連絡表を温かいギフトにしよう2 ~文章職人の腕を「ことば変換」で磨く~
連絡表(通信簿・通知表)作成には、児童の学習や行動についての評価をしたり、その処理をしたりと長い時間がかかります。また、「所見」作成には、それなりの仕事の手法があります。連絡表を保護者や児童への温かいギフトにするには、どんな「所見」を書けばいいのでしょうか。温かく仕上げるにはどのようにすればいいのでしょうか。前回に引き続き、所見作成のコツを考えていきたいです。
そのコツの中核は、同じ事をいうにしても「ことば変換」をすることです。それで、温かいものになっていきます。わたしが長く所見を書いてきて、上司や先輩の方々から学んだことを思い出しながら技やコツをお伝えします。
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
目次
1 読みやすさ10のコツ
「所見」を書く欄には限りがあります。字数制限もあります。かつて手書きの時代は、紙を貼って引き延ばすなどの技がありましたが、今はキーボードで打ち込みますので、それも難しいです。限られたスペースに入れ込むために、これが正解というものではありませんが、次のようなポイントをおさえると「所見」が読みやすくなるようです。
① 一文を短くしましょう
短ければいいというものでもありませんが。短くすることで読みやすくなることは多いです。以下のようなものです。
<ビフォー> 学校探検を繰り返し行うことによって、学校にはたくさんの人々がいて、それぞれの役割を果たしていることや学習のためのさまざまな設備があることに気づき、かいた絵を見せながらとても丁寧に発表し、友達の喝采を浴びました。
<アフター> 繰り返し学校探検を行いました。たくさんの人々やその役割、学習のための設備などがあることに気づきました。友達の前でかいた絵を発表して喜ばれました。
これで、だいぶ使う字数も短くなりましたし、読みやすくなりました。
② 接続詞を使って、「長文」を「短文」に。表現をシンプルにしましょう
丁寧に分かりやすく説明しようとすることで、一文の中の要素が多くなることがあります。そんなときは接続詞を使って、短文をつなげるようにしましょう。読みやすくなることが多いです。
<ビフォー> 学級会でみんなで決めたルールを守りながら、友だちと力を合わせながら学年の集会活動に取り組み、進んで友達の仕事を手伝う姿がさまざまな場面でみられ、良い人間関係ができているようです。
<アフター> 学級会で決めたルールを守りました。そして、友だちと力を合わせて集会活動に取り組み、進んで仕事を手伝いました。そのおかげで、とても良い人間関係ができています。
このように短文を適宜、接続詞でつないでいけば読みやすくなります。
③ 「かかる言葉」は近くに配置しましょう
「かかる言葉」をキーワードの直前に配置することですんなり読むことができます。
<ビフォー> これはすばらしい○○さんの夢だと思います。
<アフター> これは○○さんのすばらしい夢だと思います。
どこに何を配置すれば読みやすくなるか常に考えていたいですね。
④ 二字で表す動詞をシンプルにしましょう
二字で表す動詞をシンプル化することで、やわらかい感じになります。もちろん「表現する」「発表する」など言い換えない方がいいものも多数あります。
このようにシンプルな表現をすることで柔らかさが出てきますね。
⑤ 無駄や重複を避けましょう
よく言われる「馬から落ちて落馬しました」「今の現状」「色が変色する」「交通の便のアクセスが悪い」などの同じ意味の繰り返し表現を避けたいです。学校で考えれば、「図書室の本」であればいいのですが、何気なく「図書の本」などという表現も多いです。読み返してみて、(あれっ、くどいなあ)と感じたら、無駄な表現や重複がないか疑ってみてください。
⑥ メールに使うような記号は避けましょう
LINEのスタンプに代表されるような画像や記号によるメッセージはもちろんですが、例えば、「……。」や「!」「?」などは連絡表には使わないようにします。連絡表は、通知ですから、軽い表現方法は適しません。きちんとした主語と述語で構成します。
⑦ 強い逆接の接続詞は避ける
一般的な文章では、「でも」「しかし」「しかしながら」といった逆接の接続詞はよく使われます。しかし、通知表の所見では適しません。読んでいて、否定的な感じに受け取られがちだからです。どうしても使わなければならない時は、「ただ」という語が便利です。ネガティブな表現は、避けましょう。
⑧ 職員室で使う用語は避けましょう
校内研究会で児童に対して使うようなワード、「意欲的」「主体性」「自覚」「育成」「支援」などは、できるだけ一般的な表現に言い換えて書いた方がすんなり入ってきます。
例えば、「意欲的」だったら、「進んで」「興味をもって」「集中しながら」など、具体的な姿で書きたいです。
⑨ 体言止めは使わないようにしましょう
