【指導のパラダイムシフト#17】対応のパラダイムシフト③

連載
指導のパラダイムシフト~斜め上から本質を考える~

京都橘大学教授

池田 修

北海道公立小学校教諭

藤原友和

池田修先生×藤原友和先生のコラボ連載、第17回のテーマは「対応のしかた その3」です。いよいよ池田先生が「学習者主体の学習」を促進する対応スキル(評価言)の3大ポイントを提示します。それを受けて藤原先生が、自らの国語の授業を紹介しつつ、それらのポイントをどう実践に落とし込むかについて考察、提案していきます。1人1台端末時代、教育の変革期に奮闘する全ての先生方にとって必読の連載です。

執筆/京都橘大学発達教育学部児童教育学科教授・池田修、北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

池田修

池田 修(いけだ・おさむ)1962年東京生まれ。国語科教育法、学級担任論などを担当。元中学校国語科教師。研究テーマは、「国語科を実技教科にしたい」「楽しく授業を経営したい」「作って学ぶ」「遊んで学ぶ」です。ハンモッカー。抹茶書道、ガラス書道家元。琵琶湖の話と料理が得意で、この夏は小鮎釣りにハマってます。

藤原友和

藤原友和(ふじわら・ともかず)1977年北海道函館市生まれ。4年間の中学校勤務を経て小学校に異動。「ファシリテーション・グラフィック」を取り入れた実践研究に取り組む。教職21年目の今年度は、教職大学院で勉強中。教師力BRUSH-UPセミナー、函館市国語教育研究会、同道徳研究会所属。

第17回のテーマは「対応のしかた その3」

何度も繰り返しますが、今考えているのは、授業における対応の部分です。
地図記号の授業のやりとりから、対応を考えています。
すみません、思い出してください(^^)。

お笑いと対応

やっとお笑いが出てきました(^^)。
最初に少し、お笑いと私ということで話をします。

私が笑いと出会ったのは、日本テレビ系の「笑点」だったと思います。三波伸介さんが司会の頃の笑点です。大喜利を見ていると、お題に対して瞬時に答えを返して、客席を笑わせる。すごいなあと小学生の頃の私は見惚れていました。あんな風に言い返せたらいいなあと思っていました*1。問いを出す側がかっこいんじゃなくて、問いに瞬時に答えるのがかっこいい。そんな風に思っていました。

その後、漫才ブームがあって、フジテレビ系の「オレたちひょうきん族」があって、笑いはいつの間にか、お笑いと言われるようになってきました。クラスで人気のある人は、勉強やスポーツができる人よりも、面白い人というように変わって行ったのもこの頃です。

そして、お笑いといえば、タモリ、たけし、所、さんま、紳助というようなタレントが活躍する時代になっていきました。私は、このタレントの笑いを見ながら、それぞれ違う部分で笑いをつくっているなあと考えるようになっていました。

教師になって、現東北福祉大学教授の上條晴夫さんが声をかけて始まった「お笑い教師同盟」というものに参加するようになって、さらにこの辺りのことを考えるようになりました。この同盟のメンバーと話をしたりしているうちに、上記のタレントたちの笑いの違いを言語化できるようになりました。初期の彼らの笑いの特徴は、以下のようなものだったと覚えています。

タモリ:知的な笑い。トリビアルな知識を前提にして、特殊な技術を使って笑いをとる。ex.四カ国語麻雀*2
たけし:間を潰して、テンポをあげる話術。取り上げるテーマは、非常識にも感じられるもの。タブーを乗り越える。相手を攻撃する笑い。ex.「赤信号みんなで渡れば怖くない」
所:自分を低い位置において、その落差で笑わせる、ディスカウントギャグ。ex.「なーんだ、私が馬鹿なんだ(^^)」
さんま:三角トークが得意。相手の話をよく聞き、相手が面白いことを言えるように、話題を振る。ex.さんまのまんま、さんまのからくりテレビ、恋のから騒ぎ、明石家サンタの史上最大のクリスマスプレゼントショー、あっぱれさんま大先生
紳助:雛壇に芸人を並べて、自分にネタ振りをさせて、最後に自分が面白いことを言ってまとめる。ex.オールスター感謝祭、行列のできる法律相談所

それぞれ特徴があることがわかります。
さて、これらと教師の対応はどう関係するのでしょうか。

中村健一さんの「フォローの技術」

2007年5月に出た中村健一さんの本は、教師の対応を考える上で歴史的な一冊になっていると考えています。それは、『子供が納得する個別対応・フォローの技術』(上條晴夫編著・中村健一著 学事出版)という本です。

