小6国語科「『鳥獣戯画』を読む」(令和6年度版)全時間の板書例と指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小6国語科「『鳥獣戯画』を読む」(光村図書)の板書例、教師の発問、想定される子供の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した全時間の授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/山梨大学大学院教授・茅野政徳
執筆/早稲田大学系属早稲田実業学校初等部・久保田旬平
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
本教材「『鳥獣戯画』を読む」は、スタジオジブリのアニメ映画「火垂るの墓」「平成狸合戦ぽんぽこ」などの監督・演出を手がけた高畑勲さんが、平安時代に書かれたとされる絵巻物『鳥獣戯画』の一場面を切り取って、その魅力や価値について論じている説明的な文章です。
筆者は『鳥獣戯画』に対して、「国宝であるだけでなく、人類の宝である」というこの上ない賛辞を送っています。そんな筆者は文章の至る所で表現を工夫しながら自身の見方が読者に伝わるように論を展開しています。実際の『鳥獣戯画』の絵と筆者が解説した文を結びつけながら、そういった筆者の表現の工夫を見つけ、その効果を考えたり、論の進め方について考えたりする力を養うのに適した教材です。
また、「発見、日本文化のみりょく」は、教科書では「『鳥獣戯画』を読む」で学習したことを生かして書くという複合単元として位置付けられている教材です。
単元の冒頭から子供自身が書き手となることを意識しながら「『鳥獣戯画』を読む」の学習を進めていくことで、「読むこと」の学習も充実していくことが期待できます。
複合単元として位置付けられているものの、「『鳥獣戯画』を読む」では読むことの資質・能力を、「発見、日本文化のみりょく」では「書くこと」の資質・能力を育んでいくことが求められます。
子供たちが内容的な関連やつながりを感じることができるよう単元を構成し、指導することを意識しながらも、読むことと書くことそれぞれで育むべき力をしっかりと見極め、どちらの力も高めていくことができるような単元にしていきたいですね。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
本単元では、上述したように「読むこと」と「書くこと」を一連の言語活動の中に組み込んで設定した複合単元として考えていきます。光村図書の教科書の中には、各学年にこういった読むことと書くことを関連させるような単元が一つずつ設定されています。
5年生のときには、読むことの学習として「固有種が教えてくれること」を学習材に、図や表、写真など文章以外の資料を使う効果を考え、それをもとに書くことの学習として、実際にグラフや表を用いて自分の考えを伝える文章を書いたという学習経験をした子も多いはずです。
6年生ですから、そんな子供たちのこれまでの学習を想起させながら単元の学習を進めていくとよいでしょう。
○ 書くことを意識した「『鳥獣戯画』を読む」の学習づくりを
書くことと読むことを関連させるためのキーワードとなるのが「日本文化」です。
「『鳥獣戯画』を読む」の本文中にも、「十二世紀から今日まで、言葉だけでなく絵の力を使って物語を語るものが、とぎれることなく続いているのは、日本文化の大きな特色なのだ。」という文があります。こういった文をもとに、『鳥獣戯画』も日本文化の一つであるという視点で単元を考え、単元冒頭では「日本文化と聞いてイメージするのはどんなものだろう?」という問いを設けたり、日本文化について意識しながら「日本文化について書かれた文章を読もう」という投げかけをしたりすることで、読むことの学習へ誘う単元を考えました。最終的には読むことで学習したことや育んだ力を生かして、興味をもった日本文化について書くという言語活動へとつなげ、書くことの力の育成を図っていきます。
○ 教科横断的な学習や学校行事との関連、相手や目的の設定で必然性のある学びを
教科書では「日本文化について書く」という単元の言語活動が設定されています。もちろん自分で日本文化を選んで書くのもよいのですが、カリキュラム・マネジメントの観点から、学校・学級の実態に応じて「総合的な学習の時間」と関連させて書くことの学習につなげるのもよいでしょう。
次の「発見、日本文化のみりょく」の記事では教科書に準じて「日本文化の魅力を伝える文章」の作例も載せていますが、「修学旅行で行った日光東照宮の魅力を伝える文章」の作例も載せました。
修学旅行をはじめとする学校行事と関連させた言語活動を設定することで、「来年同じ場所に行く5年生がより行きたくなるように伝える」といった、明確な相手や目的を設定することができ、一層子供たちにとって必然性のある学びになるはずです。
学校の先生方でアイデアを出し合ったり、必要に応じて子供たちと相談したりしながら単元の言語活動を考えていけるとよいですね。
4. 指導のアイデア
筆者の高畑勲さんは『鳥獣戯画』の甲巻の一部分、兎と蛙が相撲をとっている場面を取り上げ、意図的に切り離して説明することを通して、その歴史的価値や魅力を伝え、最終的には「『鳥獣戯画』は国宝であるだけではなく、人類の宝である。」と論じています。子供がこの教材を読む前に「人類の宝ってどんなものがあるだろう?」と聞いてみると『鳥獣戯画』と答える子はまずいないでしょう。
