樺山敏郎先生の 全国花まる国語授業めぐり~子どもと登る「ラーニング・マウンテン」! ♯4 鳥取県東伯郡北栄町立大栄小学校「たんぽぽのちえ」の授業
カバT(Teacher&Toshiro)こと、元・文部科学省学力調査官の樺山敏郎先生が全国の国語の研究校の授業を参観し、レポートする連載第4回。今回のカバTは、鳥取県北栄町を訪れました。
執筆/樺⼭敏郎 KABAYAMA Toshiro
(⼤妻⼥⼦⼤学家政学部児童学科教授、元・⽂部科学省国⽴教育政策研究所学⼒調査官)
目次
【第4回】鳥取県東伯郡北栄町立大栄小学校
「たんぽぽのちえ」(光村図書2年)
授業者:生田智子教諭 (全10時間中の第2時)
訪問日:令和6(2024)年5月13日(月)
訪問の概要
北栄町立大栄小学校は、鳥取県教育委員会指定“子どもが伸びる授業づくりプロジェクト”に取り組んでいます。本事業は、全国学力・学習状況調査における課題を踏まえ、学習指導要領に示されている資質・能力を育成する授業づくりを推進し、県内へ発信することを目的としています。
同校は県指定2年目で、筆者はこの間、数回訪問しています。
今回は、年度初めにおいて転入教員に配慮した全校の研修態勢の高揚を図る狙いがありました。
参観した授業では、本連載のメインテーマ「ラーニング・マウンテン」を作成する導入段階でした。
読者の方々の興味・関心が高い場面の授業でしたので、今回はその様子について詳しく紹介します。
Good Practice〜授業の花まるポイント
シーン1:単元全体としての学習課題を設定する
教科書教材「たんぽぽのちえ」に付された単元名は「じゅんじょに気をつけてよもう」でした。
この“じゅんじょ”という意識を2年生の子どもたちにどのようにもたせていくかがポイントになります。単元のまとまり(内容・時間)の中で、“言語活動を通して指導事項を指導する”という方向を子どもたちと共有していく授業が展開されていました。
①生田教諭は、前時(1/10)に書いた各自の感想をみんなに紹介し、単元全体の学習計画を立てることを本時の目標としています。板書のあめては「かんそうをつたえあい、どのように学習していくかを考えよう」。
②子どもたち数人が、“たけのこ”のように順に起立して感想を述べていきます。
その間、生田教諭は、用意した挿絵入りの模造紙に、児童の感想をできるだけそのままの言葉でサインペンで書き込んでいきました(写真1右半分)。そして、その模造紙を順に並べていくことで、“ちえ”というものが“じゅんじょ”立てて説明されていることを視覚的に捉えることができていました。
③おおむね出尽くしたところで、生田教諭は題名に注目させながら、たんぽぽにはたくさんの知恵があることを確認しました。その後、生田教諭は自身の単元構想に基づき、「たんぽぽではない、そのほかの花にも知恵があるのかな」と問いかけます。すると、子どもたちは、「1年生の生活科で勉強したアサガオは、たくさんの種子ができたよ」「チューリップは、球根から育つんだよ」等々、次から次へとこれまでの学習や生活経験に基づいてつぶやいていました。
④それを受けて、生田教諭は、用意した『たんぽぽ』『あさがお』『チューリップ』の3冊の本を提示しながら、「いろいろな本を読んで、花の知恵を探っていきましょう」と誘いました。生田教諭は続けて、「様々な花の本を読んで、最後はどうしたい?」と問いかけます。
すると、“ちえをみんなに伝えたい(教えたい、発表したい)”、“「じどう車くらべ」のときと同じように図鑑をつくりたい”、“「くちばし」のときのようにクイズをしたい”との希望が次から次へと出されました。このシーンは本時の中で最も盛り上がりをみせていました。
⑤ここで、「ラーニング・マウンテン(大き目の模造紙)」が登場。
生田学級は一年からの持ち上がりで、この「ラーニング・マウンテン」を活用した授業に既に取り組んでいたことから、実にスムーズに流れていきました。生田教諭が、「この単元を通して、みんなで解決したい問い(学習課題)をどうしましょうか」と問いかけると、それまでの学習の流れが整理されていき、「いろいろな花のちえを本から見つけて、それをみなさんがじゅんじょに気をつけながらクイズにしてはっぴょうしよう」と決定されていきました(写真1左半分)。
シーン2:単元の目標(山の頂上)を子どもと共有する
「ラーニング・マウンテン」を活用した授業では、言語活動だけを意識しては十分ではありません。
今般の学習指導要領では、身につける資質・能力が3観点に分けられ、子どもにも付けたい力を明確にすることが重視されています。筆者は、そのことを踏まえて、目標となる山の頂上には“単元の目標”を子どもたちが分かる言葉で明記するよう求めています。
⑥単元の学習課題が決定した後、生田教諭は次のように説明します。
「この単元を通して、みなさんに力をつけてほしいことがあります。それをみなさんで立てることは難しいので、先生のほうから示すことにします」。ここが、ラーニング・マウンテンの肝になります。
⑦そこで、子どもたちに提示したのが、電子黒板に映し出された教科書の“学習の手引き”です。