中村さんは、お笑い教師同盟の一員です。この本の中で彼は、お笑いにおける、ネタフリ、ボケ、ツッコミを、授業での指導言、子供の言動、教師のフォローの構造に見立てて説明し、特に教師のフォローが大事だと指摘しています。

このフォローについては、編著者の上條さんが以下のように述べています。

フォローとは対応の技術である。とくに教師が子どもに何かを教えているときに子どもの中に生まれる気持ちや考え、両者の間に起こる心の変化に関する対応の技術である。
教師の仕事は学習者の学び体験を充実させることである。
教師の指導に対して、学習者が抵抗や疑問や不安を持っていた場合、それと正面から対峙して、それを解決する必要がある。
それが、本書でいうところの「フォロー」と言うことである。

やっとお笑いと対応が繋がってきました(^^)。

ここでもう一度、お笑いのタレントさんに戻ります。一人だけ、笑いをとるシステムが違うタレントがいることがわかります。明石家さんまさんです。さんまさんは、自分で面白いことを言うのではなく、出演者が面白いことを言えるように、パスを出します*3。そして、そのパスを受けた出演者が面白いことを言います。面白かったらさんまさんは、全身で、それこそ倒れながら笑います。また、うまく行かなかった場合は、またひとつパスを出していきます*4

さて、教育の話に戻りましょう。
教師主導の授業では、教師がボールを支配し、教師がゴールを決めます。または、学習者にボールをパスさせて、ゴールを決めます。しかし、時代は学習者主体の授業にパラダイムシフトしました。

学習者主体の授業では、学習者がゴールを決めます。教師の役割は、学習者にパスを出す人であり、学習者が決め損ねたゴールの球を拾い、再びゴールを決めるためのパスを出します。この「再びゴールを決めるためのパス」が、対応でありフォローであると私は考えています。そうだとすれば、対応のスキルは、これからの教師に必須のスキルになると言えるのではないでしょうか。

指導言と評価言

教師主導の授業では、指導言が大事です。この連載の14回目で、大西忠治先生がまとめたものとして紹介してあります。指示、説明、発問ですね。また、私は14回目の連載で『今後、学習者主体の授業になっていくと、指導言と同じように「評価言」が大事になってくると考えています。』と述べています。以下では、対応、フォローを指導言と対応させて評価言として考えてみたいと思います。

評価言という言葉を学術論文に求めると、山下・広山(1997)*5に見付けることができます。

教師が無意識のうちにも利活用している指導言以外の諸々の言葉に注目したときに、そこにひとまとまりの性質や役割や効果を授業や学習指導の中でもつ言葉群の存在に気付かされるのである。われわれはその一群の言葉を「評価言」と名付けようと思う。

この論文では、以下のように論を進めていきます。すなわち、授業は指導言だけで行われるのではなく、評価言も使われているにもかかわらず、その研究は少ない。通信簿にある言葉は評価言が多いにもかかわらず、評価言の研究は少ない。この問題を、昭和の授業名人の斎藤喜博の授業記録にある評価言から考えてみましょうというものです。

では、斎藤喜博の評価言はどのようなものと言えるのでしょうか。実は、斎藤の評価言は指導言の一面を持っていると言えます。再び山下・広山(1997)*6から引きます。

そこで 見られる斎藤の評価言の特質は「よし!」「できた!」「いいね!」といったような「指導の終り」としての肯定的評価言にあるというよりは、「まだまだ!」「もっと!」「この点は!」「そこは!」といったような「指導の継続」としての否定的評価言、指示的評価言にあり、それを本質としているということである。

これは、教師主体の授業でのものです。さんまさんが行っているフォローと重なるものではありませんね。学習者主体の学習時における評価言とはどのようなものを考えればよいのでしょうか。

学習者主体の学習時における評価言

私は、今のところ次のように考えています。

1.認める
2.正誤の判断をする
3.振り返りをする

です。

1.学習者の学習活動を受け止めるということです。「素晴らしい!」「最高!」などの価値を含んだ言葉を投げかける必要はありません。「学習者がやっているところを指導者の私はちゃんと知っているよ」ということを伝える行為のことです。それは、学習者を見る、学習者に微笑む、手を振る、サムアップをする。このようなことを言います。場合によっては、話を聞くということもあります。これで学習者は十分に自分が学習していることをわかってもらえていると安心して、次の学習に向かっていけます。

2.教師は、学習者の活動が、目的にあっているか、目標を目指しているかの判断をする必要があります。根本的に間違っているときは、「違うよ」ということになります。

ただ注意しなければならないことがあります。学習者主体で学習活動をしているとき、学習者の学習活動は、教師の目から見て奇異に見えることがあるということです。 教師には、学習者の学習の意図が見えないことがあります。特に学習の過程では(どうしてこれがこの目標と関係するのだろうか?)と思うことがあります。その際は、学習者に聞いてみることです。「これは、どういうこと?」と。話を聞いてみると、なるほどと思えて、「間違っているよ」と言わなくてよかったと思うことが割とあると思います。