しかし、一読すると『鳥獣戯画』は人類の宝であるという高畑さんの意見に納得する子も多くいるのではないでしょうか。読者としての子供たちの率直な声を生かしながら学習を進めていきましょう。
筆者の主張に納得する子が多いと考えるのには、いくつかの理由があります。
一つ目は書き出しを会話文で始めることで臨場感が生まれており、また体言止めを用いて文を終えることでリズムよく文章を読み進めることができるようになっていることです。読み手を惹きつけてやまない表現の工夫が目白押しです。まずは、「読むこと」の学習の中でこういった筆者の工夫に目を向けさせたいところです。
二つ目は『鳥獣戯画』が現在の日本文化の一つである「漫画やアニメの祖」であるということを伝えていたり、その魅力や特徴が際立つように同じ時代の絵巻物との比較を巧みにしていたりする点です。
3段落で「漫画の祖とも言われている国宝である」ことについて言及し、それが絵巻物で一続きになっていることを示すことで、4段落では「アニメの祖でもある」ということを説明しています。
最終段落の中で『鳥獣戯画』を「なんとすてきでおどろくべきことだろう」「実に自然でのびのびしている」と評し、「世界を見渡しても、これほど自由闊達なものはどこにも見つかっていない」と、同時期に書かれた他の絵巻物との比較をしながら、自身の主張が伝わるような論を展開しています。
最後にある「信貴山縁起絵巻」や「伴大納言絵巻」の写真も、『鳥獣戯画』の自由闊達さや魅力を際立たせるものになっています。
このような筆者の工夫に気付くために、絵についての説明を青色で、筆者が作品を評価している文には赤色で、それぞれ本文に色分けをして整理しながら読む学習活動を取り入れるとよいでしょう。
作品の説明が単調にならないように読者を引き込む工夫をしていること、そして自分の見方や評価を伝えていくために効果的に全体を構成していることなど、多くの気付きを生むことができるように学習を進めていきたいですね。
そして、「読むこと」の学習で学んだことを「書くこと」の学習でも積極的に生かすように促していくことが大切です。表現の工夫や構成の工夫、写真の使い方……様々な視点で子供が書いた文を価値付けられるはずです。教師の価値付けや子供同士での認め合いこそが、「表現を工夫してよかった」という達成感や「この表現の工夫を次も使ってみよう」という意欲の向上につながります。
5. 単元の展開(5時間扱い)
単元名:『鳥獣戯画』を読む
【主な学習活動】
・第一次(1時)
○ 日本文化と聞いてどんなものをイメージするか、イメージマップで考えを広げ、単元の最後に自分が決めた日本文化について文章を書くという学習の見通しをもつ。
○ 日本文化の一つ「漫画の祖」と言われている『鳥獣戯画』について書かれた文章を読むことを伝え、NHK for School「ものすごい図鑑 文化財編 鳥獣戯画 甲巻」をもとに、感想や気付きを共有する。
・第二次
(2時)
○ 筆者の高畑勲さんについて調べ、「『鳥獣戯画』を読む」を読む。
○ 読んだ感想を交流しながら学習課題を設定する。
学習課題:自分が文章を書くときに参考にしたい表現の工夫を学ぼう
(3時)
○ 絵と文章を照らし合わせ、筆者が『鳥獣戯画』の絵について説明している部分と評価をしている表現を見つけながら、絵の使い方についての工夫を考える。
(4時)
○ 筆者が「読む」という言葉を題名に使った意味を考えながら文章全体の構成を捉える。
(5時)
○ 筆者が「人類の宝」であると考えた理由を考え、それを伝えるためにどのような工夫をしているのかを考える。
全時間の板書例、ワークシート例と指導アイデア
● 本時の概要
まずは単元全体を貫くテーマ「日本文化」について興味関心を広げ、自分でも書いてみたい!という意欲を高めるような1時間にします。「日本文化と聞いてイメージするものにはどんなものがある?」と問うと、子供たちから色々と出てくることでしょう。教科書の312ページには、図を使って考えを広げる方法が紹介されています。板書で上位概念と下位概念を上手に整理してあげると子供たちの見方が一層広がることが期待できます。必要に応じてインターネットで調べる時間などがあってもよいかもしれません。次時で『鳥獣戯画』は漫画の祖であると言われていることを取り上げたいので、漫画やアニメも日本文化の一つであることは確実に押さえておきたいところです。
日本文化についてある程度考えが広がったら、単元の最後には自分で日本文化を選んでその魅力を伝える文章を書くことを伝えましょう。イメージを共有するためにも168ページに載っているような文章や教師が作成した文章などを示してもよいかもしれません。
書くことの学習は個々の作業が中心となり、進度の差も生まれやすい領域です。単元冒頭のこの段階で「自分はどんな日本文化について書きたいか、いくつか候補を決めたり調べたりしておこう」と投げかけておくとよいでしょう。
日本文化についてのイメージが膨らんだところで、「今どんな漫画を読んでいる?」と聞くと、多くの子が喜んで答えてくるはずです。そこから「世界で一番古いと言われている漫画って知っている?」と聞き、それが『鳥獣戯画』であることを知らせます。実際に見てみたいという気持ちが高まったところで、NHK for School「ものすごい図鑑 文化財編 鳥獣戯画 甲巻」を見せるといいでしょう。
また、App Storeにも『鳥獣戯画』のアプリがあります。どちらでも甲巻の全てが見られるので活用してみてください。子供たちがつぶやいたこと、また実際に見て気付いたことや感想を板書に残しておきましょう。
イラスト/横井智美