そのページの最後に「ふりかえろう」というタイトルで、単元を通して身につける資質・能力の3観点に即した内容が子どもにも理解できる言葉で掲載されています。生田教諭はそこを上手に取り上げて、目標を提示していきました(写真2)。
⑧「わかること・できること」は“知識・技能”、「かんがえること・あらわすこと」は“思考・判断・表現”、「くふうしてまなぼうとすること」は“主体的に学習に取り組む態度”と対応しています。
国語科ではこれまで、単元の目標を子どもたち自身に伝えることは少なかったように感じています。
低学年であっても、こうした資質・能力ベースの授業へと転換させていきましょう。
シーン3:目標(山の頂上)に向かうプロセス(見通し)を検討する
単元の学習課題や目標(山の頂上)がイメージできたところで、次は学習計画の立案になります。
この単元では、10時間を配当していました。本時は2時間目ですから、その後の8時間の学習をどのように進めるかが重要になります。どのような学びを展開していけば、山の頂上に立てるのか、ラーニング・マウンテンのルートやプロセスといった見通しを検討することになります。
⑨生田教諭は、第2ステージに5時間、第3ステージに3時間を配当し、自身の単元構想に基づきながら、子どもたちとのやりとりを通して、学ぶ内容を整理していきました(写真3)。
⑩写真3の左右2か所に「たしかめ」という枠組みがあります。これは、いわゆる“形成的な評価”を行うことを示すようにしていますが、今回はここについては時間的な都合で検討できませんでした。
Advice 〜エールを込めてアドバイス
「ラーニング・マウンテン」は、子どもと共につくる学習計画です。ゴールイメージとプロセスデザインを大切にした、学びの見える化につながるプランです。今回、読者の皆様には、その作成の一連の流れを大まかにつかんでいただけたのではないでしょうか。
さらに、身につけるべき力を意識し、多様な子どもの思いや願いを大切にした、真に意味ある「ラーニング・マウンテン」になるよう、筆者は生田教諭に次のような三つの助言を行いました。
その一、“山の頂上(ゴール)へ向かう学びには、期待感と自己効力感が必要である”
本単元は、教科書以外の多読への誘いがあり、それが子どもたちの科学的な知的好奇心を高めることに成功していました。国語科の教科書教材は魅力的なものばかりで、その教材の内容に関心を寄せることは普遍です。ここで重要なことは、子どもたちが興味をもった他の花の本を読み、クイズをする単元のゴールにおいて、子どもたちがどのような姿になっていればよいのか、ということです。
科学的な知識を得るためには、本の内容を正確に理解しなければなりません。ここで重要な視点は、理科教育ではなく、国語科教育としての位置づけを明確にしておくことです。
観察や実験などは行わず、読書によって情報を的確に捉える力を伸ばすことが国語科の使命です。そう考えると、子どもが選んだ花の本を読む際、教科書教材「たんぽぽ」で習得した読み(読み方)を活用(転移)することが重要となります。
漫然と知識を得ようとするのではなく、時間的な順序に注目して花の“ちえ”を追いかけるように読み進め、それに関わる重要な情報を取り出すことに主眼が置かれなければなりません。
第3ステージの学びは、放任的な調べ学習に陥ってはいけません。子どもたちに読みのストラテジー(方略)をしっかりと確認させる必要があります。
読み取った内容を“クイズ”というかたちで表出するのであれば、“順序を意識したクイズ”に仕立てていくことが大切です。例えばアサガオであれば、アサガオはいつ、どのように種を残し増やしていくのかを整理しつつ、その成長の過程でアサガオの“知恵”を取り出していく活動の中で読みの力を発揮していくことに、子どもたち自身が自覚的になることです。
「アサガオの色が何種類ありますか?」といった、なんでもクイズでは不十分なのです。
このような資質・能力の獲得をめざす学びへの期待感を高めるために、教師自身がモデルとなるクイズを師範してみせること(モデリング)は有効です。きっと、クイズのイメージを質的に上げていくことができるでしょう。
併せて、学びを一つ一つ積み重ねていく中で、楽しくて力がつくクイズができるという効力感を高めていくことにも意を用いたいものです。
その二、“低学年であっても、自身の学びのプロセスを検討させることには意味がある“
学びの見通しをもつためには、経験の積み重ねが必要です。
低学年の子どもたちには、発達の段階として、まだ他律的なかかわりが必要であることは自明です。
だからといって、低学年の子どもたちが何の見通しももてない、と曲解してはいけません。
自立の基礎を培う段階であるからこそ、小さな思いや願い、気付きを大切に育てていきたいものです。稚拙であっても、中には優れた発想(イノベーション)が潜んでいることもあるのです。
本授業において、第2・3ステージの学習内容や方法を検討する際、やや教師主導になりがちでした。そこにひと工夫が必要です。学習の見通しを高めていくためには、全ての教科書に掲載されている“学習の手引き”を大いに活用すればよいでしょう。各教科書会社のそれには、学習指導要領の指導事項を意識した学習内容と方法が明記されています。それら一つ一つを「ラーニング・マウンテン」に位置付けることから始めてみましょう。そしてそれらを少しずつ子どもの実態、教師自身の単元構想に合わせてカスタマイズしていくことをお勧めします。