学習の事実を確認して、正誤の判断をします。
なお、価値の判断は本人がするものという立場を取り、指導者は踏み込まないのがよいのではないかという仮説を持っております。

3.ここは二つあります。学習がうまく行ったときは、その事実を伝え、この先どのように学習を進めていくのかを確認します。そして、その学習がより進展していくようにします。アドバイスを求められたら、そのアドバイスをします。これが正のフィードバック(通常は、フィードバックと言います)です。また、うまくいかなかった場合は、励ましたり、問題点を確認したりして、課題が達成できるようにしていきます。これがフォローアップ(通常は、フォローと言います)です*7

このように評価言は三つに分類されると考えています。しかし、ここで共通して大事なのは、時間です。反応の時間です。これは早ければ早いほどよいと言われています。向後千春先生は、1分以内が良いと述べています*8

いくらスモールステップで課題を組んであるとは言っても、間違った方法でやってしまう人がいます。そんなときは、「そうではなくて、こうだよ」とフィードバックしてあげる必要があります。そのフィードバックをできるだけすぐにやることが大切で、これを即時フィードバックの原則と呼びます。
「すぐに」というのはどれくらいかというと、だいたい「1分以内」というのが目安です。それ以上時間がかかってしまうと、何についてフィードバックされているのかが分からなくなってしまうからです。

簡単なまとめ

さて、対応について、3回連続で考えてきました。
この三つの種類の評価言を使いながら、学習者の主体的な学習を促していく。これが学習者主体の時代の授業のあり方として考えられるのではないでしょうか。

次回は、この評価言を身につけるためのレッスンにはどんなものがあるのかを、考えてみたいと思います。

*1 今では、笑点には放送作家がいることを知っていますが、あの頃は、素直に信じていました(^^)。「笑点最大のタブー 大喜利の回答は放送作家が考えている?

*2 タモリ 四ヶ国語麻雀

*3  さんまさんは、スポーツを愛していますが、特にサッカーを愛しています。本人は、10番をやっているのではないかと思います。10番の選手は試合の司令塔としてボールを出し、味方の選手がゴールを決めやすくする仕事をします。さんまさんのお笑いのスタイルは、ここが影響しているのではないかと言われています。

*4 この辺りのことは、お笑い教師同盟のメンバーなどで分析をして、上條さんがまとめた『さんま大先生に学ぶ 子どもは笑わせるに限る』(上條晴夫著 フジテレビ出版 2000/12)に詳しくあります。

*5 「授業における評価言の役割と教育的効果(1)–斉藤喜博-の場合」教育実践研究センター紀要8 山下政俊・広山隆行 1997 年 p.1 

*6 「授業における評価言の役割と教育的効果(1)–斉藤喜博-の場合」教育実践研究センター紀要8 山下政俊・広山隆行 1997 年 p.3 

*7 時には、今後のことを予言したり、解決策を一緒に考えるという、フィードフォアードをすることもあります。

*8 『教師のための「教える技術」』(向後千春著 明治図書 2014.8)

現場教師によるキャッチボール解説 by 藤原友和

教師が前に出る「のではない」授業を思い描きつつ

「指導言から評価言」および「学習者主体の学習時における評価言」の節では、本連載の核心に迫る提言がなされました。後述しますが、

1.認める
2.正誤の判断をする
3.振り返りをする

です。

池田先生の提案を受けて、藤原なりにこの「対応の技術」の適用場面を考えてみました。結局のところ、「学習者主体の学習」では、教師が前に立って子供たちをぐいぐい引っ張っていく形で授業を進めていくことを構想するとなんだか変なことになります。当たり前ですが。

そうではなく、学習者がぐいぐい進んでいくところを、「それでいいよ」「ちょっと軌道修正しようか」「なんでこれができたの?」と、教師が横や後ろから声をかけていくイメージです。

さて、池田先生の執筆部分だけでもここまでのボリュームですから、私の「解説」部分については、特に本連載との関係から後半部分である「学習者主体の学習時における評価言」に焦点化して考えていきます。

それではよろしくお願いします。

三つの評価言を授業の場面で考える

改めて、三つの評価言をおさらいしてみます。
池田先生が示されたのは、以下の3点です。

1.認める
2.正誤の判断をする
3.振り返りをする

この3点について、自身の授業実践を例に具体的な姿を考えてみたいと思います。単元名は「図書すいせん会をしよう」(教育出版5年)です。宮沢賢治作「雪わたり」の読解単元の後に設定されている読書単元で、自分の気に入った本を一冊「すいせん」するという趣旨の5時間扱いの授業でした。

