コロナ禍での学校経営─振り返りと2021年度のための改善のポイント
2021年度はコロナ禍で迎える新年度となります。この危機的状況を乗り越えるために、今どんなことが求められるのでしょうか。コロナ禍での学校経営に必要な考え方や、新年度に向けて各学校で取り組むべきことなどについて、上越教育大学教職大学院の赤坂真二教授に伺いました。
赤坂真二(あかさか・しんじ) 上越教育大学教職大学院教授。19年間の小学校での学級担任を経て、2008年4月より現所属。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。日本学級経営学会共同代表理事。『最高の学級づくり パーフェクトガイド』(明治図書出版)など著書多数。
目次
成功実践例を出し合い、できたことをまとめる
現在は、1週間先ですらどう変わるかわからないという状況で、年度末に振り返って新年度にやろうと決めたことが実践できる保証はありません。各学校で頭を悩ませ、試行錯誤していることと思います。それでも、基本的に学校には、前年度と同じように進めていくというベクトルがあるはずです。まずはそこを守ろうとする場合が多数派かと思われます。
コロナ禍でも上手に学校経営ができている学校は、今年度の取り組みをいかに継続していくかというところに重点を置いているように感じます。現場から話を聞いても、コロナ禍だからどうするかということよりも、コロナ禍でもうまくやってこられたことをいかに継続していくかという視点で戦略を練っているようです。
取り組みが継続される前提でいうと、今年度を振り返るうえでまず重要になるのは、成功実践例を皆で出し合う時間を設けることです。何が効果的だったか、何が子どもにとってよかったか、どうやって授業がうまくできたか、クラスがまとまったか、ソーシャルディスタンスなどの感染予防対策を徹底しながら子ども同士の関係性をつくることに成功したか、などを出し合います。
外部から講師を呼んで研修をすることも大事ですが、3学期に重点を置くべきところはそこではないと思います。自分たちが取り組んできた中でよかったことを出し合い、その成果を共有することが先決です。そうやって土壌をつくることができていない状態では、外部講師に講義をしてもらって学校が変わるということはありえません。
次に、何が効果的ではなかったのか、何をやめたらいいのかということを、なぜうまくいかなかったかという理由も踏まえて考えます。そして、やめたほうがよいものについては潔くやめる決断をしましょう。捨て去るものを決めずに積み重ねるばかりでは、教員が苦しくなるだけです。
話合いの時間を設けて次年度の戦略を練る
振り返りを行う際の有効な手法の一つに、KPTリフレクションがあります(【資料】参照)。私が関わっている複数の学校でも、これを実践しています。
ここまでの学級経営の、K(Keep=できていること)、P(Problem=できていないこと、うまくいっていないこと、やめたほうがいいこと)を振り返り、T(Try=やってみたいこと)を設定します。
振り返りのポイントは、一人ひとりの子どもと信頼関係をつくり、子ども同士の良好な関係をつくるために、次の3つを見ることです。
①今、何ができているのか
②今、何ができていないのか
③今、何をやってみたいのか
そうして今年度の振り返りをして、問題点を洗い出し、チャレンジ事項を決めることで、次年度の戦略が見えてきます。学校経営がうまくいっている学校では、この戦略会議を校内研修に組み込んで、教員同士のディスカッションの時間を十分に設けています。
特に今は働き方改革や感染症対策の影響で、教員同士が顔を合わせたり、話をしたりする時間を削っている学校も多いようですが、そのようなマネジメントは誤りだといえます。短くてもよいので、顔を合わせて話す時間を確保し、なおかつ、その話合いを基盤にして成果を上げていくという意識が求められます。
コロナ禍でも研修の時間を十分にとれている学校の特徴として挙げられるのは、研究主任などの研究の主体となる人物に、「何をしたいか」という願いが明確にあること、さらに、校長がそれを実現するための取り組みを後押しする体制ができていることです。そういった条件が重なると、研修や話合いの時間の優先順位を上げて設定することができるようになります。
取り組みを評価して数値化することが有効
コロナ禍でなくともいえることですが、それまでうまくいっていた学校が新年度につまずく場合の大きな要因の一つとなるのが、人事異動です。一方で人事異動は、学校を変えるチャンスでもあります。今までやってきたことを継続する方向で進めつつ、早い段階で新しいメンバーを研究体制の中に組み込んでいくことが必要になります。
