教科調査官インタビュー:コロナ禍での低学年音楽科の授業づくり

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新型コロナウイルスの影響でソーシャルディスタンスや3密回避が求められる中、大きな声で歌ったり、吹奏楽器を使ったりする活動が多い音楽科では、どんな点に注意しながら、資質・能力の獲得をめざせばよいでしょうか。文部科学省教科調査官の志民一成先生に教えていただきました。

文部科学省教科調査官志民一成先生

志民一成(したみ・かずなり)●愛知県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。同大学大学院修士課程(音楽教育)修了。静岡大学教授などを経て、2018年より文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官。編著に『音楽を学ぶということ―これから音楽を教える・学ぶ人のために―』(教育芸術社)など。趣味は登山。富士山の山頂からスキーで滑降した経験あり。

コロナ禍では新しい学習方法も模索しよう!

―コロナ禍において、音楽の授業ではどんな点に注意すべきですか?

志民 文部科学省が作成している「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」などにおいては、感染症対策を講じてもなお感染の可能性が高い学習活動として、近距離での合唱や管楽器演奏などが挙げられています。それをご覧になって、戸惑われた先生方も多くいらっしゃったのではないかと思いますが、それぞれの地域、さらには学校によって感染の状況や環境、それから、子供たちの状況や保護者の考え方なども違います。ですから、各学校の実情に応じた対策や工夫をしていただくことが大切です。

その中で最初に挙げられるのは、環境の工夫です。これは先生一人で考えるのではなく、学校全体で話し合って決めます。その際に、合唱等の関連団体や各楽器メーカーなどから出ている飛沫実証実験のデータやガイドラインなどを活用することも考えられます。例えば、歌ったり、リコーダーや鍵盤ハーモニカなどを吹いたりする活動は、体育館や多目的スペース、屋外などの広い空間で行うようにする。また、音楽室や教室で行う場合には換気に注意したり、隊形を工夫したりする。

次に、指導順序の組み替えです。感染状況によっては、歌唱や鍵盤ハーモニカなどは行えないので、例えば、音楽づくりや鑑賞などの学習を先に行うといったことです。これらに関しては、今までやってきた授業に近付ける方向での工夫です。

一方で、違うベクトルで工夫することができるのではないかと思います。つまり、これまでやってこなかった方法で学習できることを探すのです。

例えば、口を開けないでハミングで歌うとか、声で膜を振動させて奏でるカズーという楽器を飛沫が飛ばないように工夫して演奏するとか、音楽に合わせて体を動かすとか、ハンドサインでドレミを表してみるなどです。

ある学校では、授業として行う学習と学校外で行う活動とを関連付けながら工夫されている例も見られました。例えば、リコーダーは授業で長い時間練習することが難しいので、宿題として家庭で練習してきて、ある程度吹けるようになってから、今度は授業で友達とどうやったら工夫できるかを考えるといったものです。

2020年7月に文部科学省から「学校の授業における学習活動の重点化に係る留意事項等について」を発出しました。学習活動の重点化で大事なことは、子供たちが家でも行いたいと思うような動機付け、それから、家で完結するのではなく、練習の成果を子供同士で聴き合ったり、もっとよい表現に工夫したりするところは学校で行うことです。

文部科学省教科調査官志民一成さん

子供が感じたものはすべて正解と捉えよう!

―低学年の子供たちが楽しみながら活動し、かつ主体的・対話的で深い学びを促す授業づくりについて教えてください。

志民 低学年で有効なものの一つに、体を動かす活動があります。音楽を聴いて、ごく自然な表れとして体が動くのが低学年です。そこで、鑑賞中に音楽を的確に捉えて動いている子供に、「すごくいい聴き方しているね」とか、「どうしてそんなふうに動いたの?」と声かけをする。そういったことを大切にしながら、体を動かす活動に入るのも一案です。

それから、主体的・対話的で深い学びとは、授業改善の視点ですから、主体的・対話的で深い学びを実現することが目的なのではなく、音楽科で育成すべき資質・能力を実現することが目標になります。「対話的な学び」でいえば、いろいろな感じ方や考え方に触れることで、一人ひとりの感じ方も広げたり深めたりすることができているか、という視点で授業改善につなげていくことが大切です。先ほどの体を動かす活動でいえば、友達の動き方を見て、音楽の感じ方が広がったら素敵ですよね。

―では、子供を音楽嫌いにさせないために、先生方が注意すべきことはありますか?

志民 音楽に正解はないとよく言われますが、私は逆で、「その子の感じたものはすべて正解」だと捉えています。その子の今までの学習とか経験などが反映されて、そういう音楽の感じ方になっているのだから、それはその子にとっての正解なんです。そういう個々の感覚や思いを大切にしていただくことが重要ではないかと思います。

これは低学年の例ではありませんが、『おぼろ月夜』を「ヌメヌメしてる」と表現した子がいたそうです。1拍目から始まる曲が多い中で、『おぼろ月夜』は3拍目から始まります。拍が微妙に揺れる感じを「ヌメヌメしてる」と表現したのではないでしょうか。その子はどうしてそのように感じたのだろうとか、その背景を考えるのも面白いですよね。

また、鍵盤ハーモニカなどの楽器は、吹けたら吹けただけ面白くなります。ですから、楽器が苦手な子には、まずは見通しをもたせること。こうしたら次の音が吹けるんだといったことを、一歩ずつステップを踏んでやっていけると楽しくなると思います。その際に、友達のやり方を見て工夫してみようとか、友達同士で協働しながら学ぶことが大切です。

もん

低学年の音楽科「新学習指導要領」押さえるべきポイント

―新学習指導要領のポイントについて教えてください。

志民 今回の改訂で、評価の観点に「知識・技能」が位置付けられました。音楽科では、表現の指導の中にも知識を位置付けて、その学習状況を見とっていく必要が出てきたわけです。では、音楽科の知識を低学年でどうやって評価するのかということを、先生方は試行錯誤されていることと思います。

低学年の子供は、音楽について表現する言葉が十分ではない面があります。そうしたときに、体を動かす活動からリズムや旋律が捉えられているかを見とるなど、さまざまな面から総合的に見ていくことが必要です。その際に気を付けていただきたいのは、体の動きで表すことが豊かな子がいれば、そうではない子もいます。絵で表現するのが得意な子もいます。それぞれ得意不得意がありますから、その子が得意なもので見ていくことが大切です。

また、今回、育成をめざす資質・能力で目標や内容が整理されましたけれど、そこを意識して授業を組み立てていくことです。この活動は学習指導要領のどこに相当するのか、どの事項を実現するためにそういう活動をするのかといったことを考えながら、授業づくりをしていただきたいと思います。学習指導要領の事項は、育成する資質・能力で書かれていますから、事項の文末を変えるなどすることで、評価規準として使えるわけです。

―最後に、コロナ禍でもがんばっている全国の先生方へメッセージをお願いします。

志民 コロナ禍に先生方とお話しして感じたのは、やっぱり音楽って大切だということです。音楽によって励まされたり、つらい状況を乗り越えられたりしますから。リモートでも一緒に音楽をしてつながりをもてたとか、音楽のよさを実感したといった声がありました。

その思いは、子供たちも同じです。コロナ禍ではあるけれど、「工夫しながらみんなで歌うと楽しいね」といった気持ちになったと思います。子供たちの気持ちを大切にして、工夫しながらできる活動を実現してください。

取材・文/長 昌之 撮影/西村智晴 

『教育技術小一小二』2021年2月号より

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