小3国語科「春風をたどって」全時間の板書&指導アイデア

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国語科 令和6年度版 新教材を活用した授業づくりー文部科学省教科調査官監修の実践提案ー
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1人1台端末時代の「教科指導のヒントとアイデア」

文部科学省教科調査官の監修のもと、令和6年度からの新教材、小3国語科 「春風をたどって」(光村図書)の全時間の板書、発問、想定される児童の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。

 小三 国語科 教材名:春風をたどって(光村図書・国語 三上)

監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/神奈川県横浜市立東汲沢小学校校長・丹羽正昇
執筆/神奈川県横浜市立大鳥小学校・角田峻介

1. 単元で身に付けたい資質・能力

本教材は、遠くに旅に出たいと考えていたりすの「ルウ」が、「ノノン」というりすと行動を共にすることで、近くにもこれまで見たことのない景色があることを知る物語です。
教科書では、登場人物の気持ちを確かめ、物語の続きについて想像したことを伝え合うことで、行動や気持ちなどについて、境遇や行動の背景など複数の叙述を基に捉える力を育てていきます。
教科書に示されている言語活動を通じて資質・能力の育成を図るのは大切なことです。
ただし、低学年から中学年になってあまり間がない時期でもあり、授業者のクラスの児童の実態を踏まえ、指導事項に合わせて言語活動を変更しています。

そこで、本単元では、「ルウ」の話す言葉に着目し、どのように音読したらよいか考えることで、行動や気持ちなどについて、境遇や行動の背景など複数の叙述を基に捉える力を育てていきます。
言語活動を音読中心としたものに設定した理由については、「3.言語活動とその特徴」で詳しく述べることにしますが、どのような言葉に着目して読んでいけばよいのかを考えながら読み、自分が紹介したい部分や、場面が移り変わっていく様子がよく分かるように音読することで、確実に資質・能力を育んでいくようにします。

評価規準

3. 言語活動とその特徴

本教材「春風をたどって」は、中学年になって初めて読む物語文です。低学年では、場面の様子や登場人物の行動など、内容の大体を捉えたり、場面の様子から登場人物の行動を具体的に想像したりすることができるよう指導してきました。

中学年では、複数の叙述を結び付けて登場人物の行動や気持ちなどを捉えたり、気持ちの変化や性格、情景を読んだりする力を身に付けていく必要があります。
教科書に示された言語活動である「物語の続きを想像する」には、どこかの場面に偏ることなく物語全体から受ける世界を意識して想像する必要があります。その意味では、行動や気持ちなどについて、境遇や行動の背景など、複数の叙述を基に捉える力をしっかりと育てることができます。

しかし、低学年の段階で、お気に入りの場面を中心に想像を膨らませてきた児童にとっては、場面の移り変わりを意識し、複数の叙述を根拠にしながら物語を読んでいくためのもうひと工夫が必要だと考えます。
そこで、低学年までの読む能力を活用し、かつ児童が主体的に学ぶことができる言語活動を今回は設定しました。「この場面が好き。」「ここのせりふを声に出して読んでみたい。」という率直な感想や、既習の学びを基にした考えを大切にしながら、「そのせりふをより主人公の気持ちに近づけるにはどう音読したらいいか。」「どの言葉からそう考えたのか。」と、場面ごとの音読の仕方や音読の変化を考えるようにすることで、場面の移り変わりを意識することができ、根拠となる叙述を複数箇所で見つけることができます。
場面の様子を想像するための音読とその音読の変容を追うことで、無理なく指導事項に示された資質・能力を育成することができるのです。

本単元では、主人公のりす「ルウ」になりきって音読発表会を行います。本稿で紹介する授業アイデアでは、「ルウ」の会話文に着目することで、それぞれの場面で登場人物がどのような気持ちで話しているのかを考えながら読むことができるよう、音読発表に焦点を当てた学習計画を載せています。
複数の場面の登場人物の気持ちを声に出しながら読み重ねていくことで、物語の展開に沿って具体的な様子を想像し、複数の叙述や言葉に着目することができるとともに、単元の終末にある発表会に向け、児童が目的意識をもって主体的に学習を進めていくことができると考え設定しました。
また、音読した音声をICT機器を活用し、録音・再生することで、自身の学びを客観的に捉え、読みの深まりを実感する児童の姿も期待できます。

