得意な仕事、好きな仕事は人よりも少しだけがんばる 【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第22回】

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授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」

今回からは、富山県小学校教育研究会算数部会の副部長として、同県の算数教育の研究をリードしてきた富山県公立小学校の前田正秀教諭が何を学び、何を得てきたのかを紹介します。初回となる今回は、算数を専門とするようになった経緯や学級経営上の失敗と学びについて紹介をしていきます。

前田正秀教諭

仕事は110点の仕事をする人の所に集まってくる

私は、大学時代は教育大学で算数を専門に勉強したのですが、特に教師を目指すような何か大きな出来事があってこの道を選んだわけではありません。子供時代には誰でもあると思いますが、宇宙の映像を見たら、「宇宙飛行士になりたいな」と思い、すてきな先生に出会えば、「先生になりたいな」と思い、おいしいものを食べたら、「料理人さんになりたいな」と思い、その選択肢の中の一つに教師があっただけでした。ただ高校の頃には、将来の仕事として何となく「教師になろう」と思うようになっていたのです。

算数の道を選んだのは父からの、あるアドバイスのおかげです。高校時代、文系、理系に分かれるときには、私は数学よりも国語のほうが得意だったので、文系に進もうかとも考えていました。そのときに父が、「将来は得意不得意で決めるものではなく、好きかどうかで決めるものだよ。今、不得意であっても長いスパンで見たら変わっていくものだから、好きなことをやっていったほうがいい」とアドバイスしてくれたのです。それで、好きだった算数・数学を専門にしようと思い、進路を決めました。

何となく教師の道を選んだので、大学時代には特に教育に関わることはしていませんでしたし、採用試験を受けて小学校の講師となり、教員になっていったときにも、「こんな先生になりたい」というビジョンが明確にあったわけではありませんでした。そのため、まず管理職や先輩の先生方から来る仕事は何でも引き受けて、がんばってみようと考えていたのです。そのため、「やってくれないか」と言われれば、ピアノを弾けないのに練習してピアノ伴奏をやったり、パソコンをもっていなかったのにパソコンの担当をしたりしていました。

ただし、その仕事を全部一様にやるのではなく、得意な仕事、好きな仕事だけは他よりもプラス10点で、110点の仕事になるよう少しがんばって取り組むのです。私の場合はそれが算数だったわけですが、そのように取り組んでいると、仕事は自然と100点の人ではなく、110点の仕事をする人の所に集まってきます。当然、同じ仕事が繰り返し来るので、少しずつ専門性が高まっていきます。さらに、繰り返し同種の仕事が来るうちに、大きな仕事も任せられるようになるので、そこでまた大きな力を発揮する必要が出て、さらに成長の機会を得ることができるのです。そのように算数の仕事をがんばったので、30代になる頃には算数の仕事ばかりが集まるようになって、それが私の専門になっていました。

ですから、若い先生方も無理をしていきなり200点の仕事をしよう、などと思わずに、得意な仕事、好きな仕事は人よりも少しだけがんばってやってみてほしいとお話しします。プラス10点の仕事は1回だけならわずかな差ですが、何年も何回も繰り返していくうちに、1.1の階乗で大きな差になっていくわけです。そのようにして、あまり無理をせず、少しだけ好きな仕事をがんばって、専門性を身に付けていけばよいと思っています。

110点の仕事を積み重ねることで算数の専門性を高めていった前田先生。30代の頃には若手向けの算数勉強会を主催するようになっていった。

「子供を好きでいる」ということが学級経営の基盤

学級経営面では、いくつかの失敗を通して学んできました。

最初は、講師になって2年目、初めて高学年を担任したときにちょっとした挫折を経験しました。年度当初、子供たちと知り合ってすぐに、女の子の間で仲間外れのようなものを目にしたのです。「いじめに対しては毅然とした態度で臨むように」と指導をされていたものですから、詳細を確認せず仲間外れだと決めつけて、「ここはしっかり指導をする場面だな」と思ってリーダー格の女の子に強く指導したのです。年度当初で信頼関係もできていない時期に、そんな指導をしたものだから、その女の子に嫌われ、他の女の子たちも次第に「前田って、嫌な先生だよね」という雰囲気になってきました。

最もショックだったのは、掃除のときにメモ書きのゴミを拾ったら、その紙に「前田が近づいてきた。キモい」と書かれていたことです。それまで普通に生活をしている中で、女子から「キモい」「ウザい」なんて言われる経験はなかったものですから、本当にショックで、学校に行くのも嫌になるくらいでした。