まず、下記の画像をご覧ください。

図 1 classroomに示された単元計画
図 1 単元計画をclassroomに示す

学習計画を示した「Google classroom」の画像です。単元に入る前に、こうした投稿をあらかじめ作成しておきます。課題は以下のものです。

図 2 「課題」を示す
図 2 「課題」を示す

このように、単元の学習計画と課題(評価基準を含む)を作成しておいて、「やることは書いておいたからね。活動場所は教室か図書室。質問・相談はいつでも受け付けます。では、どうぞ」と始めました。

「作品見本」は以下のものです。

図 3 教師による作例
図 3 教師による作例

こういうのを作ってね。評価基準も示してありますので、何点目指すかは自分で決めてください。今日は本が決まればOKです」

図 4 単元のルーブリック
図 4 ルーブリック(評価基準表)

ここまでを教師の方で準備して、あとはお任せです。端末になにか打ち込んだり、教科書をパラパラとめくったり、周りの子と相談したり……。教室には思い思いのやり方で学習を進めようとしている子供たちの姿が見られます。そのうちに一人、また一人と図書室に向かって行きました。最後には「なかなか本が決められない」という子が一人残り、あーでもないこーでもないといかに自分が読書単元を苦手としているかを私に説明しています。

この日は「本を選ぶことができればOKだよ」と伝えてありますが、中には早速図書室でChromebookを開き、選ぶのと同時に作り始めている子もいれば、「決まらない」と言いながら戻ってきた子もいます。やることを説明し、評価基準を示し終えた教師の役割はただひたすらに個別対応の時間ということになります。

なかなか本が決まらないAさんへの対応】
C 先生、本が決まらないんです。こういうの苦手なんです。
T そっかー。苦手かー。本は嫌いなの? …「1.認める」
C 長いのが読めないんですよー。
T 10点目指すなら長いのがいいけど、9点なら関係ないよ? 最高点がいいの?
C そっか。先生、短くてもいいんですか?
T そうだよ(笑)一度、短いので作ってみて、できそうだったらもう一つ長めのでつくってみたらどうかな。…「2.正誤の判断をする」
C 短くてもいいんだ。わかりました。短いのでやります。
(Aさんが選んだのは、絵本『どろんこハリー』でした。)
T お。いいの選んだね。これ、「雪わたり」と一緒だよ。
C え。どうしてですか?
T だって、おうちから出かけて行って、またおうちに帰ってくるでしょ?
C そっかー。「行って帰ってくる話」だ。
T そうそう。ということは、なんか 仕掛けがあったはずだよね。…「3.振り返りをする」
C あぁー。それを「すいせん」の中身にしたらいいですね。

【あっという間に仕上げてスライドを見せにきたBさんへの対応】
C 先生、できました。これでいいですか?
T おお。できたのね。完成おめでとう。…「1.認める」
T  いいかどうかは自分で決めるんだよ。評価基準表見た? …「2.正誤の判断をする」
C  そっか。…先生これだと10点になりそうです(笑)。
T  自信あるんだね(笑)。じゃ、見せてください。…そうだね。作者名、題名がある。割と長め……というか分厚いね(BさんはJ・K・ローリング作『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』を選びました)。
T  確かにこれは10点です。あと、「すいせん」をパワーアップしたいね。…「2.正誤の判断をする」
C どうやってですか?
T  うん。「すいせん」って、なんだった? 「課題」にあるから見てごらん(図2参照)。…「3.振り返りをする」
C すすめることって書いています。
T すすめられた人がどうなったら成功かな。…「3.振り返りをする」
C 読んでみたくなったら、ですよね。分かりました!

この後Bさんは、映画版と小説版との違いをいくつかピックアップして、推薦文にまとめていました。

図 5 AさんとBさんの制作物
図 5 AさんとBさんの制作物

本単元は配当時数は5時間です。そのうちの前半3時間が選書と表現物の作成にあてられています。もちろん課題提出までの時間差は大きく、例に挙げた子供のようになかなか動き出せない子もいれば、あっという間に仕上げてしまう子もいます。

そして、この3時間の「学習の密度」を上げていくには、それぞれの子供の進捗に合わせて個別に対応せざるを得ません。ここまで書いてきてふと思いました。「単元の計画と評価基準表をあらかじめ渡していて、作例まで示しているから個別対応できるけど、そうでなければ手がまわらないぞ」と。

どうやらこの「対応」には一斉指導の技術とは違ったロジックがあり、その上達論もまた別の筋道があるらしい……。

池田先生、次回の「レッスン編」、楽しみにしています!

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