「○○さんががんばった図工の作品づくり。」とか「~について取り組んだ○○さん。」などという表現は、通知表の表現としては適しません。絶対ダメだということではありませんが、あくまで通知ですから、「~をしました。」といった文体にしたいものです。
⑩ 基本的な動詞はひらがなで表記するといいときがあります
漢字で書くか、ひらがなで書くかは個人の好みの問題で、文法的な問題ではなく言ってみればセンスなのかとも思います。所見では、よく動詞を使いますが、基本的な動詞は、やわらかくひらがなで表記すると読みやすくなります。
このように柔らかさが増しますね。ただし、文章の流れの中で、漢字で書いた方が明らかにいい場合は、漢字を使ってください。
2 ネガティブからポジティブへの転換はこうする
大人でもそうですが、児童のそのままの姿がその人の個性です。もちろん、今のそういった姿を変えながらより高い人格を築いていくのが教育です。そのために、ネガティブな見方よりポジティブな見方をしていった方が、よりよい人格形成や学力形成につながっていきます。実際の学校生活における「ことば変換」の例を考えてみます。
正直多少無理のあるものもあります。しかし、ネガティブな表現をして書いたとしても課題として受けとめ、すぐ変わるということはありません。また、同じ児童の姿でも「ことば変換」によって、受け入れやすいものになります。そして、所見を記録保存する立場(保護者)としたら、ポジティブな表現で書かれたものの方がうれしいものですし、価値を見いだすことができるでしょう。
3 ジーンとくるワードと言い回し
同じことを表記するにしても、より深く温かく表現する言い回しや文末表現があります。例えば、わかりやすいようにまとめてみました。こんな表現です。
★「友達・みんな」シリーズ
●友達の憧れとなっていました
●みんなの模範です
●みんなから称賛されました
●友達から慕われています
●友達から厚い信頼を得ています
●友達に優しく声をかけることができました
●友達に助言をしていました
●友達からも注目されました
★「~という」シリーズ
●~という気持ちが表れていました
●~という姿をよくみました
●~という気持ちが伝わってきました
●~という思いにあふれていました
●~という感想(姿)が印象に残りました
●~という気持ちが伝わってきました
●~の気持ちが高まりました
★「~ついて」シリーズ
●~についてクラスのみんなから喜ばれました
●~を根拠に話すことができました
★「姿」シリーズ
●誰よりも正確に(速く)できました
●真剣に取り組む姿が素敵です
●楽しくお話しできました
●~の姿勢に感激しました
★「していました」「できました」シリーズ
●目を輝かせて~していました
●うれしそうな表情をしていました
●寒い日も暑い日も欠かさず~しました
●~で注目を浴びました
●自信をもって~ができました
★「名人」シリーズ
●○○名人(博士)です
(話し方名人、聞き方名人など)
以上のような文末だと、先生はよくみてくれているなあと感じてもらえるはずです。
4 メッセージを添えて
所見は、児童の姿を通知することが目的ですが、字数に余裕があれば担任の気持を添えていきます。例えば、こんなメッセージは、どうでしょうか。
●これからの活躍が楽しみです
●うれしくなりました
●見違えました
●これから絶対伸びます
●将来が楽しみです
より強いメッセージ性を入れてみてこんな文章はどうでしょうか。
☆友だちが間違うと、やさしく声をかけて元気づけてくれています。これからも優しい心で接してくれるのだろうなと将来の姿を思い浮かべました。☆
◆
保護者や児童はこういった所見の文章で学校や担任に信頼を寄せ、これからまたがんばろうという気持ちになるはずです。一朝一夕でコツがつかめスキルアップはできないかもしれませんが、ポイントを押さえていけばけっこういい文章が書けます。ぜひチャレンジしてみてください。
なお、教科、行動等の内容や所見例については、本サイトの通知表所見データベースがかなり参考になりますので、活用してみてはいかがでしょうか。
(参考図書)
外岡秀俊『「伝わる文章」が書ける 作文の技術 名文記者が教える65のコツ』(2012・朝日新聞出版)
『授業力&学級経営力』編集部/編『通知表の書き方&所見文例集小学校低学年』(2020・明治図書出版)
山中伸之編著『新版キーワードでひく小学校通知表所見辞典』(2020・さくら社)
土田雄一/松田憲子『小学校通知表ポジティブ所見辞典』(2020・教育開発研究所)
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次回記事は7月5日公開予定です
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、さまざまな分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、さまざまな資格にも挑戦しているところです。