「絵の具そのままの色」を使わず「自分の色」を使えるようになる指導法

連載
学級担任のための図画工作授業のアイデア

愛知県公立小学校教諭

佐橋慶彦

図画工作科の授業づくりに苦労している学級担任の先生もいるのではないでしょうか。そこで、みんなの教育技術で連載を持つ佐橋慶彦先生が実践している、学級担任だからこそ実践したい図画工作科の授業アイデアを紹介。図工の授業を通して「みんな違う」ことを認識することで、だからこそ意見を交わしたり力を合わせたりする意味があることに気づけるようになるでしょう。

執筆/愛知県公立小学校教諭・佐橋慶彦

彩色のちょっとした指導で、どの作品も個性が光るものに

図画工作科の授業をしていると、絵の具をすごく嫌がる子がいることを目にすることがあります。話を聞くと、せっかく下書きがうまくいったのに、絵の具で台無しになってしまうことが多いようです。

そうなってしまう原因として「絵の具そのまま使いすぎ問題」があります。はじめは楽しく混色をしていた子どもたちも次第に混ぜるのが億劫になり、そのまま絵の具を使い出します。緑色系統のものは緑色の絵の具で、黒色系統のものは黒い絵の具で、というようにチューブから出した色をそのまま塗ってしまうのです。集中力やモチベーションが下がってくると、この傾向はさらに強まります。

混色には、彩度を落とす働きがあり、複数の色を混ぜるほど落ち着いた色になっていきます。そのため、この「絵の具そのままベタ塗り」は、カラフルな世界観を表したい場合や、立体作品を目立たせたい場合にはうまくいくかもしれませんが、風景などを書く場合には下の写真のように色が派手すぎてしまいます。

何より、(青みがかった緑の葉っぱ、黄緑が反射しているように見える水面)のように、どんな色に見えて、どんな風に表現したかというそれぞれの個性が光る彩色の一番の醍醐味を失ってしまいます。学習指導要領にも

『今回の改訂では,生活や社会の中の形や色などと豊かに関わることのできる児童の姿を思い描きながら,育成を目指す資質・能力を示した。』

という一文がありますが、絵の具をそのまま使っていては、色と豊かに関わっているということはできません。

そこで、子どもたちには「絵の具をそのまま使う場面なんてほとんどない」ということを、下のような画像を使いながら伝えるようにしています。

自然の色と絵の具そのままの色の違いを示した画像

私たちが目にする光景には、真っ黒も、真っ白もほとんどありません。黒く見える髪色にも、ほのかに茶色が混ざっていますし、人によって青が混ざっている人、赤が混ざっている人もいます。また白く見える壁紙も目をこらすと黄色がかった白や青色が入った白などいろいろな様々な違いが見えてくるはずです。

画商をしていた父は、私の絵に物を言うことは絶対になく、昔から自由に描かせてくれていました。しかし、この「真っ黒も、真っ白もめったにない。必ず何か混ざっている」ということだけは、繰り返し話していました。

このことを子どもたちに伝えると、混色をする回数が増加し、様々な色が絵の中で使われるようになります。葉っぱの色、水面の色、空の色……。だんだんとその子らしい色使いが現れるようになってくるのです。

また人の顔を塗る時にも同じことが言えます。中~高学年に近付くにつれて、人や自分を描きたがらなくなる子たちがたくさんいます。おそらく、人の顔を描いたり、塗ったりすることがうまくできなかった経験が積み重なっているのでしょう。

このような顔を書くことへのマイナスイメージを生んでしまっているのは、顔のパーツをマジックや黒の絵の具で書いてしまっているからだと考えています。よく顔の色をベタ塗りした後に、パーツの輪郭線をマジックでなぞり仕上げた人物画を目にします。しかし、顔のパーツの輪郭線が真っ黒であることはほとんどないのです。

筆者注:AIが作成した実在しない人物のフリー画像を使用

満足している子は問題ないですが、この福笑いのような仕上がりが嫌で、人を描きたくないという子はたくさんいます。そんな子には、顔のパーツの境界線のほとんどは影なので、塗っている色に、少し紺や茶、黒を混ぜれば自然に表現できることを伝えています。

その子らしさを引き出すためにはなんでも自由にさせればよいという訳ではなく、今回のようにある程度きっかけを与えた方がいいこともあるはずです。指導のタイミングを見極めながら、それぞれの個性が発揮される作品が出来上がるようにしていきたいです。


いかがでしたか? 自由な作風が生まれるのも的確なタイミングでの指導があってこそなのですね。子どもたちの「らしさ」を引き出す授業アイデア、ぜひ取り入れてくださいね!

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