本文の中には、「ふさふさしたしっぽをたいくつそうにゆらしながら」というように、気持ちがそのまま読み取れるものもあれば、「ルウはためいきをつきます。」というように、登場人物の行動から気持ちを想像することができるものもあります。会話文の近くに書かれた叙述を根拠に、登場人物の気持ちを想像しながら読むことで、行動の背景や、登場人物の境遇や性格を捉えながら学習を進めていくことができます。
また、児童の考えた登場人物の気持ちにぴったり合う言葉を探しながら学習することで、様子や行動、気持ちを表す語句や、感想、紹介の語句の量を増すこともできます。

4. 指導のアイデア

単元の学習を主体的な学びにするために、本授業アイデアでは、学習のゴールに「なりきり音読発表会」を設定しました。登場人物になりきって音読するために、叙述を根拠に読み取っていくことの大切さについては、「3.言語活動とその特徴」でも触れましたが、自分の読み取った登場人物の気持ちを発表会で伝えるという具体的な目標を設定することで、ゴールを意識して学習を進めていくことができます。授業参観など、保護者の方に見ていただく機会が設けられそうな場合は、そこに合わせて単元のゴールを設定するのもよいでしょう。

具体的なゴールの設定は、深い学びを生み出すためにも大切です。どのような発表形式で、何を大切にして読むかを教師も児童も共通理解した上で学習に取り組むことで、児童自身が発表会に向けて取り組むべき学習内容を考え、自分の進捗状況や課題に応じて何度も繰り返し粘り強く学習に取り組む様子が期待できます。本アイデアでは、4・5時間目に児童が学習方法を選択する場面を設けました。児童の実態に応じて選択のさせ方や自由度を調整してください。

本単元では、児童それぞれが登場人物になりきって音読発表をする学習を設定しているため、読みが深まるほどに児童による登場人物の気持ちの捉えや課題に差異が生まれることが想定されます。
自分の捉えと友達の捉えを比較できるようにタブレット端末を活用してワークシートや学習計画を共有したり、学習の課題に応じて交流場所を選択できるように環境を整理したりすることで、目的に合った相手と交流ができるようにします。
また、ワークシートをタブレット上で操作していくことで、書き込みを増やしたり減らしたりすることを容易に行えるだけでなく、音読した声を録音して聞くことも可能になります。視覚化しづらい音声言語を客観的に捉えるためにもタブレット端末の活用は有効です。

5. 単元の展開(8時間扱い)

 単元名: 登場人物の気持ちをそうぞうしてつたえ合おう ~なりきり音読発表会~

【主な学習活動】
・第一次(1時2時
① 初発の感想を伝え合い、物語の内容の大体を捉える。
② 単元のゴールイメージをもち、学習計画を立てる。

・第二次(3時4時5時6時
③ 本文の中から「ルウ」の気持ちを表している言葉を見つける。
④⑤ 行動や会話文などから、「ルウ」の気持ちを想像し、音読する。〈 端末活用(1)〉
⑥「ルウ」の会話文を繋げて、物語の中での気持ちの変化を読み取る。

・第三次(7時8時
⑦ なりきり音読発表会を行う。
⑧ 単元の振り返りを行う。

全時間の板書例と指導アイデア

【1時間目の板書例 】

1時間目の板書例

単元の1時間目には、物語を読んだ最初の感想を交流し、内容の大体を整理していきます。
初めて読んだ上での感想交流となるため、細かい叙述や展開などまで捉えることは難しいと思いますが、ただ「読んで感想を発表しましょう。」と伝えるだけだと、内容をつかむのが苦手な児童や内容を読み誤ったまま感想をもってしまう児童が生まれてしまう可能性があります。
「どんな登場人物が出てくるかな。」「主人公が住んでいるのはどんなところかな。」など、内容の大体をつかむ上で必要な視点を与えてから読むなどの工夫が必要です。

本教材は、行間の空いた箇所で本文を区切ると四つの場面に分けることができます。
「それぞれの場面を1文で書いてみましょう。」などの発問をすることで、物語全体がどのように展開していくかに着目して読むこともできます。
また、四つの場面は、「①高い木の枝の上」「②森の中→しげみ」「③花ばたけ」「④すあな」というように、物語の展開とともに場所も変化しているので、教科書の挿絵を示すなどして、本文の叙述だけで様子を想像するのが難しい児童への支援も考えましょう。


【2時間目の板書例 】

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イラスト/横井智美

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