見通す力を高めるためには、学年が上がるにつれて、その検討を子どもたちへ委ねていくことが理想です。今後は、それを一層個別化していくことが求められていきます。
その三、“一人一人違う子どもたちの多様な初発の感想を粗末にしてはならない”
説明的な文章を一読した後、初発の感想を求めることがあります。その初発の感想は何のために表出しなければならないのでしょうか。表出された感想は、その後の学びでどのように取り扱われているでしょうか。
一般的に学習課題につなげていくことに活用されることが多い初発の感想ですが、感想は二つに大別できます。
一つは、“感動”という側面です。教科書の学習の手引きにも記載されているように、「初めて知ったこと」「すごいと思ったこと」「びっくりしたこと」などです(写真4)。本単元では、それらは“ちえ”という言葉に集約されていくことになります。
もう一つは、“疑問”という側面です。
「ふしぎだなあ。どうして…、なぜ…」「もっと知りたいなあ。調べてみたいなあ」といったものです。本授業では、「わたげは雨がふったらすぼんでいたのがふしぎ?(下の写真4)」、「わたげはどこまでとんでいくのかな?」など、教科書の叙述からは答えを導きだすことができない疑問が表出されていました。
こうした疑問に、教師はどのような対応をすればよいでしょうか。一人一人の疑問を学びの舞台に上げることはできないのでしょうか。
小学校学習指導要領国語の解説編には、「精査・解釈」は、“書いてあること”は当然として、“書かれていないこと”への想像・推察を含むものとして説明されています。
「わたげはどこまでとぶのか」を追究することは、たんぽぽのちえを深く読むことにはつながらないのでしょうか。
筆者は、一人一人の疑問を解決できるような手立てを講じることはできると思っています。それを、「ラーニング・マウンテン」という単元のまとまりの中で一定の時間枠として用意できるのではないかと…。第2ステージの後半か第3ステージ前半において、「たんぽぽ」の図鑑や科学読み物、あるいはインターネットを活用しながら、教科書の中では解決できないことを調べて分かったことを、それこそクイズで出し合うことができるのでないかと。それは逸脱でしょうか。邪道でしょうか。
PISA調査では、“クリティカル・リーディング”の重要性が叫ばれています。“批判的に読む”という行為は、「ここには…と書いてあるけど、その理由や根拠はどこにあるのだろうか」、「この部分をもっと詳しく書いてもらえると分かりやすいのに…」、「筆者が述べていることに論理の飛躍はないのか」、「この事実は一部であって全部ではないのでは…」、「どのようなデータ(エビデンス)に基づいているのだろうか」等々、読みをテキストの外へと導いていきます。
説明的な文章に対する共感や納得、疑問や意見をもつことは極めて重要な能力であり、“書かれていないこと”への注目は、決して国語科から離れることはありません。
科学的(自然・社会)な好奇心や論理的な思考、批判的な読みを今後一層大切にしていきたいものです。
〜旅のこぼれ話〜
大栄小学校は、なんと名探偵コナンの作家“青山剛昌”の母校だそうです。第1期の卒業生とのこと。校内には、コナンに関わるコーナーやグッズがいっぱいでした。同校の先生方や子どもたちは“探偵”ではありませんが、“探究”の気運があふれていました。
「ラーニング・マウンテン」とは…?
「Letʼs Climb the Mountains of Learning」(学びの⼭に登ろう)の略称で、国語科の三領域における単元の学び全体を“⼭登り”に例え、⼦どもたちが⽬指す頂上(ゴール)とルート(プロセス)をデザインし、⾒える化したものです。筆者のオリジナルです。
コンピテンシー・ベースの国語科授業を⽬指し、 ユニバーサル・デザインに配慮しながら、⼦どもと共に創る学びの実現につなげるねらいがあります。「ラーニング・マウンテン」には、教師が教えたいことを⼦どもたちが学びたいことへ変えていく⼒があります。
単元の導⼊段階で学び全体の⾒通しをもち、学びの中途における振り返りを⼤切にすることで主体性を育成します。同時に、課題の解決と⽬標の達成という頂上(ゴール)を⽬指して最後まで粘り強く、学びを調整していこうとする態度を培っていきます。
※この連載は、月に数回更新予定です。どうぞお楽しみに!
イラスト/大橋明子
かばやま・としろう。早稲田大学大学院教育学研究科卒、教育学修士。鹿児島県内公立小学校教諭、教頭、教育委員会指導主事を歴任後、2006年度から2014年度まで文部科学省国立教育政策研究所学力調査官(兼)教育課程調査官を務める。 2015年度より現大学へ。2022年度より現職。著書に『個別最適な学び・協働的な学びを実現する「学びの文脈」 学級・授業・学校づくりの実践プラン』(明治図書出版)、『読解✕記述 重層的な読みと合目的な書きの連動』(教育出版)がある。