「算数の本質に関わる楽しさ」がある授業をする 【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第23回】

前回は、富山県小学校教育研究会算数部会の副部長として同県の研究をリードしてきた同県公立小学校の前田正秀教諭が、若手の頃に失敗を通して学んだことや工夫したことなどを紹介しました。今回は、前田先生が富山大学教育学部附属小学校時代に、算数の授業で学んでいったことを中心に紹介していきます。

目次
「算数の楽しさって、何だろう?」
前回、110%の仕事をする人に仕事が集まるという話をしましたが、そうして算数の仕事ばかりが増えてきた29歳のとき、富山大学教育学部附属小学校(以下、附属小)へ異動になりました。これが大きな転機になったのですが、最も大きかったのは仲間ができたことです。当時、「厳しい仲良し」という言葉が合言葉になっていたのですが、研究授業後の協議会で厳しい意見を出し合った後、一緒に飲みに行っていました。「授業後に切られなきゃ意味がない」という言葉もよく言われましたが、自身の最大限のものを出し切った研究授業後には、協議会で本当に課題を厳しく指摘し合いました。そこで指摘された課題を改善するからこそ、次の成長に向かえるわけで、そんなふうに厳しい協議を通して、互いを高め合える仲間ができたことは大きかったと思います。
そんな環境の中で算数の本質を追究していきました。附属小に異動して最初にやった研究授業は、3年生の「重さ」の単元だったのですが、そのときに私は「重さの王国の王様から挑戦状が届いて…」というような導入で、子供たちが重さを量っていくような授業を行ったのです。そのときに先輩から、「算数の楽しさって、何だろう?」と大きな問いを投げられました。確かに他の先生の授業を見ると、子供たちが算数なら「算数の楽しさ」、国語なら「国語の楽しさ」を感じて夢中になっているような授業をしていたのです。
それまで私が楽しい授業をしようと思ったら、何かのキャラクターを出してみたり、身近な食べ物や遊びを出してみたり、冗談を交えてみたりといった、打ち上げ花火のようなおもしろさを取り入れた授業になっていました。それによって最初の5分、10分は子供の集中力は高まるのだけれど、45分間を通してモチベーションを持続させることにはつながっていなかったのです。そんなときに先のような問いを投げられることで、「楽しい授業」を追究すること自体は何も変わらないけれど、「楽しさ」の定義が大きく変わりました。「一時の興味・関心をひく楽しさ」ではなく、「算数の本質に関わる楽しさ」がある授業をしようと考えるようになったのです。
そこで、その後の研究授業では、3年生の単元「長い長さの測り方」で、巻き尺の使い方を学習するときに、走り幅跳びの世界記録8m95㎝(マイク・パウエル、米国)の長さに模造紙を貼り合わせ、「これが世界で一番走り幅跳びを跳んだ人の記録の長さだよ」と言いながら広げて見せようと考えました。子供たちが教室からはみ出る長さを見て、「うわっ!」「長い!」と驚くところから授業を始めようと考えたのです。その授業の指導案を見せたときに、算数科の先輩から言われたのは、「教材はおもしろいね。ただし、勝負は授業の最後の感想(ふり返り)だよ」ということです。「授業後の感想(現在なら、ふり返り)で、子供が『幅跳びの長さが長くて、びっくりしました』と走り幅跳びのことを書いたら負けだぞ。『巻き尺を使うと便利だということが分かりました』と、巻き尺(算数の内容)に関わる話が出てきたら勝ちだよ」と言われました。
当然、そんな感想が出てくるためには、「長い!」「測れない!」と教材を見て驚いた後に、「じゃあ、どうやって測ろうか」「物を使って測れるかな」と投げかけながら、子供たちの視点を算数の世界に誘うことが必要になります。それによって、幅跳びに夢中になるのか、算数に夢中になるのかが変わってくるわけですが、結果的にその授業では、「幅跳び」と「算数」が半々だったのです。そんなふうに「算数の楽しさ」について考え始めたのが、附属小の1年目でした。
「あれっ、どうして?」「なるほど」「だったら」
そこから、「算数の楽しさ」は何かといろいろ考えた末、端的に言えば、算数の授業では子供たちから3種類の言葉が出てくることが必要だと考えるようになりました。最初は、「あれっ、どうして?」と算数に関わる疑問が生じ、次に「なるほど」と疑問に対する算数的な解決方法が分かって、その上で「だったら」と、その考え方を他の場面にも活用しようとする心の動きが生まれてくる授業を構想するということです。ところが、そんな授業を構想してみても、まず最初の教材との出合いで、「あれっ、どうして?」が生まれるにはどうしたらよいか、なかなかイメージできないのです。授業公開が近付くたびに知恵を絞るのですが、最初の「あれっ、どうして?」が生まれる教材が浮かんできません。
そこでいろいろ考えた末に、やがて2つのコツが見えてきました。1つ目のコツは、「なるほど」から逆算して演出していけばよいということです。例えば、2年生の「かけ算」の学習ならば、「まとまりのいくつ分で数えると数えやすい」というのが、「なるほど」(という学習のゴール)なのですが、そのために「並んでいると数えやすい」「並んでいないと数えにくい」という事実を演出していきます。例えば、授業冒頭で、「チョコの数を数えてみよう」というゲームを始め、2つのグループにそれぞれ、例えば2つずつに並べられたチョコの写真とバラバラに並んだチョコの写真を、それぞれどんな写真かを知らせずに渡します。当然、2つずつに並べられたグループのほうが先に数えられるわけで、それはグループを変えてやってみても同じ結果になります。そこで、「どうして、こんな差がつくのかな?」ということから、「同じ写真なの?」という疑問が生じ、そこから「並んでいると数えやすい」→「まとまりのいくつ分で数えると数えやすい」という「なるほど」にたどり着いていくわけです。
もう1つのコツは、既習との違いが「あれっ、どうして?」になるということです。例えば、4年生の「面積」の学習では1㎠のいくつ分ということから、長方形は縦と横が分かれば面積が求められるということを学習します。しかし、その先で学習するのが複合図形で、ここでは既習をそのまま使うことはできません。この場合は、2つもしくはそれ以上の長方形に切り分けるという工夫をすることで、既習の方法で面積が求められるわけです。このように、既習とのちょっとした違いを生む教材を工夫することで、子供たちが「あれっ、どうして?」と考え始めていきます。
もちろん、1つ目の「なるほど」から考えるということについては、「授業はゴールから考えなさい」と言われてきていたことです。2つ目の「既習との違い」についても「ずれ」などといった言葉で、以前から表現されてきたことです。しかし、それが自分ごととして、授業づくりの中で整理され、具体的な方法にまで落ちていったのが、このときでした(こうした授業工夫の方法については、次回、さらに詳しく紹介します)。