「みんな違う」を自然に体感させる場づくりの工夫
自由な感性を育み、個々の個性を引き出す図画工作科。みんなの教育技術で学級経営に関する連載も持つ佐橋慶彦先生は、図画工作科の授業の中で、子供たちが互いを尊重し、違いを認め合うことの意義を学べるようにしているといいます。佐橋先生が考える、学級経営に生かす図画工作科の取り組みとは? その事例をお伝えします。
目次
「個」の作業が中心となってくる図画工作科
学級経営に取り組むのは、学活の時間だけではありません。算数や体育、理科や社会……様々な教科の時間とも学級経営は密接に結びついています。難しい問題の解き方について仲間に相談したり、一緒に技のポイントを考えたりするなど、そういった時間を意図的に設定していくこともまた、学級経営の一つです。
しかし、数ある教科の中でも、図画工作科の時間は、集中して一人で黙々と取り組む「個人作業」のようなイメージがあります。そのため、他教科に比べて学級経営との結びつきをつくるのが難しいかもしれません。また「作品展」も同様に、運動会や学芸会のように協力して取り組むことのできる行事に比べて、学級に変化が見込めないように感じるかもしれません。
そこで今回は、その図画工作科の時間や作品展に向けた取り組みを、私がどのように学級経営と結びつけているのかを紹介したいと思います。
「みんな違う」という感覚を共有するのに最適
学級は自分とは違う他者が集う場所です。性別や特性だけでなく、捉え方、感じ方、好きなこと、嫌なこと、何一つ同じものはありません。この「みんな違う」という感覚を共有することは学級経営の重要なポイントです。違うからこそ意見を出し合ったり、力を合わせたりする意味が出てきます。しかし、それが分かっていないと、自分の考えを押し付け合ってしまったり、自分と似た考えの人だけを仲間として認識してしまったりします。
図画工作科の時間は、この「みんな違う」という感覚を共有するのにうってつけです。
例えば、「私の青」という実践を以前したことがありました。
内容はとてもシンプルで、自分が一番好きだなと思う青色を混色してつくり、小さな画用紙に塗るだけです。
しかし、このただ青く塗った画用紙を全員分合わせてみると、微妙に色が異なり、綺麗なパッチワークが出来上がるのです。青色一つをとっても一人ひとりの捉え方が違っていること、そして微妙に色の違った作品をつなぎ合わせると、とてもきれいに見えることを子供たちに実感させることのできる取り組みです。
作品展でも、個人の頑張りを追求するだけでなく、みんなの作品を合わせた時に一つの大きな作品が出来上がるように考えていくと、完成した時にみんなで作り上げたような気持ちをもたせることができるでしょう。
また、子供たちからの発案で、学級目標のまわりに、それぞれの好きな色を塗った画用紙を貼ったこともありました。みんなの個性を大切にしようと決めた学級目標に合わせてつくったものです。「みんな違う」ということの象徴としてこの掲示物があったおかげで、一年間、互いの良さを認め合うことを大切にすることができました。
アイデアを生み出す場と、互いの集中を尊重する場
また、この「みんな違う」という感覚が共有されると、図画工作の時間にも協力する場面が生じるようになります。私の学級では、図画工作科の時間を大きく二つの時間に分けています。
作品制作の前半は「創出の場」。アイデアを出すために、図鑑や本を調べたり、アイデアを出し合ったりする時間です。他の人の話合いを邪魔しない声量で、図画工作科の内容から脱線しないのであれば、自由に話し合って良いことになっています。
そのため「どんなテーマにした?」「これどう思う?」など話し合う言葉が教室に飛び交い、ワイワイガヤガヤとした雰囲気になります。自分とは違う見方をする人だと仲間を認識することで、自然と仲間にアドバイスを求める機会も増えます。
制作の後半は「没頭の場」です。集中して作品制作に取り組むことができるように、教室に静寂とした雰囲気をつくり出します。もし相談したいことがある時は、ひそひそ声ですることがルールになっています。
また、集中が途切れた時には、まわりの集中を邪魔しないように一人で給水をしたり、外の景色を眺めに行ったりしても良いことになっています。あの子はあの子で頑張っている、みんなにはそれぞれの時間がある、という、互いを尊重する感覚をこの時間に養っていきます。
互いの頑張りを尊重し合うことも、仲間と力を合わせて取り組むことも、その根っこにあるのは「みんな違う」という感覚です。自分と他者は違うからこそ、他者のことを尊重し、他者の見方を尋ねたり、力を借りたりする意味が生まれてきます。そんな大切な感覚を子供たちに授ける可能性が、図画工作科の時間にはあるのではないかと思っています。
いかがでしたか? もし先生が図画工作科に苦手意識があったとしても、このように学級経営につなげて考えていくと、モチベーションが上がるのではないでしょうか。