引き継ぎを円滑に進めるために必要なのは、それまでの取り組みを評価し、しっかりと成果を共有することです。自分たちのやってきたことがよかったのか、そうではなかったのかを評価することで土台をつくり、それから次年度の取り組みが始まります。成果が曖昧な状態では、次のアクションが生まれません。
評価する際には、数値化することが有効です。エピソードというものは、その場を経験した人たちにとっては共有しやすいのですが、人が変わると共有が難しくなります。数値として表せば、人が変わっても共有しやすいのでおすすめです。
私が関わっている学校の中にも、客観的なデータがとれるアンケートを活用して、そこから得られた数値を見ながら子どもの実態を見取っているところがあります。数値をとる際に使うのは、学者が作ったアンケートでも、自作のものでも構いません。大事なのは、取り組みの成果をしっかりと見える化することです。
その成果を確認したうえで、成果が出ているところに次年度の取り組みを積み上げていくのか、あるいは成果が出ていないところを引き上げていくのか、といった戦略会議をするという流れになります。次年度の方針を決めるためにも、まずは成果確認が不可欠だといえます。
定期的に立ち止まる時間をつくることも大切
新年度が始まってからの話をすると、走り出したものはなかなか止めることができません。ですから管理職は、意図的に立ち止まる時間をつくるとよいでしょう。今は教員が忙しすぎて、その立ち止まる時間を休みに充てることが多くなっています。休みをとることも大事ですが、休みに入る前に、何ができたか、どこまで進んだか、といったことを確認する時間をとったほうがよいです。
そのときにもやはり数値化しておくと、進捗度の指標とすることができるので、効果的だといえます。ここで注意すべきなのは、決して競争させてはいけないということです。人は数字があると競争したがるものですが、競争すると教員たちが苦しくなっていき、校内研修に背を向けるようになってしまいます。他人の身長がどれだけ伸びたかを見る必要はありません。単純に、自分の身長がどれだけ伸びたかを確認すればよいのです。
特に初等教育・中等教育の前期においては、完成度の高いことを求めるよりも、成果確認をして意欲を伸ばすことのほうがはるかに大事です。教員はすぐに結果を求めたがってしまいますが、それは自分を苦しめることになるだけです。
学校教育の根底にあるのは「子どもを愛する」こと
今回のコロナ禍で、子どもが学校に行く意味が、おそらく歴史上初めて問われました。そして、学校は単なる勉強の場ではなく、子どもたちの居場所であるということが見出され、学校の役割が再認識されました。
子どもたちは、自分がそこにいる意味をどうやって感じるのでしょうか。マズローの欲求階層説の一つに「所属と愛の欲求」があります。人は、愛されることで所属する意味を感じます。つまり、子どもは教師の教育行為から愛を感じたときに、「自分はここにいていいんだ」「いる意味があるんだ」と認識します。笑顔でわかりやすい授業をしたり、よい学級経営をしたりすることはすべて、子どもに「あなたは愛されている存在だ」ということを伝えるための営みなのです。
今こそ、教員一人ひとりが、教育や教師の本質について真剣に考え直すべきときなのではないでしょうか。そして、「なぜ我々は子どもたちを学校に通わせるのか」という問いに本気で向き合い、子どもに「なぜ学校に行かなければならないのか」と問われたときに対応できる明確な答えを用意しておかなければならないと考えます。
これからの時代は、管理職も一職員として、教職員と対等な立場でディスカッションすることが必要だと思います。今は、トップが「こういうものだ」と指示する時代ではありません。「私はこう思いますが、先生方はどうですか」といった具合に、ともに考え、教育観がかき混ぜられていく中で、学校全体を高めていくことが望まれます。
また、そうして話し合う中で、絶対に外してはいけないものも見えてくるはずです。その一つが「子どもを愛する対象から外してはならない」「子どもを一人残らず愛する」ということです。そういった重要なことを、話合いを通して共通理解していく必要があります。
人類の歴史を見ても、危機は人を進化させてきました。この危機的状況は、変えるチャンスでもあります。逆に、この状況下で頭を使って考えなければ、滅びにつながります。ですから学校現場の皆さんには、コロナ禍において学校教育を再編成するくらいの気概をもって取り組んでほしいと望んでいます。繰り返しになりますが、その際には、誰かが答えをもっていて授けるのではなく、皆で知恵を出し合い、それを実現するために行動を起こしていくという意識が重要になります。
取材・文/藤沢三毅(カラビナ)
『総合教育技術』2021年3月号より