しかし、何とかしようと思って私からリーダー格の子に話しかけるのですが、最初は何をやっても無視されます。それでも何とか信頼関係を取り戻そうと思って、いろいろ働きかけたのですが、私が「何とかしよう」と思っている間はうまく関係修復ができませんでした。しかし、ゴールデンウィークを過ぎた頃に、どこか吹っ切れて、「どう思われてもいい。どんな反応であっても、私からはしっかり愛情を注ごう」と思い、返事がなくても普通に声をかけていきました。ちなみに、このときの講師としての担任は1学期間だけだったのですが、子供たちの反応は気にせず声をかけ続けたところ、その1学期の終わりに、このリーダー格の女の子が中心になってサプライズのお別れ会を開いてくれたのです。

そのときに、「ああ、見返りを求めずに愛情を注ぐことが大事なんだな」と思いました。そして、「結局、愛情は伝わる」「人対人のことだから、愛情を注げば必ず届くんだ」と実感したのです。このときの私の愛情は別れ際に届いたのだけれど、もしかしたら別れた後に届く場合もあるかもしれません。しかし、結局、愛情は届くものだと思ったのです。

その後、教員になって最初の頃は、授業づくりよりも学級や全体を動かすことを勉強していました。学級経営の技のようなものを勉強し、次第に技が増えるごとに子供たちを思うように動かせるようになっていったのです。そのようにして、30代の半ば頃には、「自分には子供たちを動かす技もある」と思って、どこか天狗になっていたところがあったと思います。

そんな頃、3年、4年と2年連続して同じ子供たちを担任したときに関係がうまくいかなくなったのです。3年生のときには元気の余る子供たちを技で抑え込んで、言うことを聞かせていたのですが、4年生のときに私の話を聞かなくなってきました。結局は、その子たちに「ごめんね」と謝って、「先生のどんなところが嫌だった?」と話を聞いて関係修復を図ったのですが、そこで改めて、「技に頼って、子供たちのことを考えていなかったな」と反省したのです。

この2回の失敗を通して、私の教育観は変わりました。2年目の失敗は、愛情はあるけれども技術がなかったために起きた失敗だったと思います。しかし、30代での失敗は、愛情があるからこその技術でなければならなかったのに、愛情が確かでないまま技だけで子供を動かそうとしていたわけです。本来は愛情を具現化するための技であるにも関わらず、技ばかりを見ていて、その基盤となるべき愛情を忘れていたわけです。

その後、「子供を好きでいる」ということを、学級経営の基盤としています。この「子供を好きでいる」ということは、あらゆる教師にとって学級経営の原点になると思いますが、愛情は好きだという感情であり、感覚のものなので、本来、自分ではなかなかコントロールしづらいものです。それに対して、「子供を好きになるためには、その子の良いところを見ましょう」と言う人がいます。しかし、私は人の良いところを見ようとしてもなかなか好きにはなれないと思うのです。

そもそも、良い悪いという判断自体、教師である自分の価値観で勝手に決めているものだからです。それよりも、その子が何に困っていて、何を訴えているのか、その子の目線に立ってみることが大切なのだと思います。それは例えば映画を見ているときの感じと似ています。映画を見ていると、だんだん主人公に自分を投影し、気付けば、主人公に感情移入してしまうことがあります。そして、ドラマを見終わった頃には、すっかり主人公が好きになっていたりします。冷静に考えてみれば、結構、はちゃめちゃな主人公だったりもするのですが、それにもかかわらず、不思議と主人公を好きになってしまうのです。主人公の視点で物事を見ているうちに、主人公に情が湧いてくるのだと思います。

若い先生が「子供が好きなので教師になりました」と言うことがありますが、学級の中には、他の子をいじめる子供もいれば、教師に「ウザい」と言う子供もいます。そうした子供たちすべてを「好きになる」のは、簡単なことではありません。問題のある行動をとる子供にも、その子なりの背景や理由があります。だからこそ、その子の目線でその子の行動を見つめることが大事だと思うのです。そうやって見つめることで、気付いたらその子に対する親しみが湧き、情が湧いてきて、好きになっていくのだと私は思います。

よく「教師が変われば、子供が変わる」と言われます。それは教師の心のもちようが変われば、子供の見え方が変わるということです。子供の背景ごと受け入れることができることで、関係が変わり、それによって子供との心と心の交流ができるようになることで、子供の姿が変わっていくのだと思います。

今回は、無理をせずに専門性を築いていく方法や、失敗を通して学んだ学級経営の考え方について紹介をしました。次回は、前田先生の専門である算数の授業づくりを中心に紹介をしていきます。

【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」】次回は、8月24日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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