かい関係性に先生方が目を向けることができるようになった」

菊池 閉会式で、自分が書いた原稿から目を離して即興で話せる。そこをどう価値づけられるか。
内容だけでなく、熱のこもった口調や間の取り方、身振り手振り、聞く人の反応を見ながら話すスピード、笑顔……見る視点がたくさんあれば、いくらでも価値づけることができます。その先には、即興力豊かな授業へのアプローチがいくつもできることにつながっていきます。
「授業観を変える」といっても、教師の中に実感がなければわからないから、いつまでたっても伝わらない。子供たちの “事実” を元に、丁寧に立ち戻ることが必要ですね。

江崎 学校の人材は、持ち駒が決まっている将棋のようにはいきません。トランプのように配られたカードで勝負するしかないのです。だからこそ、校長はそのカードをどう活かすかを必死に考えなければいけないと思っています。
持ち味を活かすためには、先生方一人一人とかかわリ、対話し、その中でほめて認めつつも、示唆をいかに差し込めるかが勝負の鍵を握っています。

菊池 先生が30人いたら、30通りの主義主張があって当たり前。校長をはじめとした管理職は、我慢をしつつ(笑)、巻き込んでいかなければならない。そういう目で、年間を見越した戦略が必要です。

江崎 そうですね。
一度陸を離れたら、1年間は同じクルーとして航海を続けるわけですからね。

菊池 それだけやってもだめなら、翌年は陸に置いていくしかないですけれど(笑)。

江崎 管理職がそれを言ったら、おしまいですから(笑)!!

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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